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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
171/208

邪神ちゃん 巻き込まれる 6

「全く、趣味の悪いデザインね」

 

 周囲に生える十の花。それらは全てが尽く醜悪であった。

 花の中心部にある四つの顔からは、常に言葉にならない呪詛が垂れ流され、辺りを汚染する。

 

「蛟竜毒蛇、極まっておりますな」

「言っておくが、私のデザインではないからな!?」

 

 周囲の地面に染み渡る呪いを弾きながら二人が失礼な想像をする。

 私だってこんなのが端末だと言われたら、全力で拒否だ。

 本来はもっとこう、毒々しいが華らしき華なのだ。

 これは何者か、しかもかなりの悪意ある者の手が加えられている。間違いない。

 

「というか、あんたのあの不気味な光の魔法でどうにかしなさいよ」

「生憎といってはなんだが、こやつは私の魔法のほとんどに耐性があってな」

「なら余計になんで一人で突撃してんの……。知ってる? あんたみたいな後先考えないのを、世の中ではバカって言うのよ」

 

 この様な状況に即してなお、ステラの毒舌は絶好調だ。

 確かに今回は彼女にそう言われても仕方がない。

 だがしかしだな、ここまでホラーな状態になるとは思いもしなんだのだ。

 今の所呪詛も奴の侵攻も試合場内に留めているが、これも時間の問題。

 じわじわではあるが、防御術式にも侵食が見られる。

 

「あーあ、勝算が少しはあると思ってきたのに。ほんと最悪だわ」

「雨過天晴、ここは歯を食いしばりましょう」

 

 二人とも軽口を叩いているが、端末への対処は余念がない。

 だが、問題が──

 

「こほっ……」

 

 どうにかこうにか抑えていたものが、僅かに口に出た。

 

「なに、あんた……」

 

 それを耳聡く捉えたステラの表情が驚愕へ変わる。

 それもそうか。今私の口からはぽたぽたと血が零れていたからだ。

 

「あんた、まさか取り込んでるわね!?」

 

 原因は地面の上にわだかまっている呪詛だ。

 私は奴らが呪詛を垂れ流し始めた時にすぐに気づいた。これらは大地の魔力を永劫に穢しうるものだと。

 だから大地の魔力を自身のマナへと接続した。しばらくはこれで凌げると思っていたのだが、此奴らの呪詛の量は尋常ではなかった。

 徐々にではあるが私の肉体を冒し、ダメージを蓄積させていたのだ。

 

「この呪詛が地脈に浸透すれば、端末を片付けても後に響くのでな……」

「ああもう! バカも大バカ!」

 

 膝を折りかけたせいで好機と思われたか、端末の攻撃が一斉に私に集中する。

 すぐさまステラとセンガンが割り込んで防御に入るが、これで私たちの攻勢は途絶えてしまった。

 

「止めなさいよ! 死ぬ気!?」

「なぁに死にはせん、死には。多分な」

「っ……! 考えなさいよ私、手は何かあるはず……!」

 

 私の状況を察してか、ステラが爪を噛みながら術式を試行錯誤する。

 彼女の知る限りのあらゆる術式が展開され、消えていく。

 センガンも端末の攻撃を三対の腕で押さえ込んでいるものの、身体には少しづつ傷がふえてきていた。

 気づかれないうちに呪詛を飲み込んで二人を攻撃に専念させるはずが、こんなことになるとは。

 このままでは私はおろか、二人が完全に巻き込まれる可能性がある。

 いかんな。このままは非常にいかん。

 こうなれば、あの術式だけは使いたくなかったが、贅沢は言っていられない。

 

「その状態でマナ使ったら余計に回るわよ!?」

「天光指す道、終天より来たる根源……ごぼっ」

 

 人智を超えた果ての果て、極大量のマナをすべて燃やし尽くし、道を繋げる。

 反動で呪詛がさらに回り、口からは足元に血溜まりを作る量の血が溢れ出た。

 だが、止めるわけにはいかない。ここまで悪意に染められた状況をなんとかするのであれば。

 チェスボードをひっくり返す想定外を持ってこなければならない。

 

「万天万象尽く、汝が下に降り降る」

「ちょっと、なによこの魔法……」

 

 身体の中を呪詛と使っている魔法の反動が荒れ狂う。

 ううむ、術式完成の暁には一度とはいわず、二度三度と怒られるのを覚悟しておかねばならんな。

 そうこうしているうちに、運よくというか天頂へ至った太陽から、私たちの目の前の地面へ光が伸びる。

 

「鳴り響け、神鐘。喝采の声と共に、我らは其を希う」

 

 ごぉんごぉんと、果てなき遠くから鐘の音が鳴り響く。

 この魔法は切り札中の切り札。誰もが知っているが行使することはできない魔法。

 本来はただの祈りの言葉。だが、これには意味があり、費やせば発動しうる。

 

「其は闇の果てより来たりて、原初の理をかざすもの。我、銀の鍵を手に、今、窮極の門を開く」

 

 だが要求される消費量が尋常ではないのだ。世界でもこれを使われれば邪神側はある意味ゲームオーバーとも言える、クソッタレな術式。

 おかげで肉体的なダメージもひどい。既に私の視覚はなかばぼやけ、音もステラの声もどこか遠くで聞こえているかのようだ。 

 

「神域接続術式、エルロレロウム、降誕せよ」

 

 体内のマナが一気に焼き切られた。意識を手放したいところだが、痛みと術者としての責務がそれを許さない。

 視界はぼんやりとしか見えないが、既に変化は起こっていた。

 地面に広がっていた呪詛もその全てが形容しがたいほど神々しい光で焼き払われていく。

 太陽からのびた階。それの手すりに腰掛けて、一柱の神が尽くの邪悪を薙ぎ払い、大地に立つ。

 

「やっほーおっひさー」

 

 この世界で恐らく初、創造神がその武威を示さんと、ここに降臨した。

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