邪神ちゃん 戦闘す 2
「次! アルカ・セイフォン! ザメル・ハント!」
名を呼ばれ、装備を整えて舞台へ上がる。闘技場の石畳からは照り返しの熱が体を焼く。
「戦神、トリグウェンの名の下に、清廉なる決闘を!」
開始の言葉とともに、大きく一歩退く。
早々に押し切るのも手の一つだが、メリエーヌの言葉が確かなら何かは仕込んでいるはず。
少しは様子を見ておきたい。
「なんだ、ビビってんのかよ! 無能のアルカ!」
何やら猿がキーキー喚いているが、さほど問題はない。後ほど圧倒すればよいだけだ。
今の所、特に変わった気配はなし。
「そうか、ならば受けてみるか?」
体を落とし、地を駆けるようにして近づく。
が、その途中で違和感。なんだろう一瞬、ほんの一瞬ではあるが細い糸で絡め取られたような感触だ。
その違和感は二度三度と続き、調子を乱される。
「ちっ」
「なんだよ、くるんじゃなかったのか?」
ザメルが異変を感じて引いた私を煽る。これは──
「貴様、使っているな?」
「何のことだ? 証拠でもあるのかよ!」
証拠、証拠か。確かにこの修練場は、魔法が使えないように大型の結界がはられている。
もちろん抜け出す手はあるのだが、ザメルにその様子は見られない。
この状態では私の覚えた違和感だけが証拠、それでは弱いだろう。
「こねぇなら、こっちからいくぞ!」
ザメルが首を捻る私を見飽きたのか、駆け込んでくる。不恰好な戦略も何もない走りだ。
振り上げられた剣を防ごうと剣を掲げると、また違和感。
慌てて飛び下がろうとするもまた違和感。
「くっ──」
結果、私はザメルの一撃を胸鎧で大きく受けることとなった。
同時にバチンという音と共に肩の鎧が留め具を失い、地面に転がる。
「このまま全員の前で、この間みたいに素っ裸にしてやるよ」
「やれやれ、発情した猿が学園に混じるとは、度し難いな」
奴の目的はそれらしい。どうにも色欲に飲まれた脳みそしか持ち合わせていないようだ。
しかし、この違和感の原因を突き止めねば、それこそ真っ裸にされかねない。
再び駆け寄ってくる奴の攻撃をなんとか防ぎながら後へ下がる。
「ほらほらほら、どうだぁ! 俺のが強いんだよぉ!」
やつの剣筋には何ら驚異は感じない。だが、それとは別にどんどん鎧の留め具が弾かれていく。
今や、肩と腰の鎧はどこかへ転がり、残るは足と胸のみだ。
奴にこんな細かい芸当ができるとは思わない。
ならばもう、仕掛けは決まっている。
「どうなんだよ! 這いつくばって詫びてみろよ!」
次の一撃が弾ける。運が良いのか悪いのか。弾き飛ばされたのは、私の眼帯だった。
魔法を使わない場だと思い封じもしていたし、使うつもりもなかったのだが……
奴がそのつもりなら、私も圧し潰すまでだ。
「おらぁ!」
裂帛の気合いと共に放たれた見えない一撃を空中で掴む。
そのまま手にマナを込め、握りつぶす。
「つまらん、つまらんぞザメル。その身に修練を積み上げ私に至るどころか、他の手を借りて威を張るとはな」
「んだとぉ!」
次の一撃が弾ける。胸鎧の留め具が弾け飛び、地面に落ちていく。
「ま、まぐれじゃねぇか! もうあとはねぇぞ!」
「後がないのは貴様だ猿。神の名のもとの決闘を汚した罰をその身で味わうがよい」