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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
175/208

邪神ちゃん 巻き込まれる 10

「何とも悲しいことだ。この様な子供すら前線に投入せねばならんとは……」

 

 ファラント王国との最前線、国境側にある山間の城砦で私たちは指揮官にその言葉で迎えられた。

 マグナスと名乗った彼は、私たちの徴兵を決めた貴族達と違って随分と良心が残っているようだ。

 それを表すように、彼は一度我々を後方支援にするようもとめた。

 しかし、指揮官といえど彼は平民。この場で実質的権限を持つ貴族に無理やり決定を覆されていた。

 同じ戦力として数えられているはずのリカルドは王族だけあってか、後方に下げられている。

 彼自身は我々と行動を共にすべくそれを渋ったが、下手に王族を前に出して首でも取られれば洒落にならない。

 それも含めて我々四人で説得した結果、彼はなんとか引き下がった。

 

「他の学園の子らは、支援任務だというのに……」

「ま、致し方あるまい。お主の気持ちには感謝しておこう」

 

 彼が言う通り、学園から徴兵を受けた者の大半は後方支援へと就いている。

 主に砲撃術式の構築や城砦の防衛、治療が主な仕事だ。

 だが、戦力があるとされた我々と他数名はこれから最前線での殺し合い。

 この采配には全くもって感心するしかないな。

 

「典型的な豚貴族って嫌ね。臭い口でしゃべるから、いつ爆破しようか悩んだわ」

「ねー、お話に出てきそうなぐらい嫌味な人だったね」

 

 ステラとミクリアは早々に先ほど前線での任務を決定づけた貴族への不満を漏らす。

 確かにあのねっとりとした視線は嫌悪感を覚えた。

 その上指揮官であるはずのマグナスにはねちねちと嫌味を言う始末。

 上に立つ王はそこそこ立派だが、その下にもあの様な貴族がいるとはな。

 ステラの言にある通り、見た目もかなり太っていた。あれでは前線での活躍は期待できまい。

 万に一つ、策士的な能力があるかもしれんが、そんな可能性に心馳せる必要もないだろう。

 

「とはいえ、現状があまり良くないのは事実だ。なにせ我が国はファラント王国と接している国境が広い。その上、向こうは軍勢が豊富でな」

 

 心底悩んでいるように、マグナスが頭を振る。

 大まかな戦況は先ほど説明されて理解した。

 正直に記せば、かなりマズい。

 複数の城砦への同時戦線展開という愚行でありながら、軍の数はファラント王国が上。

 それらに対応すべくこちらが軍を動かせば、他の国に背後を取られかねない。

 かといってそれぞれの防衛をおろそかにすることもできず、地の利でなんとか耐えている。

 一度間違えれば、どこかから崩壊して連鎖を起こす可能性も否定できない。

 そんな緊迫した状況だ。頭数を揃えるのに学生を徴用するのも無理はない。

 

「十三の城砦にそれぞれ向こうの十三騎士が出てきている。何とか、君たちの協力を仰ぎたい」

「十三騎士? またけったいなものが出てきたな」

「あんたはいつもそれね。十三騎士はファラント王国が誇る単独最高戦力よ。山を割ったとか湖を割ったとか結構な逸話があるけど、どんなもんかしらね」

 

 マグナスから口にされた単語の一つが私に引っかかる。

 それを横からステラがぽそっと補正してくれた。彼女はこう言うところ面倒見がよいな。

 

「逸話の真否はわからないが今ここの戦場にいるのは、熔礫のジャガームートという騎士だ」

「行く道は熔岩となって敵を寂滅し、後に残るはただ岩の荒地のみってやつね」

「何だか暑苦しそうな奴だな」

「まぁ実際暑かった。なんというか、熱血男そのまんまって感じだ。問題は奴の投げる岩は一擲必殺の大きさだし、槍の石突を地面に突き立てるだけで、辺りが熔岩になることでな……」

 

 我々が相手にすべき相手は、その二つ名にふさわしいだけの力は持ち合わせているということか。

 恐らくは槍が魔剣の類なのであろうが、広範囲に影響を及ぼしているのであれば、恐らく大地神から何か能力を得ていてもおかしくない。

 ステータス的にもかなり高そうなことを鑑みると、一般兵がどれだけ集まって挑んでも、痛ましい結果になることは目に見えている。

 こういう特記戦力には特記戦力をぶつけるのが一番いい。

 

「それでアルカ、あんた調子はどうなの?」

「うむ、人生稀に見る絶不調だな。これならば、初めての月のモノの時のが楽だったぐらいだ」

 

 ステラが指揮官に聞こえないように耳打ちしてくる。が、私の返した言葉に彼女は大きく顔を顰めた。

 

「そんな状態で前線って大丈夫なの? 私後味悪い話は聞きたくないんだけど」

「んー、まあ恐らくは大丈夫であろう。経路が破損したから、いつもより術式構築が雑になるぐらいだ」

「雑に……それってどれくらい?」

「一人に術式を死なない程度に集中するつもりが、……消し炭も残らないぐらいになる感じかな」

 

 私の返答を捉えたステラが、私の手をがっしり掴み、恐る恐る効いてくる。

 私もこれはなかなか答えにくい。視線をそらし、そしらぬ振りで答える。

 私の現状は、マナが通る経絡系が大きく破損しているため、練り上げたマナがそこら中から漏れることになる。

 その状態で魔法を正規の能力分機能させようとすると、大量のマナを流さねばならず、その度合いはなかなか加減がむずかしい。

 戦場で人の生死は日常茶飯事といえど、こんなおっと手が滑った的ないきおいで殺されては無念も残るであろう。

 

「治るまで大人しくしとく……ってのも無理そうだし、やれることやるしかないか……」

「それに今回は大地神と運命神からみの戦争だ。やつらが人間だけ前に出して何も手を加えないとは思えん」

「そうなの?」

「どうも連中、邪神の端末の種をちょろまかした上で改造したようでなぁ……あれらを複数同時にぶち撒けられたらかなりキツイぞ」

「ああ、あの気色悪いのってあんたのお仲間製だったの」

 

 思い出したかのように、ステラがぽんと手を叩く。

 

「元々あんたのモノだってんなら、制御奪えないの?」

「その制御系へ介入するために人間を材料にしてるようでな。こないだの一線の後、解剖してちょっと向こうの手段が見えてきた」

「あー、聞くだけで夢にでそうなんだけど……」

「マナリアクターを持たぬ端末に人間をリアクター代わりに搭載、指揮系統は人間の脳に移譲。胞子ではなく根を経由して増える。勿論大地神に練り込まれた魔法も使用可能だ」

「はっはっは、乾いた笑いしかでませんな。ファラント王国はいつからそのような人道にもとる国になったのやら……」

 

 私の発言に、マグナスが頭を抱え込む。今後端末が現れる可能性を想定したのだろう。

 

「最悪激戦の最中で展開されれば、阿鼻叫喚地獄絵図であろうな」

「……対策があれば、是非」

「見かけたら一旦総員撤退だな。それは植物ベースだけあって、基本的にはその場から動けん。厄介なのは、味方が取り込まれて端末を増やすことだ」

「承知した。奇妙なものを見かけたら撤収させることを伝えておこう。さて、皆さんにはせめてもの待遇をと思い、二人部屋を用意しておりますので、どうぞこちらへ」

 

 軽く情報交換を済ませた後、我々はこの基地での拠点をえるべく、マグナスの後をついて歩いたのであった。

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