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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
146/208

邪神ちゃん 酔いどれの相手をする 5

「飲むと英雄に匹敵する力を得るという酒、私も少々見くびっていましたね」

「どうするのよ、押し込まれてるじゃない……」

 

 リカルドとシャムロックの戦いは、リカルドの敗北という形で幕を閉じた。

 飲めば飲むほど強くなるというのは、ハッタリではなかったのだ。

 これで3敗、残すはステラと私しかいない。彼女が少々不安げになるのも仕方がなかろう。

 

「前回のグラスト軍学校戦でも、あのシャムロックが殆ど勝ったようなものなのよ」

「まぁ、それでもお主の魔法なら競り勝てるであろう。よもや、自信が無いとは言わんだろうな」

「言ってくれるじゃない。あなた、煽りの才能あるわよ」

 

 渡した魔道具の実戦使用は今回が初めてとなるが、彼女ならばそれも然程問題にはならないだろう。

 それにシャムロックの奴の魔法は、見たところ肉体強化系でしかないようだ。

 純魔法使いが近接でも戦えるようになる。それは確かに強化の幅でみれば恐ろしいものだろう。

 だが、果たして魔法使い同士の戦いになった時、どちらに軍配が上がるだろうか。

 私は飽くまでもステラを推す。何故ならば射程も防御も段違いだからだ。

 彼女は元々術式構築に長けたタイプの魔法使いだ。それこそ、リカルドに何もさせずに完封できるぐらいに。

 その上、先日には特訓も行って、高位術式をも習得している。これで負けるつもりと言わせるつもりは無い。

 

「大体何なのよ。お酒で真理って。言ってたら段々腹立ってきたわ」

「おお、その意気だ。魔法使いというものを知らしめてくるがいい」

 

 肩をいからせ、ステラが試合場へと上がっていく。

 彼女は魔法が大好きだ。だからこそ、今の教令院の状態には一言文句ぐらい言いたいだろう。

 

「あんた達が見た真理なんて、幻だって教えてあげるわ」

 

 彼女が手を添えれば、与えた魔道具がふわりと彼女の前に舞う。

 

「シャムロック選手、連勝なるか!? 果たして酔拳を相手に魔女はどう立ち向かうのか!? これは派手な争いが期待できます!」

「派手に。そう、派手にね。つい最近どこかのバカが私を泥まみれにしてくれた分、発散してやるわ」

「おお怖い怖い。人間相手にストレス発散なんて。あなたも、この酒を飲んで色々忘れませんか? ハゲますよ?」

 

 シャムロックがまるで彼女をバカにするかのように肩をすくめると、腰の皮袋を差し出す。

 それを見てステラがどう思ったかなどと、想像に難くない。

 

「さぁ、前回は良いところのステラ選手の魔法は炸裂するのか!? 試合かい──」

 

 アナウンスが入るや否や、強烈な閃光と爆発音が連続する。

 

「どいつもこいつも、人をコケにするにも程があるってのよ」

 

 彼女の魔法の精度は、特訓で更に上達していた。それこそ同種とはいえ、一瞬で複数の術式を同時展開するほどに。

 しかも、シャムロットのリカルドとの戦いで予測される動きも考慮して、逃げる場所すらつくらずに、だ。

 

「開始早々、ド派手に魅せてくれましたぁ! この爆発は強烈! やっぱり競技会はこの派手さがあってこそ!」

「それに、言うに事欠いて、ハゲる?」

「げっほ、げっほ。現にぃ、私の教官はお酒が飲めずにハゲましたよぉ。励ましてもくれましたが」

炎よ(Fflam)雷よ(Taran)嵐よ(Storm)暴虐を尽くしなさい(Cyndeiriog)

 

 爆煙の合間からシャムロックが飛び出す。あれだけの魔法を浴びて無傷なあたり、防御も長けているのか。

 だが、ステラがそれを簡単に逃すわけがない。複合された術式がシャムロックを襲う。

 

「可憐な女の子捕まえて、ハゲ連呼って。少しは勉強から離れて、人との付き合いでも学んだら?」

「私の目の前にはぁ、ヒステリー起こしてる魔女しかいませんがぁ」

「この案山子、無駄に頑丈ね。どこまで耐えられるか、楽しみだわ」

 

 この後に及んで、シャムロックはまだまだステラを煽る。

 しかし、彼はステラの魔法から逃げ切れてはいない。持ち前の近接能力も、彼女の暴力的な魔法の乱舞の前にはほぼ無意味だ。

 何せ近寄ることすらできていない。間合いを詰めようにも、ステラはその動きを読んで動線上に魔法を配置。

 逃げる先にも余すことなく術式が展開してある。

 彼にできることは、被害を最小限にするように防護して隙を伺う程度であった。

 

「しかぁし! 酔拳の真髄はまぁだまだこれからぁ! ヒート、アップゥ!」

 

 叫び声と共に、シャムロックの動きが加速する。

 それは先ほどのリカルドとの戦いを上回るぐらいに。これにはステラも対処が遅れた。

 飽くまでも彼女は魔法特化の魔法使いなのだ。近接戦自体はそこまで得意ではない。

 ステラは一瞬で思考したのだろう。動きが早い相手に自分の能力で対処するには、物理的障壁が有効であると。

 それも壁ではなく、ランダムに柱状に造ることで相手を混乱させることを計った。

 そしてそれは、正確に機能した。

 シャムロックの速さは、特筆すべきものであった。彼の判断能力も優秀だったのだろう。

 彼は地面から突き上がる柱を幾つも回避してステラに迫った。

 だが、悲劇は起こってしまった。

 

「あ」

「あ」

 

 周囲の呆気に取られる声。

 

「ほおぉぉぉう……」

 

 彼の動きは、突如として止まった。そのままずるずるとくずおれていく。

 簡単に言えば、シャムロックは柱に激突したのだ。

 ただし、それは成長途中。悲しい事に、その高さは彼の腰より少し下程度。

 ここで私は何が起こったかを敢えてはっきり言おう。

 彼は、柱で股間を強打する羽目になったのだ。

 その痛みは想像するだに恐ろしい。

 

「あ、あの……だ、大丈夫?」

 

 この悲劇に、ステラも思わず相手を心配してしまう。

  

「こ、これは……何というダイレクトアタックでしょうか! ここから見える男性諸君の顔色が明らかに青くなっていくぅ!」

「わ、わざとじゃないのよ? こう、当たりどころが悪かったっていうのはあるかもだけど……」

 

 一体ステラは誰に弁解しているのだろうか。

 こうしてざわつく会場の下、想定外の形でステラは勝利を掴んだのであった。

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