邪神ちゃん おでかけす 2
「良いサバイバル日和ですわね」
「まぁ晴れなきゃ、晴れた日にやるってだけの話だけど」
サバイバル自習当日。なんやかんやと喋りながら、私たちは山道を歩んでいた。
目的地は山の中腹にある沢近辺。丁寧にも推奨ルートまで書かれている。
整備もそれなりにされているし、よっぽどでもない限り迷うことはないだろう。
「ごめんねアルカちゃん。全部もってもらって」
「なに、適材適所というものよ。この程度ならマナの消耗も少ないしな」
荷物は予定通り、私の亜空庫に放り込み、皆借りてきた鎧と武器だけといった身軽な格好だ。
私も右目がまだ見えない分、長剣を杖がわりにして歩いている。
邪神であったころは出歩くことイコール破壊を齎すことだっただけに、この山の風景は新鮮だ。
今のこの身となってからは、見るもの全てが美しく感じてしまっていけない。
「あと一時間程度も歩けばつくだろう。ニャルテは体力大丈夫か?」
「ありがと。まだOK」
一番体力が少ないと懸念されていたニャルテも必死に頑張っている。息は上がっているが、魔法をかけてやるほどでもないらしい。
「さぁ今日の晩御飯は何にいたしましょう……」
「さすがに材料は持ち込み禁止だから、焼き魚とかになるんじゃないかなぁ。最悪採れなかったら晩御飯抜きとか」
「まかせろ、それも対策はできている。邪神流の魚採りを見せてやろう」
暑い最中とはいえ、山の中は影が豊富で気温が低い。時折吹いてくる風も生暖かいものではなく、汗を拐っていく涼しいものだ。
鎧さえつけていなければもうちょっと涼しく過ごせるのであろうが、不足の事態というのもあるからな。
しばらく黙々と歩いていると、僅かに水音が聞こえるようになってきた。目的地の沢が近づいているのだろう。
「うーん、涼しげな音、ちょっとした深場があれば水遊びもできそうですわね」
「一応実習だから遊ぶのは……」
「邪神ちゃんが魚さえ採ってくれれば万事オッケーですわ。ここまでニャルテが頑張ってくれたおかげでかなりハイペースで来られたでしょう?」
そうなのだ。外歩きが苦手といっていたニャルテも、その汚名を返上すべく日々努力していたらしい。
結果、今日は結構なハイペースで進んでいるも、ニャルテは食いついてきている。この努力精神は見習いたいところだな。
それより伯爵令嬢のはずのメーラがここまで元気な方が以外だ。彼女こそ一番体力に弱いと思っておったのだがな。
「ほほほほほ、考えていることはわかりますわ! でも私、じっとしているより走るほうが好きですの」
あぁ、なんかそれは想像できる。待てといっても止まらない犬あたりが容易に頭に浮かぶな。
「ほら、見えてきましたわ! ちょうど良い具合に広場もあっていいキャンプ地ではありませんか!」
「うん、だからサバイバル実習……」
「いーえ、邪神ちゃんまでお仲間にいれたこれはもはやただの遊楽ですわ! キャンプですわ!」
「楽しそうで何よりだ」
沢の姿が見えると同時にメーラが走り去って言ってしまう。
足元に気をつけろよ、という前に岩をひょいひょい登って進んでいってしまう。
全く、令嬢らしくない。
「ここー! ここですわ! ここをキャンプ地とする! ですわ!」
その河原でちょうどよい広場を見つけたらしい。メーラがピョンピョン飛び跳ねがら、私たちを呼び寄せる。
沢から程よく離れ、高さも確保できているそこは、確かに安全にテントを張ることができそうだ。
私たちもニャルテに最後の喝を入れると、その場所へと向かった。