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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
110/208

邪神ちゃん 準備する 6

蛇蝎(Neidr)如く(fel)

 

 クロがその場で軽くジャンプしながら、口ずさむ。その途端、彼の姿が陽炎のようにうねり、迫ってきた。

 残影すら残すような速度。剣に魔法をかけ、間合いを延長してその影に叩き込んだ。が、手応えはない。

 私の剣閃を、クロはぬるりと蛇のようにくぐり抜けていた。

 

「いつまで余裕こいてるつもりだ?」

 

 空いた脇腹を拳が掠める。避けたつもりではあったが、衝撃がびりびりと鎧を通して駆け抜けた。

 懐まで潜り込まれた状況では不利だ。こちらの間合いに引き摺り込むべく、距離を取る。

 が、奴は私のそのスピードにそのまま食らい付いてきた。

 

「おらよ!」

「三度も食らうか!」

 

 ボディを狙った一撃を剣で弾き飛ばした。その勢いを保ったまま、間合いを確保する。

 武器を構え直すころには、クロは余裕そうに頭の後に手を組んで、こちらを眺めていた。

 こやつ、何だかんだと飄々とした態度を取りながらも、結構な実力派ではないか。

 しかも魔法の武技の組み合わせが絶妙に上手い。学園で5位ではあるが、その実もっと上を目指せたのではないだろうか。

 

「やはり、こうでなくてはな。面白くなってきたではないか」

「まだ俺はノーダメだぜ。1位さんよ」

 

 これは私も真面目にやらねばならぬな。おめおめ殴られてお終いというわけにはいかん。

 奴が今まで以上の実力を示してきたならば、それに応えねばな。

 呼吸とともに魔力を取り込み、マナへと転換。それを体全体と武具へと流し込む。

 

炎よ(Fflam)肉体を(Corff)巡れ(Taith)!」

 

 マナを燃料にして身体に熱量を循環させる。鎧と剣に赤い筋が走り、私の周囲にはマナの燃焼を示す赤い蛍火が舞う。

 眼帯を外し、魔眼を露出。ぎしりという音と共に剣を両手で握り込んだ。

 

「はっ!」

 

 巡った力を足に、地面を蹴る。一気に間合いを詰めて、剣を突き出した。

 もはや手加減とはいうまい。視界に拳で剣を防ぐクロが映る。

 直後には、高速の剣撃と拳撃が轟音と共にぶつかりあった。

 何合も、何合も息が詰まるような連撃が続く。

 お互いの攻撃が身体を掠め、露出した部位に幾多の傷を生んだ。

 

燃えろ(Llosgi)燃えろ(Llosgi)!」

 

 勢いで弾き飛んで距離が離れた隙に、炎の魔法を複数展開。私の背後に浮かんだ魔法陣から炎の弾がクロに向かって飛んでいく。

 

「魔法は、効かねぇんだよ!」

 

 彼はそれを恐れる事なく拳で撃ち抜く。恐らくは拳甲が魔道具だと思っていたのだが、これは──

 

「武技で魔法に干渉するとはな。なかなか珍妙なことをするではないか」

「魔法つったって、所詮は現象だろ。なんなら雷でもブチ込んでみるか? 捻じ曲げてやるぜ」

 

 どこの流派かはわからぬが、こやつが使う拳術は厄介だ。魔法という間合いの有利さを打ち消してくる。

 自身ありげに言う以上、雷系術式も通らんだろう。恐らく物理干渉的な魔法は全て弾き飛ばすと思って間違いない。

 しかし、弱点はある。

 再び強く地面を蹴って、間合いを詰める。

 ぶつかる剣と拳。だが、先ほどと違うことが一つある。

 クロの拳が僅かづつだが、完全に機を合わせられずに後手後手に回り始めたことだ。

 

「くっそ、やりやがったな!」

「ふはははは! 魔法は効かないんじゃなかったのか!?」

 

 原因は私の魔眼だ。クロは魔法は効かぬと宣言していたが、目の前の炎に眩まされて気付くのが遅れたのだ。

 勿論一気に捻じ込んでいれば、奴もそうそうに気付いただろうし防御の術は持っていたはずだ。

 私はそれを見越して微弱なマナでゆっくりと仕掛けていた。気付きにくいように、遅延の魔眼を僅かづつ、だ。

 城壁が崩れるのは、小さな小さな穴からというもの。

 ましてや、連撃の体勢に入ってしまってからは、解除の魔法を展開する余裕もない。

 

「クソが!」

 

 だが、それをカバーするかのようにクロの肉体に力が篭った。

 一旦遅れた攻撃が徐々にスピードを取り戻していく。

 お互いにヒートアップし、手に伝わってくる衝撃も増す。

 

「そこまでにしましょうか」

 

 それは唐突だった。私も目の前のクロに集中していた所為か、気付くのが遅れた。

 リカルドが私たちの間に割り込み、拳と剣を受け止めたのだ。

 

「これ以上は危険ですよ。本番を前に怪我をすることもないでしょう」

 

 涼しい顔をして言ってのける。だが、リカルドが言うことも尤もだ。

 大人しく武器を退く。

 

「競技会でケリつけようぜ。負け数が多いほうが、飯屋で奢りだ」

 

 熱が冷めたのか、クロも大人しく拳をさげるとミクリアの下へと戻っていった。

 私も剣を鞘に戻し、修練場の端へ向かう。

 

「鼻血まで出して。ほら、もう」

 

 近づいてきたステラが私の姿を見かねてか、ハンカチで私の顔を擦ってくる。

 

「邪神って、もうちょっとスマートだと思っていたわ」

 

 彼女は拭ったハンカチをしまうと、どこか落胆したようにつぶやいた。

 そうは言われてもな。ステータスとスキルを全解放すれば、その様に振る舞うことも可能であろうが……

 人外領域の力は反動も凄まじい。練習試合にそこまですることもないだろうし、そもクロの実力も迫るものがあったのだ。

 

「お主なら出来たか?」

「余裕よ。下手にぶつからなくても飽和攻撃でどうとでも」

「それは……スマートなのか?」

「火力は正義。良い言葉よね」

 

 そう言うと彼女は手に持った短杖をくるくる回す。あまり話した事がなかったから、彼女の為人はあまり知らぬが、中々過激な一面があるらしい。

 それに、クラスであまり人と話している姿を見かけなかったが、こうしてみると意外に饒舌だ。

 

「なにその目」

「いや、見た目にはよらんなと思ったまでだ」

「魔女だもの。さ、私はええかっこしいの王子様でも爆破してこようかしら」

 

 どうやら彼女はリカルドと目が合ったらしい。

 離れてはいるが、二人は互いに頷きあうとフィールドへと上がっていった。

 

 

 

 

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