邪神ちゃん 堪能す
「うむ、これは良いものだ」
あの大騒ぎの後、私たちは会計を済ませてメーラの宣言通り、甘味処へと足を運んでいた。
出てきたのは、紅茶ベースのシフォンケーキに生クリーム、そしてシロップに漬けたブルーベリーが彩られたものだ。それも私の分だけ山盛りに。そしてケーキの味は、私の口を満足させるのに十分なものだった。
「口いっぱいに頬張る邪神ちゃん……天国とはここですわ……」
目の前のメーラはケーキに手もつけず何やら呟いているが、今相手すべきは彼女ではないだろう。
紅茶の茶葉が練り込まれたケーキはさっぱりとしていて、生クリームの甘さを際立たせる。そしてブルーベリーのほのかな酸味は、飲み物として出されている紅茶の味を引き立ててくれている。うむ、この甘味は本当に良いものだ。食べて無くなるのが惜しくなるな。
メーラを除いて他の皆もこの美味しさには言葉もでないらしい。黙々と食べ続けている。
しかしこの味、そして立派な店構え。そこそこの値段がするのではなかろうか。私の手持ちは先ほどの服を購入した所為で残りわずか。
一抹の不安が残ってしまう。
「邪神ちゃん、ご安心くださいませ。ここは私が招待した店。勿論私が持たせていただきますわ」
さすが御令嬢だけある。懐は豊からしい。さすがにこの申し出はありがたい。散々弄ばれた甲斐があったというものだ。
「あの……でも悪いよ……」
「サラ、甘えておけばいい。メーラの頭はいま邪神ちゃんで一杯だから」
おずおずと声を上げるサラをニャルテが抑える。うむ、今回は彼女も巻き込まれた身。恩恵は受けても良いだろう。
「いいのかなぁ……」
「かまいませんわ! もし気負いがあるのでしたら──」
言い淀むサラにメーラがこそこそと耳打ちして何か紙袋を渡す。
「えぇっ!? えぇ……」
「それが対価で構いませんわ。ささ、お願いしますわ」
「うーん……あ、アルカちゃん。今度これ着てくれる……?」
サラがメーラから受け取っていた紙袋を私に渡してくる。
「ふむ? かまわぬ……が……」
メーラを経由しているとはいえ、サラからの願いだ。無碍にはすまいと二つ返事で受け取るが……
中身は何と形容したら良いのだろうか。薄く透けるような生地でできたドレスのようなものだった。
「これで私にどうしろというのだ……」
目の前でその服を広げ、根源であるメーラを睨みつけてしまう。こやつ、一体何を考えているのやら。
「一度、一度でいいですの。それを着て私と閨を共にいたしましょう。ね、ね?」
「何やら嫌な予感しかせぬのだが……。しかし一度は頷いた身。約束は守ろう」
「やりましたわ! サラ! ブラボーですわ! やはりあなたを誘った私は正しかったのですわ!」
嬉々として声を上げるメーラ。サラはその勢いに完全に怯えてしまっている。
ちらちらとサラの目がこちらに向くのは、申し訳なさからだろうか。
いやいや構わぬとも。サラが楽しく甘味にありつけるのであれば、この身が遊ばれることぐらい受け入れよう。
「まぁなんでもいいんだけど。メーラやっぱり気持ち悪い」
ニャルテが今日描いたスケッチブックを確認しながら呟く。
だが言葉に反してその目は満足げだ。
「いや、変なポーズ取らされて描かれたのも相当なのだが……。どんなものなのだ?」
首を伸ばして彼女の手元を覗き込む。そこには写実的に描かれた私の姿があった。
控え目に言っても、そんじょそこらの画家よりは上だろう。それほどまでに巧に描かれていた。
よくぞあの短時間でこれだけのものを仕上げたものだ。
そんなことを思いながら眺めていると、ついとスケッチブックが閉じられてしまう。
「……恥ずかしい」
「いや、描かれた私の方がはずかしいのだが……。上手いではないか」
「満足した」
言葉少なく、だがんふーと満足げに息を吐きながら呟くニャルテ。
マトモな部類の人間だと思っていたのだが、メーラと付き合っている分、彼女もどこか変なのだろう。
失礼かもしれぬが、類は友を呼ぶというやつだ。
「ささ、食べてくださいな。季節限定の甘味を楽しみましょう」
メーラに促され、再び目の前のケーキに向き合う。
少し冷めた紅茶もその渋みとケーキの甘さで絶妙なコンビネーションを味わわせてくれる。
偶にはこうしてゆっくり過ごす、というのも良いかもしれんな。
紅茶を傾け、目の前できゃいきゃいとはしゃぐメーラを見ながら、そう思った。




