邪神ちゃん おでかけす 6
「ん〜柔らかくて骨まで食べられそうですわね」
メーラが伯爵令嬢とは思えないぐらいの勢いで魚に齧り付きながらいう。
確かに彼女の言葉の通り、獲れた魚はとても柔らかい。
名前までは知らないが、大量に獲れたそれらは、必要分串にさして焚き火に掲げている。
「同じ焼き魚ってだけでも、外で食べるとちょっと違うね」
「パンが硬いのが難点……」
そうなのだ、支給されたパンはサバイバル用ということもあるのだろうが、硬い黒パンだ。
別にスープも作って柔らかくしながら食べているが、ここはやはり柔らかいパンがほしかった。
そうすれば魚とよく合っただろうに。
「空も綺麗だし、冒険者の人っていつもこんな感じなのかなぁ」
サラが空を見上げながら呟く。そんな楽な商売ではあるまい、とは思うがここは彼女の感動を壊してもあれだ。黙っておこう。
確かに彼女の言葉の通り、空は澄み切っており、星々が綺麗に瞬いている。今日が無月の日なのが残念なぐらいだ。
「とはいえ、実習は夜が本番。交代の夜番に、モンスターの動きも活発になりやすい。気を抜くなよ」
「それも、そうですわね。ちょっと緊張いたしますわ」
「なに、護衛もついているのだから、最悪の事態にはなるまい。それに私がいるだろ?」
私の言葉に不安げな表情をしだしたメーラを励ます。なに、交代で夜番とはいえ念のため私はずっと起きているつもりなのだ。
感知の範囲内にモンスターが引っ掛かれば即応できるし、この山にでる程度のモンスターで私を倒すことはできない。
つまりどうやったところで安全といえば安全なのだ。
「でも、アルカちゃんに頼るだけじゃ駄目だと思うし。私たちも頑張るよ」
「そうですわね。何でも頼りっきりでは経験にもなりませんし」
「寝ないのは得意」
三者三様で覚悟を決めたらしい。なんとか彼女らの努力がいい方向に実ることを祈りたいところだな。
「あら、そろそろお魚がなくなりそうですわね」
「あいかわらずアルカちゃん、結構食べるよね。栄養どこに消えてるんだろ」
私の前には串が一山ほどある。一応皆のことを考えて遠慮気味にしているのだが、それでもついつい食べてしまう。
食べた栄養は……こう、少しでも身長に行ってくれることを望む。未だに私はこの四人の中で一番身長が低いのだ。
いや、それどころか、クラスの中でも低い部類に入る。結構食べているはずなのに、謎なものだ。
「うーむ……不思議なものよ。さて、私は夜番の用意をしよう。皆は備えて早々に寝るようにな」
串の山や残った骨を土に埋めて片付けるとテントに戻る。夜番用に鎧を着けるためだ。魔道具の明かりに照らされたそこは、薄暗いものの中を確認するには十分だ。
使い古された革鎧はところどころ痛みが見られるが、まぁ十分だろう。
ブーツを履き、金具を留めて整えていく。
「しかし、人間か。なかなかに勝手は違うが楽しめる。これで某女神のやらかしがなければ最高なのだがな」
体を動かし、違和感がないことを確認する。剣を腰に下げ、髪を括れば準備完了だ。
「よし、あとは任せろ。時間になったら起こすから、各々準備しておくのだぞ」
「「「はーい」」」
三人の返事が重なる。どうやら魚は全て食べ終えたらしい。片付けももう、殆ど終わっていた。
再び焚き火に近づくと、煙の匂いが鼻をつく。嫌な匂いではなく、どこかこころ休まるような香りだ。
薪となる枝を放り込むとぱちぱちという音が心地よい。うーむ、魚だけでなく肉もあれば最高だったのだがなぁ。
そう贅沢もいってはいられまい。冒険者なればそうそう今日みたいなご馳走で過ごせるなどないはずなのだ。
テントの方ではごそごそと音が聞こえ、やがて灯が消える。
さぁ、サバイバル実習の本番はこれからだ。




