初回ログイン4
その後は入信後の注意点を聞き、ファスト教会の中枢の面々との挨拶を終え。
昼食と夕食その他諸々のために一端ログアウトした他は、ひたすらゲーム内にいて、ファスト教会の面々から『彷徨う死者の導き方』を教えてもらったけれど、全く参考にならなかった。
『お茶会をします』
と事務方トップのシスター・メリー。
『殴り合いだな!』
と孤児院トップのブラザー・ショーン。
『じゃんけん……?』
と教理方トップのシスター・ハンナ。
『問題を出して出して出します』
と経理方トップのシスター・リリー。
「むむむ」
「習うより慣れろ、ですよ」
マザー・アンナはそう笑う。
「……何か隠してますよね?」
「隠していますが、入信したら教えます」
つまりクエストが無事終われば教えてもらえる、と。
「ならいいです」
「聞き出さないのですか?」
マザーはいたずらっ子のような笑みを浮かべるも、私の答えは決まっている。
「後から教えてもらえるようですし、聞き出す必要はないかな、と。それに教えないことに意味があるようですし」
「分かっているようですね。なら私から言うことはありません」
そうして迎えた夜。
「んん??」
街の北東の端にある教会の北側の墓地は、不気味な程静まりかえっている。
「虫がいない……?」
この暖かさなら、虫が鳴いていそうなのに。
「お墓はキリスト教みたいな形なのに、その中にあるのは遺品の入った壺って、日本の仏教みたいだね」
この世界では、普通に死ねば死体が残らない。だから遺品を、金銭的な価値のない遺品をお墓に入れるのだという。
「んん?」
そんな墓地を歩き回ることしばし。東の方にあるお墓から、何か悲しい気配がした。
「……何だろう?」
近付くと。
『ああ、僕は死んだのか』
青白い、半透明の青年が宙に浮かんでいた。
「ああ、貴方が『彷徨う死者』なのですね」
『君は……? 修道士、ではないようだけれど』
「一応、その見習いです?」
『ああ、僕は修道士未満に導かれるのか……』
「なんかごめんなさい」
悪いことをした訳ではないのに、悪いことをしたような気になってしまう。その一方で、何が彼を卑屈にしているのか、気になった。
「ところで、君は何をしていた人なの?」
『……ああ、僕はジョングルール。その日暮しの吟遊詩人さ』
「……えーっと、無知で申し訳ないんですが、ジョングルール、って名前ですか?」
『違うよ』
青年は苦笑する。
『誰かに雇われていない吟遊詩人を、ジョングルールというんだ。雇われれば、ミンストレルになる』
「なるほど」
吟遊詩人にも色々ある、ということか。
「で、何がそんなに悲しいの?」
『ああ!』
途端に、青年は嘆きの色を濃くする。
『僕は売れない吟遊詩人。最期の一カ月は、誰にも曲を聞いてもらえなかったのさ!』
確かにそれは悲しい。
「んー……、篠笛でよければありますけど……」
『僕の専門はギターでね』
「あれまあ」
それは残念だ。
「貴方の曲、聞きたかったなあ……」
『そう言ってくれるかい!?』
すると。
「どこから取り出したのそのギター……」
青年は半透明の青白いギターを抱えていた。
『この墓に納められているのさ!』
「……よく分からないけれど、曲聞けるのですか?」
『おうとも!』
すると、青年は曲を弾き出す。
始まりこそゆったりだったけれど、思わず踊りたくなるような、軽快で楽しい曲だ。
「わ! わ!」
聞いていて楽しくなる。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいを
『これが僕の得意な曲『ジーロでまた会おう』さ!』
「わ凄い!」
パチパチと私は拍手をし。
「ねえ! 私も一緒に演奏していいですか!?」
とストレージから初期配布の篠笛を取り出す。
青年はびっくりした表情を浮かべた後。
『いいとも!』
と喜んだ。
『ジーロでまた会おう』『ファストの川辺』『セカンダの鹿狩り』と三曲立て続けに演奏する。久々の篠笛にミスも多かったけれど、青年も私も楽しくて仕方がなかった。
『ふう! ありがとう!』
「こちらこそ!」
ハイタッチを交わすと、青年ははっとした。
『『あの世』への行き方を思い出した! ありがとう!』
「え!?……私、何もしてませんよ!?」
突然のことに驚く。
『音楽の楽しさが思い出させてくれたのさ!』
「そっかあ。良かった」
心からそう思う。
「いつか私があの世に行ったら、また一緒に演奏しよう!」
心のままに言うとを
『その時までには、もっと上手くなれよ!』
と茶化される。
「頑張ります!」
『おう! 頑張れ! じゃあな!』
こうして私は、『彷徨う死者』をひとり、『あの世』に導くことが出来た。