道化
常勝無敗の大将軍が倒れた戦場は一気に風の向きが変わった。
大量の死体が横たわる戦いの過ぎ去った荒野に横たわっていた男は、切り傷ひとつ無い体の上から味方の死体を退かす。
「ふぅ、死ななくて良かった。さて、この国ももう終わりか」
戦場から離れた川で体に付いた血を洗い流しながら、生き残る術を現状整理しながら考える。
今まで住んでいた軍事大国シクレノンシュルツは、突如現れた男が快進撃を続けに続け、一代で大陸最強とまで呼ばれるようになった。
だがそんな天下の軍事大国もこの戦闘で小国に敗れ、どれだけその男に依存し切っていたか身に染みて分かるだろう。
割りを食う前にこの国から脱出して、何とか大国に潜り込まないといけない。男はそう考えていた。
「デビューから無敗だったから期待してたのに、こんな大国の軍に潜り込めるなんて早々ないチャンスを」
普通ならば期間を設けてテストや適正などをしっかりと吟味されるが、大将軍がぽっと出のシクレノンシュルツでは、実績無しでも志願した者でも受け入れられる上に、力があれば簡単に上へ登っていける。そんな最高の下克上の機会を潰された事を愚痴りながら顔を上げると、いつの間にか大量の兵に囲まれていた。
「待て待て、俺は怪しくない」
「この男の荷物と思われる物に剣とシクレノンシュルツの国章が」
「十分だ、この男を拘束しろ」
「あー待った待った！ ティメリアの為に情報を集めてただけだって」
取り囲む兵士を掻き分けながら歩いて来た白髪ロングの女が、赤い瞳で男の心を見透かすように見つめる。少しの間考えた後に左、右と視線を動かした後に右手を少しだけ上げる。その合図と共に兵士が向けていた武器を収める。
「ギルフェルク将軍が出したか分からない以上、下手に手出しも出来んしな」
「将軍の命を受けたけど他のやつらはやられちまってさ、良かった友軍が来てくれて」
「だが拘束させてもらう。全員ここで殲滅行軍を停止と共に聖都へ帰投する、戦果は無いが止む無し。こいつの持つ情報を手土産として戻る」
