邪神ちゃん また叱られる
「ようやっと戻ってこれたか……」
あれから穴の中を彷徨い、なんとか地脈を見つけることで王都に戻ってくることができた。
外に出れば、もう空は真っ暗だ。寄宿舎まで飛行で戻る。
窓に灯りはない。サラはもう寝ているようだ。これまでの旅を思い出しながら窓を開ける。
すると、待ち構えていたように、部屋に明かりが灯った。
「アールーカーちゃーん?」
「さ、サラ……」
灯りの元をみれば、憤懣やる方ないといった雰囲気のサラが仁王立ちしていた。
普通に出かければ止められると思ってこっそり旅立ったのが仇となったか。
「まるまる三日、何してたのかな?」
「う、うむ。試合に向けて用意をだな……」
何とか彼女の怒りをおさめようとするが、一向にその様子は見えない。
ずいずいと近寄られると、ガッと両肩を掴まれた。
「授業のすっぽかしに欠食。誤魔化すのも大変だったし、心配したんだよ?」
「それはすまなんだ。しかし必要なことでな」
ぎりぎりと肩に力が加わる。サラめ、見た目に似合わず結構な膂力を持っておるではないか。
私とはそれなりにステータスの差があるはずだというのに、今私は痛みを覚えている。
それは彼女の心配ゆえにだろうか。
「毎回毎回、毎っ回! 勝手に飛び回って変な事に首突っ込んで! 落ち着きってものはアルカちゃんの辞書にはないのかな!?」
サラが両肩を掴んだまま、私を前後に揺する。疲れている所にこれは、なかなか効いた。頭がぐわんぐわんする。
「待て、わかった。取り敢えずまずはサラが落ち着け」
「心配、する身にも、なってよね!」
「ぶむ」
必死で彼女を止める。
揺さぶりが終わったと思いきや、次は両手で頬を挟まれた。思わず変な声が出る。
「ほんっとに、今度はどこまで行ってたの? 服、すっごい変な匂いするよ?」
「何げにその言葉は傷付くのだが……まぁ海に入ったりしておったからなぁ」
着ている私には麻痺して気づかなかったが、恐らく相当磯臭いであろうな。
それに着の身着のまま過ごしていたから尚更だろう。
「私の気分的には、アルカちゃんをお風呂が閉まってなかったら、今すぐそのまま放り込みたいぐらい」
「まるでにゃんくろーを洗う時のような事を言うな。ええい、体を拭いて着替えればよいだろう」
その場で取り敢えず服を全て脱ぐと、亜空庫へと放り込む。
そして魔法で湯を空中で沸かし、手拭いで体を拭っていく。
「もー、すぐそうやって不貞腐れる」
「ええい、結構な距離を移動して疲れておるのだ」
手早く湯で体を清めたら、寝巻きに着替える。正直すぐにでも横になりたいのだ。
「寝る直前はほんとはダメだけど……。はいこれ、どうせろくに食事とかしてないでしょ?」
サラがベッドに腰掛けた私に包みを差し出してくる。覗けば、中にはサンドイッチが収まっていた。
「まさか、毎晩用意しておったのか?」
「そうだよ。厨房にお願いして作ってもらったの。帰ってこなかった分、私が食べなきゃいけなかったんだからね! 太ってたらどうしよう」
がさがさとサンドイッチを取り出して、頬張る。
固めのパンとハム、そして野菜のシンプルな組み合わせだ。
彼女は私が帰らぬ夜もこれを用意してくれていたらしい。
「まぁ見たかぎり、丸くなった印象はないから大丈夫であろう」
「原因の人にそう言われても……」
サラの見た目は結構細い。足や腕など、何がしかの枝かと思うほどだ。
彼女は心配そうに自分の腹回りを摩っているが、そこも変わった様子はない。
むしろもう少々肉を付けたほうがよいと思うのだが、それを言うのは今は得策ではないだろう。
私でもそれぐらいの分別はつくのだ。
「寮長とか先生には病気っていって誤魔化したから、明日しっかり顔出してきてね」
「よく誤魔化せたな」
「寝てるところ覗き込んだりまではしなかったからね。ニャルテちゃんに布団に入っててもらったんだ」
彼女の濃い青色の髪であれば、薄暗がりで黒く見えたのだろう。
うまいことやってくれたわけだ。
「何にせよ、アルカちゃんは少し反省しなさい」
「むぐん」
食べている所に、軽く頭を叩かれる。
そこに籠っていたのは彼女の優しさと、心配の感情であった。




