表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/153

11 覇王たるもの

「起きたかのぉ?」

「うっ、頭が……」

「大丈夫そうじゃの」

 

 一面の草原(・・)の中、剣姫はそう言うと鞘に入った剣を福幸に渡した。

 

「それは、もうお主のものじゃ。決して無くすでない」

 

 それだけ告げると、椅子に座り優雅に茶を(たしな)みだした。

 

「ここ……は?」

「教えてやろう。我の訓練場じゃ」

「なんで……俺がここに……?」

「はんっ、男子のくせにみっともなく気絶しておるからじゃろ。手っ取り早く我が連れてきてやったのじゃ」

 

 そう言うと、剣姫はティーカップを置きながら睨み付けた。

 それが本当に大事なことだと、言外(げんがい)に含ませているようだった。

 

「ひとつ、問うぞ?」

「何……?」

 

 未だ治らぬ頭痛を堪えながら、福幸は答える。

 

「お主を強くする、これは絶対じゃ。その上で……お主は何のため強くなりたい?」

「其れは……」

 

 言われて、福幸は言葉に詰まる。

 自分から強くなりたいと考えたことはなかった。

 

 そもそも、ここに居られれば一生の安全を約束されると思っていたのだから。

 

 (強くなる? 何を言っているんだ? )

 

 保護されている身分ながら、そう考えてしまうぐらいには平和ボケしていた。

 

「最初に言っておくぞぃ? お主にはあと一ヶ月でここを出ていってもらう」

「はぁっ!?」

 

 恐怖の光景が、脳裏に浮かぶ。

 ゴブリンに怯え、オークに怯え、ドラゴンに怯え、毎度食事に困る日々が。

 

 まあここに来てからも、食事は改善されていないかも知れないが……。

 それでも、あそこより遥かに幸福だった。

 

 手を握り締める。

 爪が刺さる。

 

 昨日の訓練は唐突に始まった。

 理由など聞いていなかった。

 けど、今ならわかる。

 

 (俺を自立させるために、していたんだ)

 

 思い知って、目に涙が浮かぶ。

 悔しかった。

 情けなかった。

 

 高校生になっても所詮、考え方は他力本願である自分に。

 美女に教えを請わなければならない自分に。

 

 そして、そんなことを今さらに考え、考えていなかった自分に。

 

「それで、何のために強くなる?」

「唐突すぎません? なんで、俺は強くならなくちゃ!!」

「甘えるな、愚図」

「っ!?」

 

 体が震える。

 恐怖と同時に歓喜していた。

 否定し貶され、あのときと同じように馬鹿にされ続ける。

 それは怖い、怖いが……。

 

 他人から期待されるより遥かに楽だ。

 他人から押し付けられる無意識的な期待は、福幸に耐えられるほど、軽くはない。

 その重圧に応えるぐらいなら、いっそ(さげす)まされているほうが楽だ。

 

 そうやって、心醜く、やらない理由を用意する。

 

「お主の小賢しい考えなどすべて見通しておるわい」

「何がだよ!!」

「どうせ、応えられぬ期待を寄せるな、じゃろう?」

 

 内心を分かったかのように言われ、心がささくれる。

 事実でなければ、なんとでも言い返すことは出来た。

 事実でなければ。

 

「解ってるなら、俺に構うなよ!!」

「それは、できぬ相談じゃな」

「はぁ?」

「最初から期待などしておらぬ」

 

 剣姫はそう言葉を切り、見つめて。

 そして、一呼吸置いてから言った。

 

「我は覇王ぞ? 民を信頼せぬ王なぞ、おるか」

 

 込められた重みが違う。

 その言葉には、期待じゃない。

 絶対の信頼が込められていた。

 

 支離滅裂、理解不能。

 福幸には理解できない。

 

 何故、ここまで人を信頼できるのか。

 何故、ここまで人に想いを寄せれるのか。

 何故、ここまで自分を信頼してくれるのか。

 

「泣くな、小僧」

 

 ああ、理解不能だ。

 

「理解できぬ感情は怖いかもしれん、が」

 

 ふっ、と笑う。

 

「それがなくては、人は成長せんぞ?」

 

 福幸は、理解した。

 追いつけないし追いつかない。

 人の枠に収まらない人間。

 人というものを理解し尽くした人間。

 まさに、覇王という言葉がふさわしい。

 

「落ち着いたかのぉ? ならば再度、問おう」

 

 理由はできた。

 目標もできた。

 信頼してくれるのならば出来る限り、応えるしかない。

 

「お主は何のために強くなる?」

「俺は……」

 

 ゆっくりと口を開く。

 決まった覚悟は覆せない。

 

「ローズさん、あなたが俺の目標だ。」

 

 そう、言い切った。

 その目は、覚悟の決まった男の目だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ