邪神ちゃん 調査する 1
「さて、請け負ったは良いがどうしたものか……」
次の日の朝から、私は悩んでいた。死生神のやつから調査を依頼されたはいいものの、何も手がかりはないからだ。
街の中を片っ端から一日中探し回れば、幽霊と出会えるのかもしれぬが……
「試験勉強は良いんですの?」
メーラの言う通り、私たちには休み明けの試験が待ち受けているのであった。
ここで良い点数を取らなければ、競技会に出ることはできない。
調査をサボるわけにはいかないし、競技会にも出てみたい。
なかなか塩梅が難しいといった状況だ。
「幽霊の噂話を収集するしかないな。街で実態を見たいが……なかなかそうもいくまい」
噂話の収集であれば、まだ難しい事ではない。使い魔を放ち、後でまとめて聴くだけだ。
今の私にすぐできることはこれくらいか。
「にゃんくろー、頼むぞ」
ごそりとサラの布団が蠢き、中から闇の如き毛色の猫が姿を現す。
こやつ、完璧にサラに懐いておるなぁ……
いや、別に構うまい。私のところで一回も寝てくれないなど、今は全く関係ないはずだ。
「幽霊の噂話を集めてこい。できるだけ広範囲からだ」
そう告げると、にゃんくろーは面倒臭そうににゃあんと一声ないた。
その後、のそのそと窓際へと歩いて行き、姿を消した。
「使い魔、うらやましいですわぁ」
「招来を使えば、即座に手に入るだろ」
「召喚している間、継続してマナの消費があるでしょう。ずーっと呼び出しっぱなしなんて邪神ちゃんくらいですわ」
そういえばそうだったか。魔力をマナへと編み上げるのはほとんど無意識でやっているため、気にした事はなかった。
それに、マナの消費量もそこまで多くはない。複数使役するならば、また話は別だろうがな。
「慣れればそんなものよ。一度呼べば、イメージもしやすいから二度目は大分楽だぞ」
「使い魔系のスキルは抑えてませんもの。やはりどうしても、貴族として役に立つスキルを取りがちといいますか……」
ああ、メーラは自分の将来を見据えて実直に動くタイプであったな。
普段の私への蛮行から、イメージが変な方向に固まっていたが。基本は真面目な人間なのだ。
「使い魔が一匹でも居れば、遠方への手紙などに便利だぞ。特に鳥系統なら尚更だ」
「遠方への手紙……。そうですわね、嫁いだ後のことを考えると良いのかもしれませんわ」
嫁ぐ、という言葉が妙に私の脳裏に響いた。そうか、いずれメーラも嫁に行き、誰かの妻になるのだな。
それは確実に起こる出来事なのだろうが、どこか現実味がわかない。
なぜかいつまでも一緒にいてくれるような、そう感じていた。
「あら、何そんな変な顔をしてますの?」
「いや、何でもない。それよりサラも起こして、朝食へ行こう」
「そうですわね。サラ、早く起きましてよ」
どこか寂しげな表情でもしてしまったのかもしれん。想像を振り払い、現実へ向き直る。
メーラは、私の言葉に応じて、サラを起こしにいった。塊になっているサラの布団を捲るべく、奮闘中だ。
「ん〜……あれ、にゃんくろ〜は……?」
「にゃんくろーは仕事だ。起きて飯に行くぞ」
「私も着替えてきますわ」
メーラはぐーっとのびをするサラを確認すると、着替えのために部屋を出ていく。
私も寝巻きを脱ぎ払い、休日用のシンプルなワンピースに着替える。
母にも言われたが、中々こうした女性っぽい服装にも慣れたものだ。
「ほら、サラ。しっかり起きろ」
いつもはしっかりもののサラも、朝が弱い時はあるらしい。
ベッドの上で座ったまま、ぼーっとしたままだ。
「うーん……もうちょっと……」
「なんだ珍しい」
「なんか妙に体が重いんだよ……」
サラは本当に体が重そうにのっそり動いて着替えをしていく。
風邪でも引いたのかと重い、額に手をやってみるが、そういうことはなかった。
「兎に角、良い時間だ。動こう」
「うん……」
着替え終えた後も、動きづらそうな彼女の手を引いて、部屋を出る。
そこで鉢合わせたのは、同じく眠たそうなニャルテの手をひくメーラだ。
「なんだ、ニャルテもか?」
「そうなんですの? 体が重いって珍しく駄々こねてますのよ」
聞いてみると、ニャルテもサラも同じ状態のようだった。
なんとか二人の手をひき、食堂へと向かう。
「どういうことだ、これは」
着いてみれば、珍しくも食堂はがらんとしていた。
数少ない席に着いている人間も、どこかサラ達と同じように辛そうな顔をしている。
「珍しい……なんてものじゃないですわね」
「うむ……学園全体に何かあったのやもしれぬ……」
一抹の不安を覚えながらも、私たちは朝食を摂るべく席へと着いたのだった。




