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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
62/208

邪神ちゃん おでかけす 7

「む」

 

 夜番を行い、サラと交代してしばらく経った頃、私の感知範囲に侵入があった。

 ぴりぴりとしたこの感覚は敵意、恐らく何らかのモンスターであろう。

 

 一人テントの中で起き上がり、鎧を着けた。

 まだ二人は起こさぬまま、外のサラに声を掛ける。

 

「サラ、敵襲の可能性ありだ。用意しろ」

「えっ? えっ!?」

 

 わたわたと慌てて武器を取る彼女を尻目に、メーラとニャルテを起こす。

 

「メーラ、ニャルテ。何か近づいてる。起きよ」

「ぐにゅにゅ、邪神ちゃん、そこはだめですわぁ……」

「起きた」

 

 ニャルテはすきっと起きてくれたが、メーラはなぜか私に抱きついてきてまた眠ってしまった。

 気は進まぬが、起こすためには仕方ない。

 

「っひょあぁ」

 

 近づいた耳にふっと息を吹き込めば、変な悲鳴をあげてメーラも目を覚ました。

 

「早々に用意しろ。足は遅いが数が多い」

 

 感知範囲には既に10程度の数が侵入してきた。ウルフ系統かゴブリンか。

 厄介な敵ではないにしろ、数が多いのは面倒臭い。

 

 ばたばたとメーラとニャルテが武具の準備を整える。

 寝ぼけているメーラにはニャルテが手伝いをしてくれていた。

 

「サラ、様子はどうだ?」

「み、見えないけど足おとみたいなのは聞こえたかも。あとギッギッっていう鳴き声……」

「ゴブリンか。狼の類と違って連携するだけの脳はない。武器も粗末なものが大半だ。落ち着いて急所を狙え」

 

 少し震えているサラの肩に手をおき、落ち着かせる。彼女の武器はショートソード。

 ゴブリン相手には十分なはずだ。あとは落ち着いて対処できるかが問題なだけ。

 

「準備できましたわ」

「冴えてきた」

 

 後からメーラとニャルテが顔をだす。二人とも昼間とは打って変わって真剣そのものの表情だ。

 

「よし、数は減らす。一人一体、頑張れよ」

「うん」

「わかりましたわ」

「了解」

 

 言葉をかければあとは私の仕事だ。感知範囲から対象を選び、魔法をぶっ放す。

 

首を(Gwddf)垂れよ(Diferu)

 

 ずんという音の後、ゴブリンの悲鳴が闇に響き渡る。

 それに応じて残りのゴブリンがこちらに駆け出してくるのが感じられた。

 

「くるぞ」

 

 炎に照らされた先に現れたのは、汚い腰蓑を纏った緑肌の小人。醜悪な顔に不恰好な武器を構えてこちらに走り寄ってくる。

 

暴れる(Rampage)(fflam)

 

 意外にも真っ先に攻撃を放ったのはサラだった。

 指先に灯った赤い魔法陣から、炎が渦を巻いて飛び出す。

 それは真っ直ぐに進み、一体のゴブリンを綺麗に巻き込んだ。

 

「今っ!」

 

 それに慌てたのか、ゴブリンがたたらを踏む。

 そして、それを見逃すほど我々は甘くない。

 

 すぐさまメーラが一歩先に飛び出し、手にしたレイピアで心臓の辺りを貫く。

 ニャルテはメイスで頭を叩き潰していた。

 そして残る一匹は……

 

「まぁ、こんなものだろう」

 

 私の長剣の一閃で首を刎ねられ、地面へと転がった。

 これで残るは魔法で足止めをした連中のみ。

 

「残りの始末をしてくる。討伐確認部位の切り取りはまかせたぞ」

「任されましたわ!」

 

 未だ緊張のせいか興奮のせいか肩で息をしている皆をよそに、暗闇に踏み入る。

 少し歩けば、魔法の通りに首を垂れてうずくまっているゴブリンがそこかしこに目に入った。

 

「この距離なら届くか、(decap)(itation)

 

 辺りからどさどさと何かが落ちる音が聞こえる。勿論落ちたのはゴブリンの首だ。

 この魔法、跪かせて首を刎ねるという何とも邪神チックな魔法なのだ。その効果もあって実はお気に入りなのだが、効果範囲が狭いのがいけない。

 

 完治範囲から全ての敵意の反応が消失したことを確認してテントに戻る。

 そこには既に後片付けをすませた三人が焚き火をかこっていた。

 

「おかえりなさい」

「ご無事でなによりですわ。でも後始末がくさいったらありゃしませんでしたの」

「すごい匂いだった」

 

 三者三様で出迎えてくれ、メーラはお茶の用意をしてくれていた。

 

「まぁ全員何もなくて何よりだ。無事、戦闘の洗礼(コンバットプルーフ)は済んだな」

「アルカちゃんがいてくれてこそだから、済んだといえるか、不安だけど」

 

 サラが私の言葉に照れたような言葉で返す。

 

「なに、命を奪い去る覚悟と行動はできたろう。それで十分だ」

「必死だっただけですわ……」

 

 メーラも言葉では自信ありげだったものの、不安だったらしい。お茶を淹れてくれる手が少し、震えていた。

 

「手に残った感触が、苦手。やっぱり私は冒険者とかには向かない」

 

 どこかしょんぼりとした表情で自分の手を見つめるニャルテ。

 確かに彼女のその手は命を奪い去るより、何かを描く方が何百倍も良いだろう。

 

「とはいえ、どこで何があるかわからん。旅すがら襲われることだってあろう。その時初めて剣を握るよりかは幾分かましというものだ」

 

 私の慰めとも取れる言葉に、三人とも僅かに笑顔で返してくれれる。

 この後、私たちは興奮のせいか寝ることができず、皆で焚き火を囲みながら話を続けたのだった。

 

 

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