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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 幼少編
43/208

邪神ちゃん びびる

「む……」

 

 武技の授業を終え、教室に向かうとメーラが待ち構えてた。

 その顔に浮かんだ満面の笑みに、思わず後退りしてしまう。

 ちょうど良いことに、常識人の鑑たるサラがいる。すかさず壁になってもらった。

 

「ああ〜お姉ちゃんの影に隠れて怖がってる邪神ちゃん、可愛いですわ! ね! ニャルテ」

「私はあんたのテンションにゃついていけないよ」

 

 なぜか我らのその様をみてメーラは盛り上がってしまったらしい。正直言って、怖い。

 邪神時代、我らの行動一つで怯えていた人間をわらっていたが、謝ろう。

 怖いものは怖い。特に意味不明なものなら尚更だ。

 

「でもでも、そんな怖がらないで。これな〜んだ」

 

 メーラが後ろにしていた手から一つの半透明な粒を取り出す。

 まさかそれは──

 

「ニューウェル堂の新作の飴。果物に頼らない完全な砂糖の甘みの一品ですわ」

 

 ごくりと喉がなる。

 よもや、こいつ食べ物で邪神を釣ろうなどと考えているのではないだろうな。

 そう考えている間にも、メーラは私に見せびらかすように、その飴玉を目の前にもってくる。

 黄金色のそれは、近づけば砂糖の甘い香りがするぐらい濃厚らしい。

 メーラが右に左にと飴を動かすのを思わず顔で追っかけてしまう。

 

「ほ〜ら怖くないですわよ〜」

 

 飴を餌に、サラの背後から引きずりだされる。いや、これは自分の意志で出て行ったのだ。メーラなんて怖くない、怖くないのだ。

 上下左右と飴を追いかけていると、やがてメーラの胸元に飛び込む形になっていた。サラよりも豊かな胸部は柔らかく私を迎えいれ、香は嫌みではない程度にほんのり香ってくる。

 

「おや、いらっしゃいませ邪神ちゃん。私の抱き心地はいかがです?」

「程よいな、固さも柔らかさも、香りも良し。それより飴をだな」

「さしあげますわ。はい、あーん」

 

 メーラの声に飴の所在を確かめると、なんと彼女が口に咥えていた。

 この程度で私が躊躇うと思うなよ………!

 そっと交差するように彼女の唇に口をよせ、飴を確保すると同時に、舌で完全に飴を奪い取る。ふむ、飽きのこなさそうな優しい砂糖の味わいだ。甘露、甘露。

 絶技を思い知ったか、と思いながら振り返るとメーラの顔は真っ赤に染まっており、周囲の生徒たちはざわめきたっていた。

 そして私の前には手刀を振り翳したサラ。

 

「デリカシー!」

 

 一直線にサラの手刀が私の脳天を捉える。衝撃で思わず飴を落としそうになるがそれはギリギリで回避できた。

 しかし痛い。防御力自体も単純な人では辿り着けない数値のはずなのに、なぜこうもサラの手刀は響くのか。

 思わず頭を押さえ、涙目になる。邪神のくせに涙目とか、と思う輩がいるかもしれんが、本当に痛いのだ。

 

「なぜだ……私は飴を受け取っただけだぞ」

「口から口はだめですー! せめて指でとりましょー!」

「外から帰ったばかりだから指より口のが良いと思ったのだが……」

「だーめーでーすー! アルカちゃんのえっちバカ変態スケベ!」

 

 何故そこまで言われねばならんのだ。一体サラの中で私はどういう人間に仕上がっているのやら。

 それよりもこの飴だ。口溶けもよく、常にやんわりとした甘みを伝えてくれる。

 いつもなら、メーラは飴の小瓶を隠している。ならば今日ももっているはずだ。

 

「今日のはこれだけですわ! 貴重な一品ですの!」

 

 そうはいってもどこかに持っているに違いない。

 サラの視線から逃げるようにメーラに抱きつき、色々なところをまさぐる。

 

「ああ、積極的邪神ちゃん! 良いっ!」

「……」

 

 ニャルテの冷めた目は置いておいて、どこかには飴の小瓶があるはずなのだ。

 あちこちをさすり、もみ、探る。

 

「あら〜おいたする邪神ちゃんにはお返しをあげますわね」

「きゃんっ」

 

 メーラの膝にのり、背中がわに何かないか探っていると、唐突に首筋を舐められた。

 それどころかいつの間にか腰回りを手で、足も足で抑え込まれてしまっている。

 全身に嫌な予感がはしる。まさか先日のあれをここでやるつもりでは──

 

「邪神ちゃんの耳はマシュマロですわ〜」

「ふにゃっ……やっ……らめてっ」

「今日の私は食虫植物なのです。不用意に近づいたのが敗因ですわね」

 

 抱きしめられた腕で至る所を揉みしだかれる。神罰の効果はまだ有効なようで、チカチカとした火花のような感覚を脳に伝えてくる。

「サラっ……サっラっ……たぁけてっ……」

「アルカちゃんはそれで少しは反省したらいいと思うの」

 

 唯一の救い手であろうサラに声をかけてみたが、返ってきたのは非情な言葉だった。

 結局この拷問のような行為は、私が本格的にギブアップを宣言するまで延々と続いたのだった。

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