邪神ちゃん 特訓をつける 4
「よかったな、これでステラも人外の仲間入りだ」
「到達できた喜びよりも、疲れと呆れの方がひどいわ……」
結局、私とステラの魔法の余波で作った世界は崩壊してしまった。
それがどれだけの偉業であるかは、彼女ならしっかりわかっているだろう。
だが、それ以上に思うところがあるのか、彼女はじっとりと私を睨みつけている。
「それに、杖が折れた」
彼女の手に握られていた杖は、その中ほどから綺麗にぽっきりといってしまっていた。
杖というのは、一種の増幅装置だ。マナを杖を経由させることで、魔法の効能を強化できる。
その反面、杖の動きや向きで魔法の発動を見破られやすく、一長一短といったところか。
「その杖に力は感じぬのだが……」
「別に、元々ただの枝よ。小さい頃に魔法使いの真似事してた時からの思い出の品だったの」
む、それは少々悪いことをした気がしないでもない。
「修復しようにも、時間遡行の術式は流石に手が届かんな……」
「さらっと誰も知らない魔法の話しないでよね。ま、いいわ。これもいい機会だし、この杖ともお別れの時ね」
ステラが手の中で折れた杖を転がしながら、寂しそうに呟く。
「でも、杖がないとなるとなんか手持ち無沙汰だわ。ねぇ邪神、どうにかしなさいよ」
「魔道具ならば作る知恵はあるが、私がとってきた素材は今ごろ加工されておるからなぁ」
恐らくグラゼフの角あたりならば良い杖になったのであろうが。
代わりとなるものは、残念ながら持ち合わせていない。
一から用意するとなると……
「時間がほしい。運がよければ次の試合までには用意できるとは思うが」
「変なところで生真面目ね。あなたならそこらへんの枝を折って渡してくると思ったのに」
「私を何だと思っておるのだ……」
「邪神でしょ? 神話で語られる"全き悪" "万物の敵" "万象一切を壊滅に帰す者"」
うむ、流石創造神が流布している物語。散々な語られようだ。
とはいえ、邪神とはどの世界でもいずれ訪れる滅びの象徴。このぐらい言うことで、備えさせようというのが目的だろう。
「あなたが邪神だろうと何だろうと、別に私は変わらない。が、学友といったところかしら」
ステラがどこか恥ずかしそうに視線を逸らす。学友、か。
なかなか嬉しいことを言ってくれる。
そうなれば尚更しっかりとした魔道具を用意せねばならんな。
「材料には心当たりがある。手に入れられるかどうかが問題だが、何とかしてこよう」
「そ、なら、それとなく期待してるわ。それじゃ、またね」
彼女は伸びを一つすると、手を振りながら宿舎へと向かっていく。
「あと、ありがとう。色々教えてくれて」
「気にするな。渡した本にも目を通しておけよ」
振り返らないまま礼をいうのは、彼女の気恥ずかしさ故だろうか。
私はそんな彼女を見送ると、早速魔道具の構想を練り始めた。
ステラぐらいの術者になれば、下手な作り方をすると魔道具自体が爆散しかねない。
彼女には第七までの魔法を教えたから、尚更だ。高位の術式の負荷に耐えられるようなものでなくてはならない。
となれば──
「よし、この線でいくとしよう。だがその前に……見てくれをどうにかしてくるか」
ステラの上達は、まるで土が水を吸うかの如くであった。短時間で第七へのとっかかりを掴み、最後の方には私の防御術式を貫通し得る程になった。
おかげで私も彼女に負けず、ズタボロだ。
この格好のまま部屋に戻れば、サラからのお説教は避けられまい。
メーラ辺りなら目をひん剥いて私を風呂場まで引き摺っていくだろう。
「邪神ちゃん?」
背後からかかった声に私の肩が思わず震える。
ゆっくり振り向くと、そこには腕に果物の入った籠を抱えたニャルテが私を見つめていた。




