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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 幼少編
49/208

邪神ちゃん 堪能す

「うむ、これは良いものだ」

 

 あの大騒ぎの後、私たちは会計を済ませてメーラの宣言通り、甘味処へと足を運んでいた。

 出てきたのは、紅茶ベースのシフォンケーキに生クリーム、そしてシロップに漬けたブルーベリーが彩られたものだ。それも私の分だけ山盛りに。そしてケーキの味は、私の口を満足させるのに十分なものだった。

 

「口いっぱいに頬張る邪神ちゃん……天国とはここですわ……」

 

 目の前のメーラはケーキに手もつけず何やら呟いているが、今相手すべきは彼女ではないだろう。

 紅茶の茶葉が練り込まれたケーキはさっぱりとしていて、生クリームの甘さを際立たせる。そしてブルーベリーのほのかな酸味は、飲み物として出されている紅茶の味を引き立ててくれている。うむ、この甘味は本当に良いものだ。食べて無くなるのが惜しくなるな。

 

 メーラを除いて他の皆もこの美味しさには言葉もでないらしい。黙々と食べ続けている。

 しかしこの味、そして立派な店構え。そこそこの値段がするのではなかろうか。私の手持ちは先ほどの服を購入した所為で残りわずか。

 一抹の不安が残ってしまう。

 

「邪神ちゃん、ご安心くださいませ。ここは私が招待した店。勿論私が持たせていただきますわ」

 

 さすが御令嬢だけある。懐は豊からしい。さすがにこの申し出はありがたい。散々弄ばれた甲斐があったというものだ。

 

「あの……でも悪いよ……」

「サラ、甘えておけばいい。メーラの頭はいま邪神ちゃんで一杯だから」

 

 おずおずと声を上げるサラをニャルテが抑える。うむ、今回は彼女も巻き込まれた身。恩恵は受けても良いだろう。

 

「いいのかなぁ……」

「かまいませんわ! もし気負いがあるのでしたら──」

 

 言い淀むサラにメーラがこそこそと耳打ちして何か紙袋を渡す。

 

「えぇっ!? えぇ……」

「それが対価で構いませんわ。ささ、お願いしますわ」

「うーん……あ、アルカちゃん。今度これ着てくれる……?」

 

 サラがメーラから受け取っていた紙袋を私に渡してくる。

 

「ふむ? かまわぬ……が……」

 

 メーラを経由しているとはいえ、サラからの願いだ。無碍にはすまいと二つ返事で受け取るが……

 中身は何と形容したら良いのだろうか。薄く透けるような生地でできたドレスのようなものだった。

 

「これで私にどうしろというのだ……」

 

 目の前でその服を広げ、根源であるメーラを睨みつけてしまう。こやつ、一体何を考えているのやら。

 

「一度、一度でいいですの。それを着て私と閨を共にいたしましょう。ね、ね?」

「何やら嫌な予感しかせぬのだが……。しかし一度は頷いた身。約束は守ろう」

「やりましたわ! サラ! ブラボーですわ! やはりあなたを誘った私は正しかったのですわ!」

 

 嬉々として声を上げるメーラ。サラはその勢いに完全に怯えてしまっている。

 ちらちらとサラの目がこちらに向くのは、申し訳なさからだろうか。

 いやいや構わぬとも。サラが楽しく甘味にありつけるのであれば、この身が遊ばれることぐらい受け入れよう。

 

「まぁなんでもいいんだけど。メーラやっぱり気持ち悪い」

 

 ニャルテが今日描いたスケッチブックを確認しながら呟く。

 だが言葉に反してその目は満足げだ。

 

「いや、変なポーズ取らされて描かれたのも相当なのだが……。どんなものなのだ?」

 

 首を伸ばして彼女の手元を覗き込む。そこには写実的に描かれた私の姿があった。

 控え目に言っても、そんじょそこらの画家よりは上だろう。それほどまでに巧に描かれていた。

 よくぞあの短時間でこれだけのものを仕上げたものだ。

 そんなことを思いながら眺めていると、ついとスケッチブックが閉じられてしまう。

 

「……恥ずかしい」

「いや、描かれた私の方がはずかしいのだが……。上手いではないか」

「満足した」

 

 言葉少なく、だがんふーと満足げに息を吐きながら呟くニャルテ。

 マトモな部類の人間だと思っていたのだが、メーラと付き合っている分、彼女もどこか変なのだろう。

 失礼かもしれぬが、類は友を呼ぶというやつだ。

 

「ささ、食べてくださいな。季節限定の甘味を楽しみましょう」

 

 メーラに促され、再び目の前のケーキに向き合う。

 少し冷めた紅茶もその渋みとケーキの甘さで絶妙なコンビネーションを味わわせてくれる。

 偶にはこうしてゆっくり過ごす、というのも良いかもしれんな。

 紅茶を傾け、目の前できゃいきゃいとはしゃぐメーラを見ながら、そう思った。

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