邪神ちゃん 分からせられる 3
「……やりすぎましたわ」
「うぇっ……ぐすっ……やめれってゆったのに……わぁったっていったのに……」
同級生の話の中心、そこで私は膝をかかえてべそをかいていた。
幾分子供っぽいとは思うものの、中々涙は止まらない。
それも全てはメーラがどれだけやめろといっても私を弄り倒し、泣いても叫んでも許してはくれなかったからだ。
しまいに私は全身に襲い来る感覚に耐えきれず……。いやこれは考えるまい。
私のしでかしてしまった後をサラが片づけてくれている。まるで彼女は母だな。
「ザラぁ……たすけてってゆったのにぃ……」
「偶には罰を受けるのも邪神ちゃんのためかなって思って……。ごめんね、ここまでなるって思ってなかったの」
片付けを終えた彼女に、砕けた下半身を引きずって抱きつく。
メーラの側は危険だ。彼女もきっと何かの神の加護をもっているにちがいない。
「あの、もうしわけありませんでしたわ」
「ひぃっ……」
謝罪の言葉を口にしながら、メーラが私の手をつかむ。
同時に心にもない怯えた声が喉を突いた。なにせ恐怖はこの身に嫌というほどねじ込まれたあとだ。私とて怖いものは怖いのだ。
だが彼女も流石に反省をしているらしい、上目遣いでこちらを見るめは潤んでいる。
「あぁ、嬌声を上げながら身を震わせる邪神ちゃん。そして最後には感極まったが故の──」
「言うなっ!」
思わず手近にあったクッションをメーラに投げつける。見事にメーラの顔面に命中したそれは、うまいこと彼女の言葉を遮ってくれた。
反省しているなどと思ったこちらが悪かった。こやつ、何も反省しておらんな、間違いなく。
「ゔゔー……」
しかし、これだけの衆目の中であのような醜態をさらすなどと、私でもさすがに恥という感覚はあるのだ。
これもすべて審判神が余計なことをしていったからだ。そうに違いない。
心の中で『帰ったらしばくリスト』に審判神の名を書き加える。
「でもこれで少しは理解なされたのではありませんか? 男はみな狼、狙われたら今のようなこと程度ではすみませんわ!」
ベッドの上にメーラが立ち上がり、吼える。
この言葉に否やを唱えるだけの気力はもうない。私は大人しく首振り人形の如く、首を縦に振った。
「そして! 邪神ちゃんの普段の行動は狼を呼び寄せておりますの! お分かりになって!?」
ここまで行ってメーラがベッドから降り、私に視線を合わせる。思わず目を逸らしそうになるが、逸らしたら負けだ。
要は気をつければいいのだろう、気をつければ。行動に一部制限をかけるのはこそばゆいのだが……。二度とアレはごめんだからな。
「少なくとも! 足は閉じる! スカートで立ち回るなら下履きを穿く! 男子への不用意な接触はしない!」
肩をがっしりと掴まれたまま間近で説かれる。
がくがくと何度目かわからぬ首肯で同意を示した。彼女にはもう目はつけられたくない。
「もし破ったら……今日のがほんの序の口だと思い知らせてさしあげますわ」
メーラのにたりとした笑み。それに背筋に氷を差し込まれたような怖気を感じた。
まずい、これはまずい。本格的に気をつけねば貞操にまで問題がでるやもしれぬ。
「やりすぎはだめだけど……メーラさんの言う通りだと思うの」
恐る恐る視線でサラに助けを求めてみたものの、その答えは残酷なものだった。
「サラぁ?」
「アルカちゃんは、一度しっかり反省すべきだと思うの」
「した、したからぁ……」
救いを求めて抱きついてみるも、サラの意志は固いようだ。
「もう男子の前で着替えようとしたりしない?」
「しないぃ……」
「熱いからって上着全部脱いだりしない?」
「しない、しないからぁ……」
どうにもこの肉体の年齢に大分精神が引き摺られているらしい。私の口からでるのは情けない嘆願の声ばかりだ。
だがそれもさりなん。メーラの攻めはそれ以上に辛かったのだ。ましてやどこぞの女神の所為で5倍の感度などという状態でだ。
それもいつ解除されるかわからぬ。神罰故に、最悪死ぬまでこのままということもありうるのだ。
早急に、早急にどうにかせねばならぬ。
「何かサラが結局一番役得なきがしますわ……」
「メーラが変態なのが悪い。あ、今度からベッドに近づいてこないでね」
私はしばらくの間べそをかきながらサラに縋りつき、周囲の人間は私の醜態の話で盛り上がるのだった。
メーラ、覚えておけよ……私はこの屈辱を忘れんからな!!