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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
172/208

邪神ちゃん 巻き込まれる 7

「やーやー、まさか邪神ちゃんが私に助けを求めるだなんてー」

 

 全てを照らす光とともに降臨した創造神がぱたぱたと大股でコチラに歩いてくる。

 

「相変わらず飄々としているが、今は時間が惜しい。ゆっくり喋る余裕は──」

 

 そこまで言って私は辺りの変化に気がついた。

 何故、センガンもステラも今の状態に何も言わんのだ。

 そう思って辺りを見れば、目に映る範囲全ての時が止まっていた。

 

「うっわー、それにしてもすっごい見た目。色んな生き物作ってきた私だけど、これはないわー」

 

 その状態に愕然とする私を差し置いて、創造神エルロレロウムは端末へと近づき、その幹を軽く叩く。

 

「私の物ではないぞ」

「知ってる知ってるぅ。これを持ち出したのが誰で、何がしたいのかも知ってるよー」

「なら、何故止めなかった!」

「んー、面白そうだから」

 

 私の怒りの声に、創造神は軽く考えただけで言葉を返してきた。

 こいつは、ただ面白そうという考えだけで改造された端末が消しかけられるのを見逃してきたというのだ。

 仮に、私たちが止められず、手も遅れていればどうなっていたか。それがわからぬ奴ではない。

 それを踏まえた上で、面白そう(・・・・)と言っているのだ。

 

「邪神ちゃんが下に降りて、みんなで邪神役やるってだけで普段と違ってわくわくするよね」

「おま……」

「だから、私はみんなの動きを止めないの。きっともっともっと面白くなるよ?」

 

 振り向いた創造神の顔。それは端末の影になっていて、よく見えない。

 だが想像できる。きっと今、悍ましいほどにあくどい笑みを受けべているのであろう。

 

「ちっ、今はともかく、この現状をどうにかしたい。やってくれるだろうな」

「はいはい、せっかくお呼びたていただいたんだから、それは勿論。えいっ」

 

 私が言葉に剣を含ませると、創造神はやるべきことをすぐさま思い出したようだ。

 軽い掛け声で、手を上下に重ね合わせた。

 ただそれだけ、それだけだ。

 マナの発露もない。ただの動作それだけで、十の端末全てがへし折れ潰れ、地面の模様となってしまった。

 

「いい感じにお煎餅みたいになったね。邪神煎餅とかって売れないかな?」

 

 地面にめり込んだそれらを一つづつ確認しながら、どうでも良いことを提案してくる創造神。

 そんな物、食えば間違いなく死ぬであろうな。処刑用の道具には程よいかもしれんが、その後の事を何晏がえるとあまりおすすめはできないな。

 

「うん、よし。地脈までの経路も破壊したし、生命体としての端末は始末したから、お仕事しゅーりょー!」

「おお、そうか。よし、では出番は終わりだ。早々に帰るがいいぞ?」

「ええー!? この階段登らせるの!? レディに!? 鬼! 邪神!」

 

 移動方法なぞ、私の知ったことか。創造神なんだから、何事でも好き勝手に創造して帰ればよいのだ。

 

「むーん……ま、門が開いてられる時間も限界みたいだから、帰るわ」

「全く巻き込まれたあげく、大層な代償の支払いが必要になりそうだ」

「そんなかわいそーな邪神ちゃんに情報のプレゼントでーす。今回の件は大地神と運命神のタッグが原因だよー」

 

 去り際のおまけといわんばかりの気軽さで重大な情報がもたらされる。

 

「ファラント王国って国土がもう無茶苦茶なのね。それで大地神と運命神ご契約。他国の地脈を侵略し、自国のものへと塗り替える。そういう時代のようだよ」

「それは露見した以上、戦争は辞さない……であろうな」

「他にもみんなもちゃもちゃ動いているから、きっともうすぐ激動の時代がくるよ」

 

 ああ全くもって明るい未来ってやつが思い浮かばない。この世界は別にお前ら12神(アルコーン)の文化祭会場じゃないんだぞ。

 世界の存続を旨に──

 

「ちがうちがーう。この世界の価値はね、邪神ちゃんがどう成長するかに掛かってるの」

「なに?」

 

 突如もたらされた情報に眉が歪む。

 

「だから、別に壊れても腐ってもいいんだ。また別のを用意するだけで」

「なんたる悪辣な思考、お主こそ本当は邪神なのではないか?」

「あっはははははははは!! 私は創造神だよ。でも作るのは平穏や安寧ばかりじゃないのさっ」

 

 私の睨みをくるくる回りながら躱し、動きが止まったままのセンガンとステラの肩を叩いて回る。

 

「邪神ちゃんには友達ができた。繋がりができた。邪悪と正義のボーダーを見る力もできてきた」

「おう、いい友達ばかりだ。見つかったらお主でも間違いなく正座させられるであろうな」

「わっこわーい。そんなことにならない内に撤収しまーしゅ」

 

 私が脳内で怒り心頭であろうサラを思い浮かべる。エルロレロウムをそれを受け取ったのか、顔を引き攣らせながら、元きた階段へと戻っていく。

 

「呪詛の汚泥は浄化完了。端末も殲滅したから、あとの出来事は任せるよぅ。ああそうだ──」

 

 何もかも片付けた、そういいながら階段を登る彼女の足がふと止まった。その視線が私へと降ってくる。

「未完全の肉体で、神域接続術式使ったんだから、この後のことは、気合いで受け入れてね☆」

 

 怪訝な顔の私に向けてウィンク(ご丁寧に小さな星を飛ばしてきた)を飛ばすと、創造神エルロレロウムは天界へと帰っていった。

 同時に差し込んでいた光が通常のものに切り替わり、あたりからは喧騒の音が戻ってくる。

 

「な、なな……なに、が……」

「十死一生、救われましたな」

 

 センガンとステアはあたりの惨状をみて、一体何が起こったのかと身を震わせる。

 

「安心しろ、あやつは時を止めておったから……そうだな、須臾の間に全部片付けてくれたようだ」

「そ、そんなの呼び出して問題ないわけ!? あんたの失礼な態度でキレさせたりしてないわよね!?」

「その言動こそ私には失礼なのだが……あやつは職務に忠実だ。だが大きな問題があるとすれば──」

「あるとすれば?

「身が持たん」

 

 ごぽりという音と共に、大量の血が口から吐き出される。さすがに呪詛を取り込んだ上で神域接続とは、なかなかに無謀であった。

 呪詛は体内を駆け巡る内に棘となってありとあらゆる場所を傷つけ、今自身を保っているのは、残り少ないマナだけだ。

 

「高濃度の呪詛だ。しばらくは使いもんにならんであろうな」

「あんたそういう大事な事をさらっと言うんじゃないの! ほらハンカチ!」

 

 さらにボルテージの上がったステラに無理やりぐいぐいと口周りを拭かれる。

 普段なら少々の抵抗はしたいところだが、もはやその程度の力もない。今の私は一般少女そのものの力しかないのだ。

 

「まぁその程度の被害で抑え込めたのだから、万々歳であろう。さて、ステラよ」

「なに、まだ何かあんの?」

「担架を、頼んだぞ」

 

 私は最後にステラに伝言すると、その意識を手放した。

 何せ一国を飲み干すほどの呪詛を取り込んだのだ、それぐらいは勘弁してほしい。

 こうして私は次に訪れるであろう余暇にわずかな期待を抱きつつ、目を閉じたのであった。

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