111 出発
「いやぁ、道中で馬車に乗せてもらえてよかったな。」
「はぁ、ここまで全員無計画だと笑えるな。」
「笑えないわよ!! 下手すれば私たち死んでたのよ!!」
「ま、確かにそうだな。」
「よく賛成できるな? 俺は残念騎士に賛成するなんて普通にゴメンだ。」
「角内……、いい加減にしろよ。一番まともなことを言ってるのはこの騎士だぞ?」
「えっへん!!」
「ごめん、俺が悪かった、角内。」
「なんでよー!!」
「お前らうるせぇ!! 道中護衛するって理由で乗せてやってんだから静かにしな!!」
一斉に全員口をつぐむ。
馬車から追い出されるのは御免らしい。
「来たか。」
「またゴブリンか? 俺が狙撃で殺そうか?」
「いや、良い食べ物だ。そろそろ、こいつも腹が減ってるらしい。」
「ねぇねぇ、なんのこと? 良ければ教えて欲しいのだけど?」
「「無理」」
福幸と角内が同時に言うと、残念騎士はいじけて拗ねる。
その子供っぽい様子に呆れつつ福幸は、鞘から不屈の魔剣とククリナイフを取り出すと走る馬車から飛び降りる。
ドッ、ガッ!!
車より遅いとは言え時速50キロは下回らない馬車から飛び降りた福幸は本来なら骨折は起こすであろう衝撃を受け、平然と立ち上がる。
「さて、補足できるだけでも四体。ハラの足しには十分だな。」
そう言い、馬車を降りる時にも利用した怒れる獅子を一瞬発動させる。
全身の血液が一瞬だけ沸騰し、身体機能が飛躍的に向上。
そのことを、感じるや否福幸は暴食の霧を纏わせた不屈の魔剣でゴブリンを切り捨てる。
時間にして1秒足らず。
そのレベルの早技で処理したかと思えば、目線を残り三体に向ける。
「腹の足しと、検証に付き合ってくれよ?」
ニヤリ、と。
獰猛な肉食獣が獲物を追い込んだ時の笑みを浮かべると円を描くように身体をしならせ一瞬にしてゴブリン三体を薙ぎ払う。
「微妙、だな。」
ボソッと呟かれた言葉に反して、その動きは見事そのもの。
だが、眉間には皺が刻まれている。
何か気に食わなかったらしい。
何度か、先ほどの動きを真似てみる。
そして、何か納得がいったのか馬車の方を見て慌てて追いかける。
彼が立ち去った地面には、ゴブリンがいた痕跡は溢れ出た血のみとなっていた。
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「微妙に遅かったな?」
「ん? ああ。大したことじゃない。少し動きが気になって剣を振ってたんだよ。」
「へぇ、まあいいか。で、スキルは獲得できたか?」
「いーや、もう既に持ってたやつしか無かった臭いな。」
「そいつは残念。空腹は落ち着いたか?」
「いや,まずいもん食わせやがって!! みたいな感じだ。」
「おいおい、暴食のくせに美食家とかマジかよ。」
「いや、普通に食ってたからおそらく味覚ないんだろ。」
「えー? けどナヒトは普通に美味しいって言ってたけどなぁ?」
「黙れ残念騎士、コイツは俺とは別モンなんだよ。」
「ふーん、まぁ詳しく詮索しないようにするわ。」
「アッソ」
福幸の信用していない返事に軽く睨みつける残念騎士。
だが、それ以上はしない。
残念でも騎士ではあるのだ。
理由のない手出しはしない。
「しっかし、眠いわね。枕ある?」
「あるわけねぇだろ。というか、よくこんな状況で寝ようとできるな。」
「どこでも睡眠できるように鍛えられるものよ? 騎士って。」
「騙されんな角内、こいつが特別図太いだけだ。」
「分かってる、安心しろ。」
「本当貴方たちって酷いわね!!」
ついでに、どこでも寝られるように訓練されるのは本当だ。
だが、彼女ほど自在にねれるのは本人が図太いだけである。
「本当に極限状態での訓練としてあるのよ!!」
「本当か? 極限状態なら余計寝れないと思うがな。」
「俺も賛成だ、福幸。少なくとも追っ手を差し向けられた時は夜も眠れなかったな。」
「だからこそ、よ。周囲の安全を確保した上での心身を休めるための睡眠。極限状態で疲弊して、万全でないから負けました。なんて言い訳は神様は認めても私は認めないわ!!」
「へいへい。」
彼女の話に飽きたのか、馬車の揺れを楽しむ福幸。
ベアリングなどない時代なのだ。
その揺れ様は、まるでホイールだけの自転車のようである。
だが、慣れればどうと言うことはない。
楽しもうと思えば楽しめる程度でもある。
「さて、と。」
福幸は何をするでもなく、目を瞑る。
深く息を吸い、吐く。
それを何度か繰り返し、浮かれていた自分を落ち着かせる。
(やるべきこと、やりたい事は幾らでもある。それを見失うなよ。)
自分に向けた警告、そこに含められた意味は彼しか知り得ない。
三章開幕!!




