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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
188/208

邪神ちゃん 巻き込まれる 23

「いやはや、競技会でも名高い"邪神ちゃん"様にご加勢いただけるとは、光栄の極み」

「な、なんなんだ。"邪神ちゃん"様とは。言いにくくないか?」

「いえいえ、国内でも最早英雄とも呼ばれる方をちゃんなどと、とてもとても」

 

 次の戦場へ向かう馬車の中、私は行先の領地を受け持つ貴族と席を同じくしていた。

 前の豚貴族と違って細身な彼は、なんとかおべっかを並べ立てて私の機嫌でも取ろうとでも思っているのだろうか。

 それ以上に不安や焦りもあるのだろう、先ほどから饒舌だ。

 

「我が領は名目ばかり広く、実質荒れ野原でして、はい。戦力もほとんどが農民を兼ねているぐらいなのです。今指揮をとっている我が息子も指揮官として有能とはとても申し上げられません」

 

 私が次に配属されるのは、最も南方の戦線だ。

 この国は比較的気候が穏やかで肥沃な土地が多いと思っていたが、どうもそんなところばかりではないらしい。

 彼が言うには、土地としてもっとも遅く開拓された地域で、まだまだ野谷山林が多いのだとか。

 そういう土地まで狙ってくるとは、ファラント王国はよっぽど切迫詰まっているらしい。

 

「そこでですね、"邪神ちゃん"様にはそのご慧眼をもって、我が息子にご指導いただきたく……」

「む、そうは言われてもな。私もどちらかというと前線で暴れ散らかす方が得意な方なのだ。戦術であればステラやリカルドの方が得意だったであろうな」

「いえいえ、教えていただきたいのはその前線での心構えなのです。どうにも我が子ながら臆病者でして」

 

 臆病というのは往々にして悪く言われがちだが、こと戦術単位においては私はそこまで悪く思わない。

 何故ならば、臆病だからこそ慎重になるし策を練る。

 相手の出方を伺い、できる限り高い効果を最小限の被害で出そうとする。

 これは臆病だからこそできる事。

 最悪を予見してこそ策士たる。とはよくいったものだ。

 

「伝令によれば、すでに戦線は国境から大分押し込まれているのです。ここで対策を打たねば、今後が恐らく厳しくなるかと」

「ほう、お主の土地に何かあるのか?」

「領地の殆どが荒れ野原の私が辺境伯たる所以です。大規模な地脈瘤と、ミスリル鉱山があります」

「なんとな。中々に恵まれている土地ではないか」

 

 地脈瘤は、地脈のエネルギーが滞留する場所。そこには地脈結晶ができやすい。

 その上にミスリル鉱山とは。まさに魔剣作りに励めといわんばかりの構図ではないか。

 たしかにこれが取られれば、産業的にも戦略的にもあまり良いとは言えないだろう。

 

「それもよりによって国境付近にございまして……。今まで手を凝らして隠匿はしていたのですが……」

「どこからか、漏れたか」

「はい、向こうは明らかにそこを狙ってきています」

 

 最も最悪は地脈瘤に端末を感染させられた時か。

 位置的に王都と直通はしておらんだろうと予測はできるが、だからといって看過できるものでもない。

 向こうの狙いがはっきりしているのが唯一の救いといったところか。

 

「それで、今はどうやって防いでいるのだ?」

「これはご内密に願いたいのですが……。坑道や繋がる道を全て爆破いたしました」

 

 思ったより大胆な行動を取るではないか。それをすれば、ファラント王国を撤退させた後に再開発が大変だろうに。

 

「何せ国境ですからね。こんな事もあろうかと、元より全ての経路に爆薬をてんこ盛りしておいたのです。今は緊急路を残して全て瓦礫の下ですね」

「くはははは、私としてはそういう思いっきりは好きだぞ」

「はっはっは、敵兵も一部一緒に埋もれてくれました。しかし、働き蟻の如く黙々と瓦礫を運び通路を復活させようとしているようでしてな」

 

 ファラント王国側は防衛と瓦礫撤去両方に人員を割く余裕があるということか。

 それはそれで、結構な人数を投入してきたとみえる。まぁ埋蔵資源の事を考えれば当然だ。

 そうなってくると、それだけの人数をどうやって完全に排除するかまで考えねばなるまい。

 

「臆病だけで片付かないのが、そこが原因なのです。戦場は集中していますが、何せ敵軍の規模が規模でして」

「……あまり聞きたくないのだが、どれだけ居そうなのだ?」

「十三騎士の内二人を擁する一個軍団まるまるですね。それでいて、当方には突出した戦力がおりませんでしたので……」

 

 それは頭を抱えたくもなるな。一個軍団であれば、それだけで数万人規模の勢力だ。

 それだけ向こうも本気だということか。

 

「まさに"邪神ちゃん"様は頼みの綱。どうか、どうかよろしく頼みます」

「う、うむ。わかった。それでだな」

「はい?」

「先ずはその"邪神ちゃん"様というのを止めないか?」

 

 行く先には、暗雲しか立ち込めていない。

 しかしそれでも、やらねばならぬ。私はなんとか重いを固めると、目の前の貴族に呼び名をどうにかするよう問いかけるのであった。

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