邪神ちゃん 選ばれる
「やっぱりすごいね、アルカちゃん」
「と、言われてもだな。私としては特段何かをしたつもりはないのだが……」
ある日の武技の授業中、修練場で中等部生が催す武技大会の参加者選抜があり、なんとはなしに私はそれに残ってしまった。
魔法や武器で補助していない人間が私に勝てないのは明白。スキル差はあれども、ステータスの差でそれをひっくりかえせるだけの差があるのだ。
それに私自身も修練をサボっていたわけではない。確かに初期は武術Ⅰだったが、今では武術Ⅱに到達している。
魔法より進度は遅いが、それでも前に進んでいるのだ。
「相手になりそうなのはー……軍務卿お抱えのバルムンクか、騎士の生まれのメリエーヌとかかな?」
今の私はメーラやニャルテ、サラに囲まれてどうやって優勝までいくかを練っているところだ。
私自身に特に優勝にこだわるつもりがないのだが、ここで負けていたら邪神の沽券に関わると焚きつけられて、話を聞き入っている。
「両方とも教科書剣術で対処はしやすいんだけど、バルムンクは武術Ⅴに体術Ⅲおまけに心眼をもってるって噂」
情報の出どころはニャルテだ。彼女は普段の会話は少ないが、こういう情報系が非常に得意だ。一体どこで収集しているのやら。
「メリエーヌは体術Ⅳだけど、痛覚Ⅲと不屈がやっかいだね。打たせて打つ。本番は革鎧着用でやるから、効果は如実かも」
「さすがはニャルテだな。よく調べている。」
「別に。そこらへんに溢れてるものをまとめただけ。はいこれ」
私が手持ち無沙汰なのをさっしてニャルテからこっそりクッキーが差し出される。
うむ。クドすぎない甘さにさっくり焼きあがっていて非常に美味だ。
「あと一人だけど、候補としてはヨルテ村のグンダやタンテラ村のヨードとかがまだ甘いけど、上がりそうかな」
「んむ、まあ問題にはなるふぁい」
「アルカちゃん、口に食べ物いれたまま喋らないの」
サラはまるで私の母親のようだ。昨今の事件以来、どうも頭が上がらない。
「邪神ちゃんでしたら、全員を一手に引き受けようとも余裕ですわ!」
「なんであんたが断言してんの」
「いや、私とて魔法を封じられたら一対多はなかなか厳しいからな?」
一人盛り上がっているのはメーラだ。彼女はいつでもテンションが高い気がする。
彼女も武技は苦手なようで、早々に敗退して私たちの輪に入り込んでいる。
「魔法抜きな分、純粋な力と技量の問題になるだろう。正直──」
そこまで喋ったところで、周りから歓声というか驚きの声が上がった。
その声の原因を確かめるべく修練場を見ればザメルが誰かを打ち倒していたところだった。
「へぇ、サボってばかりだけど素養はあるんだ。これで因縁の対決再び、かもね」
「勘弁してくれ。今度も何を仕組んでくるかわかったもんじゃない」
対戦相手を見下ろすザメル。その顔には喜びも何もなく、ただ暗い笑みがあった。
そして微かに漂う"邪神"の匂い。
この学園の何かに干渉でもしているのか? さっさと尻尾を出してくれる分には構わんのだが、今の私に邪神を倒すだけの力はない。
そこらへんの兵士なんぞよりかは強いのだろうが、神を倒しうるほどではないのだ。
考え事をしているとぐるりとザメルの首が動き、こちらを見つめる。
その表情は気持ちの悪い笑みのまま。まるで次の獲物はお前だとでも言わんばかりだ。
後に引く不気味さをのこしたまま、大会の選別は進んでいった。




