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邪神さん 邪神ちゃんに 転生す  作者: 矢筈
邪神ちゃん 幼少編
1/208

邪神さん 倒される

「お前たちに心の闇が残る限り、私はまたいずれ現れるだろう。心しておくのだな……」

 

 定型の台詞(・・・・・)と共に自らの身体が塵となって崩れていくのを感じる。

 緩やかな滅びの感覚と共に目を閉じ、また開ければ──

 

「うぇーい! おっつかれー!」

 

 何処までも続く白い世界の中、ゆったりとしたローブを着た女がハイタッチを求めてくる。

 それに応えて手を合わせれば軽い音が鳴り響く。

 

「今回もこれで独り立ちはできそうか?」

「ばっちしばっちし! これで数百年は保つんじゃない? それよりもはい! 駆け付け一杯!」

 

 掲げた手に、いつの間にやら彼女の手に生まれていた酒盃が添えられる。

 それをグイと呷れば喉が焼けつく感覚と共に冷たさが腹に落ちる。

 

「他の子もみーんな待ってるから、早くいこ!」

 

 手を取られ草原を歩めば、長机とそれに座った者たちが見えてくる。

 

「よお! 邪神、見事なやられっぷりよな!」

「お前の与えた神器もなかなかのものであったよ、戦神よ」

 

 迎えてくれた偉丈夫と盃を合わせる。そしてまた溢れんばかりに湧き出でた酒を呷る。

 そう、ここは神の座。

 世界の運営をする者たちの場所だ。

 そう、この邪神も(・・・)全ては世界の運営要素なのだ。

 ここに座すは12の神。それぞれが役割を持ち数多の世界を作り救い、壊している。

 

「いやー、もう何回目かわからないけど、立ち上げ後の一杯はサイコーよね! この一杯の為に神様してるーって感じ!」

「この一杯といいつつ、それは何杯目だ」

「んー、十杯目。だーって貴方の戦闘シーンなんていいつまみじゃなーい!」

 

 人の仕事姿をつまみにするとはなんたる太い奴だ。

 とはいえ、彼女は創造神、私とは正反対の存在でなおかつ私は彼女の被造物だ。

 例えるなら上司だ。他の神共は同僚になるな。

 

「おい、酒神よ。これを止められんのか」

「無理よの。ワシが酒を出さねば自分で酒樽を作るだろうよ」

 

 その通りではあるが。この、常時酔っぱらいに近いこれが世界の頂点たる創造神かと思うと頭が痛い。

 

「ま、諦めたら?」

 

 隅っこでちびりちびりと盃を傾けているのは魔法神だ。彼女はもう弄り倒された後らしく、髪がボサボサだ。

 そして、手の重みに目をやればまた溢れんばかりに酒が注がれている。

 

「邪ー神の! カッコいいとこ見ってみたい!!」

 

 上司に向かって言うのもなんだが、こいつは下界の文化に染まりすぎではなかろうか。

 しかし、ここで冷めた態度を取るのも悪手。大人しく盃を呷る。

 が、今回はいつもとは違う。ガツンとした感覚と共に頭の中があやふやになっていく。

 馬鹿な、アルコールは全て破壊できる、はずなのに。

 

「いっつも酔わずに澄ましてるから、邪神でも酔っ払えるお酒作ってみましたー!」

 

 なぜ、こいつは、そんな余計なことばかりに力をそそぐのか。

 

「ほらほらー。普段お澄まししてる分ここて吐き出しちゃいなよー!」

 

 あぁ、だがこれは心地よい。普段は抑え込んでいる感情が全て解き放たれていくようだ。

 

「お主、やはり苦労しておるのだな……」

 

 戦神が肩に手を置いてくる。

 うるさいぞ。お前だって人の事言えないくせに。 

 

「まぁ、なんだ。今日くらいは好きにすれば良いではないか」

 

 そうだ、私は今まで頑張ってきたんだ。

 少しぐらいハメを外したって罰など当たるまい。

 

「なぜ、私だけが倒されるがわでなければならんのだ!」

「おぉ!  邪神が素直になった!  よっしゃ!  飲め!」「おうとも!」

 

 空になった盃には合間を置かず酒が溢れ出す。

 何杯目か最早わからぬほど呷れば、心のうちに留めていたはずの言葉が漏れ出す。

 

「私とてたまには倒す側にまわりたい! たまには人々に崇められる側になってもよいではないかー!」

 

 こうして神々の酒宴は更けていった。

 そしてこの時、私は創造神が私なんぞより余程邪悪な顔をして笑っていたのに気づいていなかった。

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