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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
174/208

邪神ちゃん 巻き込まれる 9

「ねむりても、旅の行路ぞ胸重く……」

「なに風流ぶってんの。まだ私たちはマシな方よ、馬車があるあけね」

 

 馬車の窓から遠くの風景を眺めながら一人ごちると、すぐさまステラが反応してきた。

 今私たちは、配属命令が下された戦場へ向かっているところだ。

 競技会のメンバーは全員同じ場所へ投入するようで、馬車にはステラ以外の二人も乗っている。

 リカルドだけは王族だけあってか、専用の馬車だ。 

 勿論、普通の旅ではなく行軍のため、馬車といっても椅子がついているような豪華なものではない。

 ただの幌がついた荷馬車だ。それでも延々歩かされるよりかは随分良い待遇と言えるだろう。

 特記戦力をできるだけ早く現場に届けたいだけかもしれんがな。

 

「正直言って気乗りがしない」

「それは全員一緒よ。私だって徴兵を決めた人間が目の前にいたら、泣くまで爆破するわね」

 

 荷台の壁にぐったりと体をもたれさせる。私の文句にステラも口を合わせてくれる、が恐らく半分は本音であろう。

 後の事を何も考えないのであれば、私一人で学園自体を脱走することも当然想定した。

 だが、やはり人間として馴染んでしまった。情もあるし、仮に知らぬところでステラ達が戦死したとかになれば、後悔だってする。

 そう思えば脱走するという考えは自然と消えてしまった。

 それに、今回の戦争も元はといえば大地神と運命神が絡んでいるのだ。それを知って尚知らぬ振りというのは、さすがに道義にもとる。

 本当に、全くもって面倒なことだ。

 

「学園は王国に属し、王国議会に基づいて決定を下す。まー、仕方ないよね。色々支援されてる身だもん」

 

 同じく壁に体を投げかけたミクリアが校則の一部を誦じる。

 実際王国はかなりの金額を学園の運営にかけている。それは国内の優秀な人材を逃さず確保するためだ。

 貴族は幼年期に行われる教会のスキル判定を元に学園へ人を斡旋し、支援する。

 そして育った優れた人材はその貴族か王国に仕える。選抜された人間はよっぽどでなければ食いっぱぐれる事はなく、優秀であればあるほど支援金ははずむ。

 競技会のメンバーが誰一人としてこの軍属命令を拒否しなかったのはそのためだ。

 

「決まったことをぴぃちくぱぁちくうっせぇな。ったく居心地が悪いったりゃありゃしねぇ」

 

 馬車の隅、一番居所が無さそうに座っているクロがぼそりと呟く。

 彼が愚痴るのも仕方ない。なにせ馬車内は彼以外、全員女なのだから。

 唯一の仲間であったリカルドは王族故に一行の中にはいるものの、完全に別。

 周りからはやっかみの目で見られ、色々囁かれているのも事実だ。

 

「あら、文句あるなら外を歩けばいいのよ」

「ちっ、面倒くせぇ。せめて楽しねぇと損だろうがよ」

 

 ステラが皆が思ったことをさらっと口にする。

 だが、クロも今回の事はかなり渋々なようだ。見た目や性格は戦闘狂のようだというのに、今一こういうところで一般人くさい。

 

「えー、ここは喜ぶ所だと思うんだけどなぁ。両手に花だよね、花」

「花っつーか雑草だろうがよ」

 

 ミクリアが可愛こぶってクロに身を寄せようとするが、彼はそれを心底いやそうに押し退ける。

 しかし、雑草とは失礼な。確かに名のある花とまでは言わんが、そこそこ見れるものだと思うのだが。

 

「あら奇遇ね。私も雑草みたいな頭、引っこ抜きたいと思ってたのよ」

「あぁ? その海老みてぇな頭、釜茹でにされてぇのか」

「二人ともやめてくれ。見ていて蒸し暑い……」

 

 どうにもステラとクロの相性はあまり良くないようだ。二人の間にしばし険悪な空気が流れた。

 さすがにそれを放置しておくと、こちらも気分は良くない。一応止めに入る。

 いつもであれば二人とも力尽くで鎮圧するのだが、今の私はまだ回復しきっていない。

 むしろまだまだ調子が悪いといっていいほどだ。

 この様な調子で、戦場でやっていけるのか、少々不安が残る。

 

「きっと照れてるんだよねー。えいえい」

「やーめーろ!」

 

 その空気を誤魔化すかのように、ミクリアが茶化しに入った。

 ついでにまるで恋人のように、彼の腕に抱きつきにかかる。

 当然今は鎧を付けず、普段着だ。そして彼女の普段着はなかなかどうして、薄着が好みの様子。

 そんな状態でくっつかれれば、普通の男ならば鼻の下を伸ばして喜ぶであろう。

 だがしかし、クロはそんな彼女を必死で振り払おうとしていた。

 大人しくしておけば、なかなか幸福な感触を味わえるであろうに。よもや、こやつ男色ではないだろうな。

 

「おう、多分言いてぇことはわかるがよ。こんなへちゃむくれにくっ付かれても暑苦しいだけだろうが」

「ひっどーい!」

 

 クロが疑いの目を向ける私にきっちり反論してくる。

 顔面を押さえつけられて距離を取られたミクリアは怒り心頭のようだ。

 彼の腕を引き剥がし、何とかくっつこうと力を込めている。

 

「こんな事だけ必死になるんじゃ──」

「ちょえーい!」

 

 クロの言葉が途中で途切れる。哀れ、彼の抵抗は虚しくミクリアは全身の力で彼の腕を跳ね除けて、そのまま頭に抱きついた。

 頭が完全に胸に押し当てられている。クロはもごもごと彼女を引き剥がそうと躍起になっているが……

 

「なんとまぁ、いとやかましき旅路かな」

「風流ぶってんじゃないわよ……」

 

 そんな二人を眺めて、私はぽつりと呟いた。

 

 

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