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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 幼少編
44/208

邪神ちゃん 憎まれる

「どうして俺がっ! こんな目に遭わなきゃいけないんだ!」

「どうしてもクソも調子乗りすぎたからじゃないっスかね」

 

 修練場の端、草が生い茂るそこでザメルと取り巻きの二人は草むしりをしていた。

 当然自主的にではない。先般引き起こした事件への罰としてだ。

 幸いアルカもサラも特に何もいわなかったため、事件は男三人が変態的な格好で這いずり回っていた、という程度で収まっている。

 だが、ザメルは何一つ納得していなかった。本来ならばあの場でアルカをやり込め、そして自身のモノとして扱うことができたはずだったのに。

 その考えのみが頭を占めていた。全てはあともう少し、もう少しだったのだ。

 

「もうちょっかいだすのやめましょうよ……学園退学なんてなったらシャレになんないですよ」

「うるっせぇ! 俺はあいつのあの見下した態度が嫌ぇなんだよ!」

「その割に下心まるだしだった気がするっスけど……」

 

 草むしりに監視の目はついてないと言えども、仕事量でサボったかどうかの判断はされる。

 ろくに仕事しなければ、待っているのは『退学』の二文字だ。

 ザメルにしても、取り巻きの二人にしてもたまたまスキルが良かったがために貴族から推されて入っている身分。

 退学などになったら、約束されていた明るい未来などあろうはずもない。

 気分は悪いながらも、三人とも黙々と草むしりを続けていた。

 

「くそっ、大体あいつは卑怯なんだよ。無能のアルカのくせに魔法も武技もできるとか、おかしいだろ!」

「元は知んねぇっスけど、それなりに努力したんじゃないスか?」

「俺にも魔法の才能がありゃ、あんなやつ──」

『魔法があれば、倒せるって?』

 

 ザメルが途中まで口にしたとき、辺りに不気味な声が響く。

 女の子どものような声で、コロコロとした可愛らしい声だ。

 だが、その声はどこかひび割れており、時折ノイズのようなものが走っていた。

 

「だ、だれだ!?」

『どこ見てるの? こっちこっち』

 

 ザメルが慌てて声の元を探る。

 そこはちょうど修練場の角にあたるところ。その影が誰もいないにも関わらず、不自然に人の形を作っていた。

 

『そんなに怖がらなくてもいいよ。ボクは君の味方さ』

 

 背後に取り巻き二人を隠しながら、相対するザメルを影が嘲笑う。

 

『キミはアレに勝ちたいんだろ? 勝って平伏させ、己のモノにしたいんだろ?』

「だ、だからなんだってんだよ!」

『知ってるかもしれないけど、アレは神の加護持ち。そう簡単には倒せない。だからきみに良いものをあげよう』

 

 ずるりと影から一本の剣が現れる。

 地面にがらんと音を立てて転がったそれは、刀身に至るまで黒く、塚には5つの宝玉が埋め込まれていた。

 

『5種類の魔法が使えるようになる魔剣さ。どうだい、キミの願いを叶えるに足ると思うけど?」

 

 恐る恐る、ザメルがその剣を手にする。伝わってくるのは剣が秘める膨大な力。そしてそれを振るい、アルカを屈服させる自分の姿だ。

 勝てば全て自由なのだ。身包みを剥ぎ、己の足元に侍らせるのも……

 

 胸の奥に仄暗い決意を灯すと、ザメルはその剣をぐっと握り占めた。

 

「なんで、俺にこの剣を?」

『そりゃ決まってるだろ? ボクが"邪神"だからさ』

「なんでぇ、ここに邪神がいるってことはあいつは偽物かよ」

 『そ、ボクこそが邪神。それじゃ、頑張ってね。吉報を待ってるよ」

 

 子どもの声で不気味に笑うと、人型を保っていた影が崩れて消えていく。

 残ったのは"邪神"と称するものから授かった剣と、冷たい風のみ。

 

「っはは、ははははははは! 風が向いてきたぞ!」

 

 剣を掲げ、ザメルが哄笑する。

 目立つはずのその状態を見咎めるものは、誰もいなかった。

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