邪神ちゃん 特訓をつける 3
「あなた、少しは加減ってものを覚えた方がいいと思うわ」
「何をいう。十二分に加減はしたぞ。この世界が壊れていないのが良い証拠だ」
ステラはあの後も散々翻弄され、あちこちに擦り傷を作ってズタボロになっていた。
今は地面にぐったり寝そべりながら、恨み言を呟いている最中だ。
「マナをここまで限界ぎりぎりに使ったのは久々よ」
「良いことだ。人間、切羽詰まるほうが成長するというしな」
「命の危険を感じたけどね。というかこれだけの魔法使えるなら、学園にいる意味ないんじゃないの?」
「そうでもない。制限を課して学ぶのも楽しいし、何より魔法だけで邪神に勝てはせんからな」
私の言葉にステラがキョトンとした顔になる。
「あんたが邪神でしょ?」
「説明がややこしいな……簡単に言えば、今の私はあくまでも人間で、他の神が邪神役をしているのだ」
「何でそういう事になってるのかわかんないんだけど。だから酒神云々が出てくるわけね」
「そうだ。既に魔法神とか戦神とか太陽神と大洋神は何とかしたが……」
これでまだ半分にも到達していない。それに、今までの奴のやらかし具合を考慮すると、ここから先も頭を痛めそうだ。
「神話の存在をバカで一括りにされても困るわ」
「面倒ごとを起こす奴は全員バカで構わんだろう。全く、神の中で最も常識的なのが邪神たる私だとは、思ってもみなかったわ」
「……常識って言葉、一回辞書で調べたほうがいいと思うわよ」
私の言葉にステラが心底呆れたような言葉を漏らす。
失礼な。私は常識をわきまえているぞ。だからこそ高位魔法を伝えるためにわざわざこうして一時的な世界を作りもした。
ステラの防御魔法を鍛えるために撃った魔法だって、彼女が必死になれば十分防げるようにした。
きっちり安全面には配慮した行いなのだ。これを常識的といわずして何を常識というのか。
「何よその顔」
ステラはすぐに私の不服げな雰囲気に気付いたようだ。
「常識的な人間は領域外魔法なんてそうそう使わないし、人に向けて第七階級の魔法ぶっ放したりしないわよ」
「そうか? 今まで私が相対してきた者は大体そんな感じだったがな」
「それって邪神としてじゃない。それより、続きをしましょ」
ステラが体についた埃をぱんぱんと払って立ち上がる。驚くべきことに、彼女はまだまだやる気のようだ。
結構心が折れそうなレベルで追い込んだつもりだったのだがな。
しかも、この短時間でマナをある程度回復させている。
その速度は人間としてはかなり上位の部類だ。
「では次はステラが好きな飽和攻撃といくか」
「ふふん、さっきまでので私も学習して──」
彼女の声が途中で爆音に掻き消される。
油断禁物。爆裂の魔法を複数同時展開して彼女を覆い尽くす。
「おお、無事ではないか」
だが、今までとは違った。彼女は先に私が見せた低位の魔法を吸収できる防御術式で身を守っていた。
「散々転げ回ったからね。これでそう簡単に──」
そこを地面から噴き出た水が襲う。残念だったな。いつまでも優しい魔法でやるとは言っていない。
ステラは綺麗に空中へ放り出されたが、そのまま空で姿勢を整える。
「埃の次はびしょ濡れって最悪……」
衝撃はうまいこと逃したようだが、実体である水までは防げなかったようだ。全身についた埃は、水を浴びて泥のようになってしまっている。
「では乾燥させてやろう」
「っこの、乙女の柔肌に乾燥は大敵よ!」
空中へ逃げた彼女を炎の魔法で追撃する。しかし彼女も魔女と呼ばれていただけはある。
私の魔法を風や水の魔法で打ち消したり、避けたり、それどころか、こちらに魔法を打ち込んでくる余裕すらみせてくるようになった。
「いいぞ、魔法とはこうではなくてはな!」
私とステラの間でありとあらゆる魔法が飛び交う。さながら災害が起こっているかのようだ。
こうしていると邪神であった頃を思い出す。ついついテンションが上がっていってしまう。
「こうなったらあんたに一発ぐらい入れないと気が済まないのよ!」
「くはははは、できるものならな!」
二人の魔法がさらに激化する。そしてお互いに冷静になったのは、この世界が崩壊するひび割れの音が響いた時であった。




