104 怒れ、叫べ、吼えろ。
福幸の憤怒と、レオの憤怒の最大の違いは何か。
あくまで、福幸の憤怒はレオの物でしかない。
レオの憤怒を福幸が養分として吸収したのと変わりないのだ。
故に、全ての憤怒の権能がレオのソレに一歩劣る。
そこを、福幸は技でカバーした。
一歩劣る権能を過去に積み上げてきた人物の技を借りて本来なら分散するエネルギーを一点に集めた。
故に、絶対的な防御性を持つ忍耐相手に福幸は攻撃を通用させれる。
「また、弾かれたかッ!!」
「ふふ、うふふふ、所詮貴方もその程度なんですわ!!」
(おかしい、明らかにこの権能は俺の攻撃を守ってきた。さっきまで守れてなかった攻撃を……。)
福幸にとっての誤算が二つ。
一つ目は、相手の権能、即ち美徳の能力の誤解。
忍耐の権能は、自身が過去に受けた攻撃を上回るモノでなければ肉体に一切の損傷を与えることができないと言う権能。
つまり、一撃で殺しきれなければ常に先程より強い威力を出さなければならない。
そして、それを福幸はまだ把握できていない。
そして、二つ目。
それは、予想以上に相手が強いことだ。
「バトルアックスじゃないだけマシ、か。」
「あら? お姉様のことを仰ってるので?」
「ご自由に!!」
ガギンッッ!!
どこに隠し持っていたのか、大剣を用いて行われる攻撃は全てが福幸に危険を感じさせる物だ。
憤怒の権能のお陰で一撃で死ぬことはないだろう。
だが、確実に意識は持っていかれる。
なんの気休めにもならない現状把握を行い、再度福幸は剣を構える。
「認識を改める。確かに、これならレオも倒される訳だ。」
「うふふ? 今更改めたところで、あなたの死は確定していますわよ?」
軽く睨みつける。
中に渦巻くレオの意志が、殺せ殺せと合唱している。
「当然だ。必ず殺す。」
目に宿る色彩は炎となり今にも御子を射殺さんとする。
全身の筋肉という筋肉が膨張と収縮を繰り返し、常に自らが出せる最大値を上回らせる。
脳など付属品にすぎない。
必要なのは、全身を回る筋肉とそれを万全に発揮できる技のみ。
とりあえず、福幸は考えることをやめた。
相手を殺す為、一匹の獣となる。
右手に持つ不屈の魔剣は福幸の意志に応えるかのように軽く脈動し、技を伝える。
また、同じだ。
何かに防がれている。
福幸の剣は、御子に当たる前に何かに防がれているのだ。
「無駄ですわ!! 貴方の攻撃は私には届くはずがありません!!」
御子がそう叫ぶ。
それは、安堵のようで、焦りのようで、あまりにも滑稽であった。
福幸の攻撃が当たらないと分かった途端手のひらを返す。
その様子は非常に滑稽で……。
「共有完了、一刺無二」
パリン。
防御が破られ、福幸の攻撃が通用するようになった瞬間の顔も非常に無様であった。
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(この防御、仕組みは分からないが致命的な欠陥があるな。)
福幸は、動きは完全に魔剣に預けて相手の権能の弱点を探っていた。
(少なくともこの防御……、一度壊れれば再構築するまでに最低でも5秒かかる。その間に致命的一撃を与えられれば……。)
福幸の全身が魔剣により勝手に動き相手のナックルを回避する。
この御子相手に、ククリナイフの変則的な攻撃も不屈の魔剣のような単調な攻撃も聞き辛い。
福幸だけの力で5秒で決着をつけるなど土台無理な話だ。
(一瞬でケリをつけれるか!!)
故に、剣に問う。
剣に残された彼の残滓に。
答えは応。
ならば、
「問題ないな!!」
理性が戻り獣性が消え始める。
だが、問題ない。
「借りるぞ!! その憤怒を!! 怒れる獅子!! 怒れ、叫べ、吼えろ!!」
憤怒の完全展開。
肉体が変質し始める。
頭部の骨格が局所的に変化し、体は言葉通り燃える。
その姿はまるで獅子のようで、鬼のようで。
少なくともバケモノには変わりなかった。




