邪神ちゃん 疲れ果てる 9
「うーむ、熱中しておるな」
「むぁん」
私はリカルドとクロを一旦止めるべく、雷光の術式を二人に放った。
しかしながら、その効果は全くと言っていいほどでなかった。
リカルドは雷を剣で受けてそのまま宿し、クロに至っては一瞥もせずに拳で弾き飛ばしている。
私の呆れた呟きに変な声で返しているのはミクリアだ。
「飽きるまで放っておけば?」
「それも手だな。しかし、お主はいつ迄そうしてるつもりだ?」
ミクリアは私の手をがっしりと掴んで離さない。
勿論喋りながらも私の人差し指は彼女の口の中だ。
「使った分回収と、貯められる分貯まるまでかなぁ」
「これが食事であれば太るぞ、と警告できるのだが……」
「私食べても全然太らないんだぁ。これでもクロより食べてるのにね」
恐らくは、彼女の天性的な魔法耐性とハルバードにほとんど使われているのだろう。
魔法の授業での彼女を見たことはあるが、いつ見ても何とか捻り出してるといった様子であった。
食事の量までは知らぬが、平均的な男よりも食べているであろうクロより食べるとは、恐ろしいな。
私なぞ、自分で思っているよりも食べられぬ。
もう少し食えばこの身も育つのかもと増やす努力はしているものの、なかなかどうして結果は現れない。
「邪神ちゃんは、もう少し肉つけた方が良いよ。特に……ふっ」
ミクリアはあろうことか、私の胸部に視線を向けると軽く笑った。
確かに私の胸部は比較的スレンダーなミクリアと比べても薄い。
『大きいのが正義とは限らないもん!!』
それに反応してか、脳裏に創造神の声が響く。
全くいらんことに神託を使うやつだ。というか、どれだけ私を監視しているのだ創造神は。
他の世界の管理をサボってはおらんだろうな。正直心配は尽きない。
『綿密に! 設計して! 最高の組み合わせで作ったもん!』
なんでそういうどうでもいいことに労力を費やすのであろうか。
何れにせよ、今の私の姿形は創造神のデザインセンスの賜物というわけだ。
「別に私は見た目なぞ気にしておらん。肉が付いたとて、得することもあるまい」
「へー。お風呂場でちらちら周り見ながら少ししょんぼりしてたのに?」
「気・に・し・て・お・ら・ん」
いらんことを言うミクリアの頭を鷲掴んだ。
「ぷぇー」
少し力を込めてやれば、変な悲鳴をあげる。
「全く、髪は焦げるし食いつかれるし、散々だ」
打ち返されたステラの火弾でちりちりになった髪の端を確認しながらため息をつく。
別段、見た目はそこまで気にはしておらんのだが、さすがにこのままだと不恰好だ。
「あぁー、もうちょっとー」
「終いだ終い」
やれやれと思いながら、ミクリアを引き剥がす。
そして──
「えぇ……雑ぅ……」
焦げた分と、伸びて気になっていた分をざくざくと剣で切る。
それを目の当たりにしたミクリアからは引いた声が上がる。
「私でも髪結の店の子に頼むよ? 正直、それって無いと思う……」
「面倒ではないか。毎回サラに頼むのも迷惑だろうしな。うむ、これでさっぱりした」
大体うまく肩の辺りで切り揃えられたのではないだろうか。
焦げたままでうろついていれば、間違いなくサラ達に見咎められる。
これで万事解決だ。
「わ、私しーらない……」
体に着いた髪を払っていると、そそくさとミクリアが距離を取っていく。
彼女の反応を見る限り、よもや私は何かやらかしてしまったのだろうか。
急に不安になってくる。
「まて。へ、変になっておるのか?」
「その、なんていうか。ガタガタのバラバラっていうか……」
彼女の言葉に冷や汗が出る。
いつもなら気にせず何でもずけずけと言ってくるような彼女が、ここまで言葉を濁すとは……
「えーと、サラちゃんへの言い訳は考えておいた方がいいと思うよ?」
「そ、そこまでか?」
思わず心配になって自分の髪に軽く触れる。
確かにいつもサラに切ってもらった時と違ってざらざらしているような気がする。
これは確実に、怒られる。
余暇を潰された挙句、こんなことになるだなんて。
私はここで急にテンションが落ち、地面に座り込むのであった。




