邪神ちゃん 理解す
「あつはあついな」
「何を言いたいのかわからないけど、身だしなみはきちんとしないとだめだよ」
「あついからやだ」
自室のベッドの上で私は伸びていた。窓からは時折涼しい風が入ってくるものの、暑いものは暑いのだ。
そこで身だしなみ云々言われているのは、私の服装がパンツに長いシャツ一枚のみだからだろう。
暑いのだからしかたない。そう、すべては暑いのが悪い。
「それに何を今更」
「え、まさか食堂とかにもその格好で行ったの!?」
「お陰で涼しくすごせたな」
きちんと服装を整えてもよいのだが、そうすると上半身にしろ下半身にしろ、暑いのだ。
それに肌に布が張り付く感覚はあまり好きではない。
サラがいなければ素っ裸で寝たいぐらいだ。
「どうりでまた男の子の間でいろいろ噂されてたんだ……」
「私がどうかしたのか?」
「対面に座れたら桃源郷だとか色々言われてるんだよ!」
桃源郷とはまた変な話だな。あれは伝説上の場所であって私の対面なんぞに存在するものではないはずなのだが……
「まぁ桃源郷ならば良いことなのではないのか?」
「屈むと色々丸見えだし、椅子のこと注意したのに足開いているから色々見えてるって意味!」
「こんなもの見たところで何の得があるわけでもなかろう」
「んんんんんー! 思春期の! 男の子には! そうじゃないの!」
ちょっと怒ったそぶりのサラの勢いに押されて黙ってしまう。ザメルらもそうだったが、こんな脂肪の塊や布をみて何も楽しいことはあるまいに。
「そうはいうがな、サラだってこの間パンツ丸出しで寝て……」
「女の子同士はまだいいの!」
「むぅ……」
これが所謂、性差による考え方の違い方というやつなのだろうか。
邪神時代は特に考えたことはなかったが、この身が女である以上は少しは考えたほうがよいのだろうか。
それで魔法の威力が向上するのならばよろこんでするのだがな。そういう効果はおそらく見込めないだろう。
「まぁ別に良いではないか。誰も損はしておらぬ」
ごろりとベッドに仰向けに転がる。髪の毛がばさりと広がる音が聞こえた。
「損……うーん……女の子としての何かは確実に減ってると思うけど……」
サラはしばらくうんうん唸っていると、私のベッドに上がってきた。
「パンツまるみえ」
「部屋の中だから良いだろう」
「日頃から気をつけるの!」
そういうと私の服の裾を直し横に並ぶと、耳を近づけてくる。
「えっとね、男の子がよろこんでるのは──」
「ふむ? ……うむ」
「──で──で──だから……ね? 大人しくしないといずれアルカちゃんが痛い目に合いそうだなって……」
「つまりあれだな? ザメルや、やたら私の対面に座りたがっている連中は、私に性的興奮を覚えているということだな?」
「こ、っここ声がおおきいよ……」
なるほど、事ここに至って理解できた。周りの連中は私を邪神としてみず、一人の女として捉えていたわけだ。
だから人間の男女がそうであるように、私の肢体なりなんなりをみて発情していたと。
それならばサラやメーラが私に大人しくしているように言ってくる意味もわかる。
この世界の一般的な女性ならば、私のようなことはすまいからな。
だがしかし、それはそれ、これはこれなのだ。
「だが私に実害があるわけではないからな」
「この間の私の一件で直前までいってた!」
「お、おお?」
「もっと体を大事にしてよぉ……」
ついには泣き出してしまったサラを抱えて宥める。
うーむ……体の性差がここまで大きなものとは理解をしておらなんだ。
今後一体どうしたものか。いや、私は私だ。ここで変に変わるわけにはいくまい。
私はぐすぐすと泣き続けるサラを抱きかかえ、一晩をすごした。