邪神ちゃん 武器を新調す 1
「持ってきたぞ、セングリン」
「早いな! 俺の秘蔵の素材を一週間と経たずに揃えるとは……」
次の休日、セングリンの元に素材を持っていくと大層驚かれた。机の上に全てを並べると、その驚きはさらに強まる。
「俺ぁ、全部破片レベルのつもりだったんだが」
「本人に交渉してきたからな。そこそこ骨は折れたぞ」
セングリンが牙、角、鱗を手に取りしげしげと眺める。
「素材があるから信じちゃいたが、本当に龍ってのがいるなんて……」
「鮫に蜥蜴にダンゴムシ。錚々たる面子であったよ」
「そういわれると、夢が壊れるな。なにせ昔話じゃこう、もっとなぁ」
龍の姿について私に文句を言われても困るのだ。龍とはそれぞれの領域に生まれた高濃度のマナを保有する生き物。
別に姿がどうこうだから龍ではなく、龍の姿がああなのだ。
「しっかし贅沢な話になるぜ。素材分の金だけで金貨換算したら、山盛りになる」
「その分苦労はしたからな。海を泳ぎ、空を駆け、大地を潜ったのだ」
「そりゃ大層な冒険だ。きっと語ってやれば吟遊詩人のいいネタになるだろう」
「……そうできれば良いのだろうが、龍の沽券に関わりそうなのでな」
私のセリフに不思議そうな顔で返してくるセングリンに、これまでのことを掻い摘んで話す。
すると、彼の顔は次第に苦渋に満ちたものへと変わっていった。
「女言葉に年寄りに寝坊助だと……。おれぁ子供の頃に聞いた伝説を信じてたんだがなぁ」
よっぽど私の語った龍の姿が想像とかけ離れていたらしい。
確かに語られている伝承ではもっとマシな姿で描かれている。リナウナブは航海の守護者、グラゼフは暴龍、ヤンは架空の存在。
私が授業で習った内容でも、出会った時の雰囲気とはまるで違った。
「まぁ私の事は信じずともよい。素材が目の前にある。それだけでよいではないか」
「信じるぜ。信じてるんだが、どうしてもこう、イメージと違ってな。だが、確かに素材に間違いはねぇ。俺が使ったものと同じ波長を感じる」
セングリンの持っていたものも、間違いなく同一のものであったらしい。
さて、ここまで苦労して揃えると、これらをどう加工するか気になるな。
「セングリンよ。それらをどう使うのだ? 物が物だけに、炉に放り込めばすべて焼けそうな気がするのだが」
「ああ? そりゃ一応秘伝なんだが……。粉末にして鍛造の時に練り込んだり、溶かしたり色々さ」
それから彼は秘伝といいながらも、加工の内容を話してくれた。勿論肝心な技術面はぼかしてだ。
「魔剣ってなぁ、基本地脈石と鋼の混合物でできてる。だが、こいつが厄介でな。魔法の通しを良くすると、脆くなっちまう」
セングリンが棚から様々な材料を出してきて並べる。私はそこまで詳しくないから見てわからぬが、鋼にも何種類かあるようだ。
「で、龍の素材ってのはそれぞれ頑丈にしたり、しなりを良くしたり、魔力の通りを良くしたりする」
「なるほど。弱点を削ったり、長所を伸ばしたりできるわけだな」
「おうよ。ただ、それは微小な量での話だ。今回は話が違う。これだけ丸々使えば、かつてない物ができるだろうよ」
彼が自信ありげにふんぞりかえる。ドワーフの寸詰りな体型だと、どこか滑稽に見える。だが、その自信は確固たるものであろう。
「全て使ってしまわんでも良いのではないか? 作った後の残りをとっておいてもよかろう」
「いーや。これは俺にとっての挑戦だね。ドワーフ一族の過去を塗り替えてやる」
少しでもとっておけば、今後の鍛冶にでも使えるし、金にもなったであろうに。彼にはそんな考えはすっぽ抜けているらしい。
彼の目に映るのは、今まで誰もなし得ていないことへの挑戦のみだ。
「だが問題は、時間だな。確か次の試合は──」
「次の週末だな。間に合うのか?」
「間に合うか合わねぇかじゃねぇ。間に合わせる。あんたにゃ俺を、信じていてほしい」
かつてない事への取り組みだ。それなりに時間は要するだろう。普通の鍛冶師であれば不可能な事かもしれん。
だが彼は私も認める随一の鍛冶師。その彼が間に合わせると断言したのだ。
ならば私ができることはただ一つ。大人しく待つのみだ。
「良い。全て任せる。結果を期待しているぞ」
「おうよ。あんたが目ん玉ひんむくの、楽しみにしてるぜ」
それだけ言葉を交わすと、私は彼の店を後にした。
さて、どのような結果がでるか。私も楽しみにさせてもらおうではないか。




