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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 幼少編
23/208

邪神ちゃん 対決す 1

「体を動かすのは久々な気がするな」

 

 翌日、私は本当に久方ぶりに武技の授業に参加を許された。

 医師から傷が完全に塞がったことのお墨付きが出てやっとのことだ。

 とはいえ、一気に全力というわけにもいかぬ。何せ視覚が半分欠けているのだ。

 今はサラに相手してもらい、感覚を再度掴んでいる最中だ。

 

「やはり、なかなか右側からの攻撃は把握しづらいな」

「そう言いながらも、私の攻撃全部捌いてるからすごいよね」

 

 何、手加減を加えて貰っているのだ。そのくらいは何とかできる。

 辺りには木剣がぶつかり合う甲高い音が響く。

 ぐるりと視線を巡らせれば、その中にはあの猿の姿もあった。

 ようやっと謹慎が解けたらしい。後の事は学校が決める事。私が関与することもないだろう。

 だが、その授業に挑む姿勢はどこか荒れたものを感じさせる。

 

「ちっ」

 

 ふと視線が合った瞬間、舌打ちをされた。全く態度がなっていない猿だ。

 野生から少しは人へ回帰したかと思いきや、何も変わっていないらしい。

 

「おい」

 

 しばしサラと打ち合っていた頃、背後から声を掛けられた。

 声の主は猿だ。その右手には木剣を提げ、どこかニヤニヤした表情でこちらを向いていた。

 

「こないだの決着、ついてねぇだろ。ここで白黒つけようぜ」

 

 あれで決着がついていないと思うのはこやつぐらいだろう。

 その笑みは、視界を失った私に負けるはずがないという自信からか。

 

 

「ちょっと! アルカちゃんは目を怪我してるんだよ!」

「うっせぇ! ブス! お前にゃ関係ねぇだろ!」

 

 サラが私を庇ってくれるが、猿から掛けられた怒声に涙目になる。

 その言葉は、なかなか許せるものではないな。

 

「どうなんだよ! 逃げんのかよ、無能のアルカ!」

 

 猿に呼び捨てにされる謂れはないのだがな。

 教師は離れたところで指導を行なっていて、こちらに気づく気配はない。

 これは面倒だが、相手してやる他はないだろう。

 もう一度痛めつけてやれば、少しは学習するかもしれん。

 

「いいだろう。今回は決着後に悪あがきをしないことだな」

「アルカちゃん……」

 

 サラが心配そうに声をかけてくる。恐らく私の右目が関わるからだろう。

 だが、見えなくとも()()()()()()()()()()()()

 サラの安全を確保するために、少し引き離して猿と向き合う。

 

「いくぞ、オラァ!」

 

 掛け声と共に、猿は私の右側へと駆け込んでいく。

 そこは私の死角。見えない位置に入り込まれ、対応は遅れる、はずだった。

 

「予測と違わん動きをするとは、面白味のかけらもないな」

「なっ」

 

 私の掲げた木剣は、違うことなく奴の剣を受け止めていた。

 奴の表情までは拝めないが、その声からさぞかし驚いた顔をしているのだろう。

 重なった木剣がぎしりと軋む。

 

「なんだ、死角からの攻撃を防いだことがそんなに不思議か?」

「う、うっせぇ!」

 

 木剣が引かれ、再び猿は死角へと回り込む。

 が、それらはすべて()()()()()

 見えないはずの場所からの攻撃を2合、3合と防ぐ。

 

「なんでだよ! 見えねぇはずだろ!」

 

 さすがにこれだけ続けば、勘付いたのだろう。

 ザメルが叫び声を上げる。

 

「なに、私の本分は魔法使い(キャスター)だ。微量の魔力を這わせて流れを読めば、貴様の動きぐらい視えるさ」

「これは武技の授業だろ! 魔法使ってんじゃねぇよ、卑怯者!」

 

 これはまた面白い事を言う、私を指して卑怯者とはな。

 

「決着が付いた後に攻撃して目を潰し、あまつさえその死角から攻撃をしかけてどうにかしようなどと考えている猿に言われたくはないな」

「このっ!」

 

 ザメルがやぶれかぶれといわんばかりの攻撃を放つ。だがそれは悪手よな。

 受けた剣を受け流し、踏み込みで大きく開いた足を払う。

 それだけでバランスを崩した奴は、再び無様に地面へと転がった。

 

「今度は文句のつけようがないようにその素っ首、このまま圧し折ってやろうか」

 

 腹を踏みつけ、奴の首筋に突きつけた剣に力を込める。木剣の刀身がめりめりと首にめり込んでゆく。

 苦し紛れか、下から奴の木剣が薙ぎ払われる。が、それを左手でつかみとる。

 

「貴様は二度挑み、二度とも無様に負けたわけだ。何か言い訳はあるか?」

「て、てめぇ……!」

 

 木剣越しにごりごりとした骨の感触が伝わる。足元の猿は痛みからか、苦しげな表情だ。

 

「三度目は、ないぞ。これに懲りたら、一々絡んでくるんじゃない。わかったな」

 

 猿は最早声を出すこともできないらしい。悔しげに口を噛み締め、僅かに頷いた。

 

 

 

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