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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 少女編
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邪神ちゃん 調査する 3

「これで駄目だと、消耗戦だな……」

 

 探査術式を展開して、一日経った。にゃんくろーも一旦帰還させたが、めぼしい情報はなし。

 相手も、探査術式で探られているのは解っているだろう。目立った動きもない。

 これでは私が探査術式を打ち切るか、相手がしびれを切らすかの二択だ。

 一応王都全体は無理だが、学園内の人がいる区域には防御術式を施した。

 しばらくはこれで凌げるし、魂を削がれた人間も何事もなく時間がたてば元気を取り戻すだろう。

 

「ごめんね、アルカちゃん。なんか体調悪くて……」

「気にすることは無い。普段は世話になっているからな。大人しくしておれ」

 

 サラは今の状況を風邪か何かだと思っているらしい。

 これは幸いというべきだろう。魂を削がれたなどという情報、知らぬほうがよい。

 

 それにしても、この状態を維持するのは正直に言えば結構辛い。

 確かに私のステータスはずば抜けているし、魔力のくみ取りとマナの転換も何の問題もない。

 だが、集中力はまた別物だ。探査に気を向けながら、防御術式を維持する。これは中々に至難の業だ。

 これならば防御に関しては魔道具でも作れればよかったのだが……材料がない分にはどうしようもないのだ。

 

「アルカ・セイフォン。いますか?」

 

 そんな折、扉から声がかかった。開けてみれば青白い顔をした、生活指導の女性教師がそこに立っていた。

 

「大規模探査術式と無断で学園そのものへの術式展開に疑義がかかっています。指導室まで来なさい」

「いや、これに関して私は──」

「学園でこのような大規模術式を扱えるのは教師以外は数人しかいません。疑いを晴らすのであれば、同道を」

 

 否認をしたが、疑いは晴れないようだ。体調は皆と同様、良くはなさそうだが教師の責務を果たさんとしているのだろう。

 この場で押し問答をしていても仕方ない。これは着いていって状況を説明して理解してもらうしかないだろう。

 サラは再び眠っているようだ。後ろ髪を引かれる気になりながらも。彼女の後に従う。

 寮を出てたどり着いたのは素行や成績が悪い生徒が呼び出されるという『指導室』だ。

 中に入れば着席を促される。ここはおとなしく従っておこう。

 

「紅茶は飲みますか?」

「む、頼もうか」

 

 意外なことに、教師の言葉に険はない。それどころか、落ち着かせるためにか紅茶を勧めてくる。

 

「貴方に悪気があって行った術式とは思えません。理由を教えていただけましたら、教師の方で術式を引き継ぐこともできますよ」

 

 しゅうしゅうと湯の沸く音と共に、教師が優しい声でつぶやく。そこまで理解しているのなら、ここまで呼び出さずとも良いだろうに。

 いや、体面というものもあるか。形だけみれば私は勝手に大規模な魔法を行使しているわけなのだからな。

 

「どこから話したものかな。感知しにくいが、今王都には奇妙な魔法が掛けられている」

 

 かちゃかちゃと器の音を立てながら、紅茶の用意をする教師の背中に向けて告げる。

 教師からの協力を得られれば、下手人を捉えるのも早まるかもしれん。

 

「それは、私たちの体調の悪化に関わるものですか?」

「そうだ、そうなのだ。理解してもらえるかわからぬが、その体調は魂の一部をはぎ取られた感覚らしい」

 

 ことりと目のまえに紅茶が置かれる。良い香りだ。教師だけあって良い茶葉を使っているのであろう。

 

「なるほど。それを探るために、大規模な魔法を行使したと?」

「うむ、どの程度はぎ取られたのかはわからんが、レベルやステータスの低下を招いている。いずれは死に至るかもしれん。止めねば」

「気が逸っているようですね。少し落ち着きましょう」

 

 教師が手で紅茶を指し、勧めてくる。確かに友人がみなやられて気が急いているのは確かだ。

 勧められるままに紅茶を手に取り、一口飲む。うむ、さわやかな風味にバランスの良い苦味。シンプルで良い味だ。

 対面に座った彼女も同様に紅茶を飲む。一概に決めつけず、落ち着いて話させる良い教師なのだろう。

 

「貴方の伝えたい事はわかりました」

 

 ゆったりとした動作でカップを置きながら、女性教師が言う。ああ、彼女の名前は何と言ったかな。

 よく武技の授業で担当してくれる──

 そこまで考えたところで、体が傾ぐ。なんか、妙だ。意識が、思考が保てない。

 

「教師として教える事は一つ。人に勧められたものを疑いなく口にするなかれ」

「なに……を……」

「学園内で強者の位置を保つ貴方でも、一服盛ればこの通り。搦め手ってやっぱりつまらないわ」

 

 ぐるぐると思考が回る。一服盛った? 何故? こいつが下手人? いや、彼女は武術専門で魔法の知識はほとんどなかったはずだ。

 

「セレヴン、お望みのものが手に入ったわ」

「おお、おお。これは良い。良い生贄になりそうだ」

 

 彼女の呼びかけに、どこからか見慣れぬ男が姿を現す。

 そういう、ことか。この男が……

 同時に思い出した。彼女の名は、メローネ、だ。

 私の意識はそこまで思考が及んだところで、途絶えてしまった。

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