邪神ちゃん 里帰る 4
「ありがとうございました」
「よかったら、また来な。アルカもまた戻ってくるんだよ」
なんだかんだで二日ほど逗留した後の朝、私たちは家の前で別れを告げていた。
サラたちもこの何もない村で色々見回ったり、農作業を手伝ったりと動き回っていたらしい。
楽しかったのなら、それで良いのだが。
「あぁ、また戻るようにはしよう。手紙も、な」
「あんたはまぁ、いずれふらふら出歩くんだろう。父親似だね、ホントに」
「そうか、私は父親似であったか。が、安心せよ。そうそう死ぬような真似はすまい」
一度死んでいる事は、秘密だ。あんなこと伝えたら母は取り乱すだろうし、得策ではない。
王との件はいずれグリザリア侯爵から伝わるだろう。その時の反応が見ものだな。
「ま、あんたも安心しな。わたしゃずっとここにいるから。いつでも好きな時に戻ってくるんだね」
「そうだな。好きな時に、戻ってこよう」
母の言葉にどこか安堵を感じながら、抱擁を交わす。
今生の別れではないものの、そうそう毎日会うというわけにもいかないからな。
母にとっては、父を送り出したときと同じ気持ちなのかもしれないな。
「ではな、母よ。息災にな」
「子供に息災だなんて言葉使われるなんて心外だね。あんたこそ元気にやるんだよ」
馬車に乗り込み、窓から手を握る。
別れの握手がすめば、すぐに馬車は進み出した。
「なかなかいい故郷ですわね。貴族生まれでなければ、色々できたのかもしれませんわね」
「いい場所だった。いつまでも見て飽きない」
メーラとニャルテがそれぞれ感想をこぼす。
メーラは何やら農作業が気に入ったらしい。泥だらけで帰ってきた時は心配したものだ。
ニャルテは教会や風車などの風景の方が気に入ったらしい。
一日中いろんなところから村を眺めては、スケッチをしていた。
「王都と違って広々としてていいなって思ったよ。走って遊んだなんて久しぶり」
サラは近場の子供たちと即座に仲良くなり、走り回って遊んでいた。
王都ではなかなかそういうことはできないのだろうか。どこか感慨深そうだ。
「ま、機会があればまた来ることもあろう。なにメーラやニャルテが貴族になってからも抜け出す協力ぐらいしてやる」
「あら、邪神ちゃんたら顔が悪どいですわよ」
「息詰まったら、邪神ちゃんにお願いする」
私の魔法が領域外まで届けば、空間を越えることも楽々できるだろう。
そうすれば、彼女たちがたとえどこにいても会いにいける。
そして同時に、連れ出すことも可能だ。
その可能性に思いをやりながら、馬車の揺れに身を任せる。
次の行き先は、メーラが押さえてくれたビーチだ。
この身になって海は初めていくが、一体どんな風景なのだろうか。
当然、邪神としては海なぞいくらでも見たことがある。
血に染まり、死体と船の破片が浮かび、全ての生き物が絶滅した海を、だがな。
だからこそ、私はこの旅に心が躍っている。
「アルカちゃん、なんか楽しそうだね」
「うむ、この身で何せ初めての海だからな。期待に心膨らむというやつだ」
「いい場所ですわよ。何せ、別荘用だけの浜ですから。綺麗ですわよ」
この村から浜まではちょうど馬車で一日。
途中で一夜明かすぐらいで辿り着ける場所だ。
きっとこの一連の旅は、永遠の思い出になる。
そんな確信を胸に私はしばしの間、目を閉じることにした。