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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 幼少編
55/208

邪神ちゃん 勝利す 2

「あ、起きた?」

 

 体を起こし、サラの声にあたりを見回せば、そこは保健室のベッドだった。

 どうやらあのあと、担架で私を運んできてくれたらしい。

 恐らくサラだろう、服もご丁寧に普段着用のチュニックが着せられていた。

 

「先生がね、右目の中を火傷してたからお薬ぬったって言ってたよ」

 

 右目に覚える僅かな違和感はそれか。なんとも丁寧なことだ。右目には再び包帯が巻かれている。

 

「現場は落ち着いたのか?」

「うん、ザメル君が連行されてって、あとはスムーズに。優勝はバルムンク君だって」

「だろうな。あやつは頭抜けておったからな」

 

 しかしザメルの奴め。あれ以上は何かやらかさんだろうと思っておったが、よもやあそこまで間抜けとはな。

 魔法神のやつが口がうまく回るとも思えん。降って沸いた幸運と思って飛びついたのだろうな。

 お粗末な話だ。

 

「はいるよー」

「うむ、よいぞ」

 

 声とともにカーテンを開けて入ってきたのはグリザリア侯爵だった。

 その顔には僅かに疲れが読み取れる。どうせザメルの一件で色々問い詰められたのだろう。

 

「やー君が無事でよかったよ。これで大怪我ならまだしも死なれてたら、僕の首まで飛んでたね。あっはっは」

「まぁ完全に無事かといわれるとそうでもないのだがな。まぁお前に被害がなかったのなら重畳だ」

「あ、アルカちゃん……貴族様だよ? ちゃんとした話かたしないと……」

 

 サラが私の背中に隠れてぽそぽそと忠告してくる。

 だが

 

「ああ、いいんだよ。僕と彼女はそういう関係なのさ。お互い持ちつ持たれつ。肩っ苦しいのは仕事だけで十分だね」

「ということだ。サラも気にせずともよい。貴族本人が堅苦しいのを嫌っているのだからな」

「はい……。でも、あれ? アルカちゃんとそういう関係って……ご結婚されるんですか?」

「あっはははははは面白い事いうね。僕の年齢的にはばっちりだし好みにもはまってるけど、邪神ちゃんはどうかな?」

「ふん、反吐が出るな」

 

 大笑いするグリザリア侯爵に呆れた目で私を見てくるサラ。このぐらいの雰囲気がちょうど良いのだ。

 

「あっはっは振られちゃった。あーあ、残念。プランの一つではあったんだけどなぁ」

「思いもせん事を、お主の狙いは私の私兵化だったろうに」

「それでも、だよ。さてそんなことより、事の結末だよ事の結末」

 

 グリザリア侯爵が軽口を叩いたあとにパンと手をたたき真面目な表情に戻る。

 

「ザメル君は強制退学処分。退学通知つきだからどこの貴族も雇わないし、冒険者にもなれないね。ま、田舎にもどって性根を叩き直すしかないってわけ」

 

 あの猿め、ついに退学になりおったか。これでようやく平穏が訪れる。やつ以外に私に絡んでくるのはそうそうおらんからな。

 ましてや前みたいにサラを人じちに取られたり、メーラやニャルテまで狙われた日には対処が難しくなるところだった。

 これは良い処断だと評価できるだろう。

 

「アルカちゃんには、邪神を一応退けたってことで勲章授与するんだって。後日僕の屋敷で打ち合わせだよ。ドレスも考えないとねー」

「なんだそんな堅苦しいものはいらんぞ……」

「まぁまぁ、受けとけば今後外国に出る時にも有利だし。損はないと思うよ」

 

 うーむ、良いように使われる未来しか思い浮かばんのだが……

 まぁこれを断れば、王宮内に無用のシコリを残すだけか。

 大人しく従うしかあるまい。

 

「お陰様で僕は怒られたり褒められたり大忙しさ」

「私を抱え込んでいると、またそうやって厄介ごとがやってくるやもしれぬぞ?」

「何を今更。それに人生にはスパイスがなくちゃね。ただのお貴族様やってるだけなら別に僕じゃなくていいしね。僕はどうせなら楽しみたいのさ」

 

 なんとも腹が据わっているやつだ。だがまぁ、こういう人物に支えられて私がここにいるのは否めない。

 

「それよりもだ、もらった夜光石なのだがな」

「うんうん、役立った? あれ探すの苦労したんだよねぇ」

「今日ので溶けた」

「えっ?」

 

 笑顔のままグリザリア侯爵が固まる。

 

「今日のザメルの一件で使いすぎてな。オーバーヒートを起こして溶けてしもうたわ」

「あ、あははははははは。あれ結構な値段したんだけどなぁ……。また探しておくよ」

「うむ、できれば金剛石だとありがたいな。耐久度が段違いだ」

「それとなくハードな要求してくるよね、邪神ちゃん。まぁ僕んところの子がやらかした事だから頑張るけどさぁ」

 

 苦笑しながらも彼は願いを受け入れてくれた。金剛石ともなればそれだけで結構な値段がするのだが。

 それでも受け入れてくれるあたり、きっと邪神としての魅力に魅入られたというやつだな、きっと。

 

 そう気分を良くした私はベッドから勢いよく立ち上がった。

 

「アルカちゃん下あああ!」

「おっとこれは役得。あ、ごめん、叩かないで叩かないで」

 

 どうやらチュニックは着ていたのだが、下は用意されてなかったらしい。

 立ち上がってしまった私は二人の前に盛大にパンツを晒し、サラには枕を投げられたのだった。

 ちなみにサラは恐れもなくグリザリア侯爵を平手でたたき、部屋から追い出していた。

 まったくもって強い子である。

 兎にも角にも、これで第一の邪神騒動は幕を閉じたのだった。 

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