100話記念 ifルート 『バッドエンド』
キーンコーンカーンコーン
鐘の音が静かに教室に響き渡る。
いつもは騒がしいホームルームも、体育の後となれば静かになるモノ。
全員がぐったりした状態で、先生が来るのを待っている。
その時、前の席から順番にバタバタと人が倒れ始める。
誰もその異常に気づかない。
最後に残された福幸はチラリと、窓の外を見て呟いた。
「世界は暗転する」
本人の自覚なく呟かれたその言葉は教室の外にいた黒い男の耳に届く。
「全く、このパターンならエクストラは与えられねぇな。」
パチン。
男が指を鳴らすと同時に世界から
音が消え
光が消え
構造物が消え
曲線が消え
点が消え
境が消え
概念が消えて、再構築される。
「イフルートでも作るか。どうせメインには及ばないしな。」
黒い存在がそう呟くと、二振の刀を同時に振る。
世界がもう一度作り直される。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここ、は……?」
のそり、と立ち上がる福幸。
あたりを見渡すとクラスメイトが目覚めようとしている。
「どこ、なの?」
「は? え、どゆこと……?」
さまざまな疑問の声が聞こえる。
その後ろで、福幸は自分の姿を見る。
「こんな、幸運……。いいのか? 俺に。」
震える声で呟く。
自分の最大の幸福を。
思わずニヤける。
異世界という自分の理想の地点を眺める。
ソコはまるで聖堂のようで
ソコはまるで神の膝下のようで
温かな陽光の元で照らされた30名の子女を照らす中、ニヤけ笑い詠う。
声は出さず、変化はなく、外見は取り繕っている。
されど、心の中は絶叫と狂乱で乱れている。
自分の不幸をここまで有難く思ったことはないと思うほど。
自分の知るものが殆どいない世界を彼は待ち望んでいた。
自分がいるべき世界はあそこではないと心から信じていた。
あそこでは永久に幸福になれないと思っていた少年はある日、道端に転がされていた本をライトノベルを手に取った。
タイトルは語る必要はない。
その本を手に取ったと言う事実が大切なのだ。
その本の内容は良作でも駄作でもなく面白みがあるわけでもなければ下らないと言うわけではない。
異世界に主人公が向かうと言う点以外ひたすらに平凡な物語だった。
けど、その本を読んだ時福幸はどれほど幸せな生活なのだろうか、と思った。
異世界とは、苦労はなく苦痛はなくただただ、『自分』が望むがままに全てが手に入る世界なのか、と。
その日から、心は異世界というまだ見ぬ夢に囚われた。
異世界に行けば何をするかと言う空想を夢想した。
頭の中に敵を描き、チートと言われた無敵のスキルを数多思い浮かべてソレを使いこなし勧善懲悪を行う自分に憧れた。
そんなことは出来るはずがないからこそ憧れた。
不可能こそが、憧れだった。
そして、次第に今の普通の境遇を不幸だと思うようになった。
主人公みたいな話はなく。
ヒロインみたいな女性はおらず。
自分の近くに著名人はいず。
ただの平凡な事を、些細な事を不幸だと思うようになった。
けど、されど。
「俺は、異世界に来たんだ……。 」
小さな興奮が、喜びを生む。
全身から熱が吹き溢れ、その平凡な顔に君の悪い愉悦を浮かべる。
周りなど見えない。
自分が、主人公な世界へときたのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
複数の人物が目が覚め、冷静な判断をくだせる人間が現れたことにより一気に厳かな雰囲気を保っていた大聖堂は騒々しくなる。
ソレを苦々しく睨みながら、目の前にいる一人の老人が叫ぶ。
「ええぃ、静まれぃ!!」
一人の老人の声が響く。
全員が驚き声が消える。
「教皇様の御前であられるぞ!!」
「まぁまぁ、女神エレアレスト様の御教えでは人に差などありません。枢機卿エレファクトも私わたくしをそこまで持ち上げなくともよいのです。」
そう言うと、教皇と呼ばれた女性がキャソックに似た服の裾が地面に着かぬよう周りの者達に持たせ転移者たちに近づく。
「さて、貴方達は女神様からの神徒であるわけですが……」
そこで一旦、言葉を切り唇を舌で舐め乾きを抑える。
の動作の一つが魅惑的で男女を問わず息が詰まらせ魅了される。
「我が、世界に救済をもたらす存在でしょうか?」
「は、はい!!」
興奮冷めやらぬ様子で福幸が食い気味にそう答える。
自分が主人公であると言う、強い妄想によって他のものが見えていない。
頭で考えるより先に脊髄反射で答えたその言葉に重みはない。
否、重みを考えることはないのだろう。
「おい、福幸。」
「ん? 何だよ? 角内。」
後ろから手を置かれて、振り返る。
「いや、ううん。何でもねぇわ、やっぱり。」
「き、貴様らっ!! 教皇様の御前で私語を話すなど言語道断!!」
青筋を立てて怒る老人を微笑みながら見る教皇と言われている女性。
ソレを馬鹿にしたように見る福幸と、少し警戒したように疑う角内。
その雰囲気に、和んだのか他の生徒も口々にとまでは言わないが雰囲気が柔らかくなる。
「あっ,あのっ!!」
「ん? 何でしょう?」
「此処ってどこですか!!」
一人の少女が、疑問をぶつける。
「うーん、難しいですね。貴方達風に言うと異世界ですか、ね?」
子供っぽく、そう告げるとニコリと嗤う。
その姿はまるで妖精のようで嘘や虚偽が入っていると思わせないように暗示をかけられたように感じた。
その姿に薄寒さを覚えたのか角内はブルッと震える。
「どうした?」
その振動は、手から福幸の肩に伝わり疑問に思った福幸から角内に質問がなされる。
「い、いや。なんでもない。」
自分でも不思議と震えた背中を不思議に思い同時にこの空間が少し肌寒いからか、と納得する。
確かに石造りのこの神殿は厳かな雰囲気と共に独特の冷気を発している。
万人を拒む、絶対的な聖域のような雰囲気を持っているのだ。
「お、これってアレじゃね? おいっ!! 小田っ!! お前コーユーの詳しいだろ?」
「えっ、あ、は、はぁ。」
二人の視界の端に陽キャに絡まれている一人の陰キャの姿がある。
ボソボソと、覇気なく喋るその様子は自分はこうはなりたくないと思わせるに十分な程ひどく福幸から見ても憐れみを感じさせる。
「って、そ、そんなこと、い,言われても。」
「何でもいいって、ほら、なんか言ってみろよ。」
ネットならば語尾にwwwがついてそうなノリでそういうと馬鹿にするように鼻で笑う。
「じゃ、じゃぁ。まぁ、て、定番の『ステータス』って、うわあっ!?」
驚きで腰を抜かしたか、尻餅をついた小田は震える手で虚空を指差す。
「そ、そこに、は、半透明の、い、板が……!!」
震えながらそう告げる言葉は興奮よりも恐ろしさを多分に含んでいる。
現実にあり得ないことに対して、理解を超えた超常に対して理解し得る頭脳は持ち合わせていないみたいだ。
「はっ? 腰抜かしてやがんの!!」
「お、お前も言ってみろよ!! ステータスって!!」
咄嗟のことに不器用さを殴り捨てたかのようにタメ口でそう叫ぶ。
「はっ? そこまで言うんだから何かあるんだろうな? 『ステータス』って、うわっ。なんか出たぞ?」
「えっ? マジぃ? 私も私もっ!! 『ステータス』って、本当ダァー。てか、こんなので腰抜かしてる小田っちだっさ〜!!」
「えっ、あ、」
ケバい印象を与えるギャルを睨むように小田は一瞥するとステータスを睨むように見る。
「おや、順応が早いですね。」
コロコロと鈴のなる音のようにそう告げる。
その言葉を聞いた瞬間、福幸と角内に。
いや、クラスメイト全員に突発的な衝動として『ステータス』と、唱えなければならないと言う強制観念が植え付けられた。
「す、『ステータス』」
意識せず言葉が口から溢れる。
いや、本来の発音じゃなかったかもしれない。
実際は、あぅあぁ。という発音だったかもしれない。
だが、口をついて出た言葉は確かに、明確にステータスという意味を持っていた。
福幸の目の前に半透明な、ガラス板のようなものがポリゴン片が集まり生成される。
他者からは見えない自分だけのステータス。
そこに目をやる。
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名前︙福幸 那人
EXスキル
実ガチャ(神)
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そこに書かれていた言葉を見た時興奮して発狂しそうな口を無理やり閉じる。
「さて、予定より大分早くなりましたがステータスも確認していただいたことですし……、お食事会としましょうか?」
その言葉は傲慢で高圧、有無を言わせぬ雰囲気を感じる。
多少なりとも騒々しかった広間は鎮まり、全員が大広間から出て行く。
「どうした? 行くぞ、那人。」
「ん、ああ。」
違和感は無いはずなのに違和感を感じる。
何の違和感かは分からないが違和感を感じる。
その思考を遮ったその言葉は何気ない物であり特に意味はなく。
これから一ヶ月後。
二人は、御子によってダンジョン内で殺された。
簡単に解説すると
福幸の影響で判明した違和感のきっかけが角内に与えれず結果として洗脳、見せしめとして一ヶ月後に赴くダンジョンで殺されました。
ついでに正史では角内はこのタイミングで勇者組から抜け出しました。
作者的に伝えたかった事。
福幸の精神性は本来は自分を不幸だと思い込む平凡な少年です。
故に、不幸で無い状態の新天地を目指し自分が主人公であると望みました。
このルートは途中からソレが肥大化し醜く肥えるお話となります。
続きは描きませんが福幸は本当に平凡な少年です。
そのことを伝えたかっただけです。
本編では、まともではなく歪んでいます。(ニチャァ)




