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 その後は入信後の注意点を聞き、ファスト教会の中枢の面々との挨拶を終え。


 昼食と夕食その他諸々のために一端ログアウトした他は、ひたすらゲーム内にいて、ファスト教会の面々から『彷徨う死者の導き方』を教えてもらったけれど、全く参考にならなかった。


『お茶会をします』

 と事務方トップのシスター・メリー。

『殴り合いだな!』

 と孤児院トップのブラザー・ショーン。

『じゃんけん……?』

 と教理方トップのシスター・ハンナ。

『問題を出して出して出します』

 と経理方トップのシスター・リリー。


「むむむ」

「習うより慣れろ、ですよ」

 マザー・アンナはそう笑う。

「……何か隠してますよね?」

「隠していますが、入信したら教えます」

 つまりクエストが無事終われば教えてもらえる、と。

「ならいいです」

「聞き出さないのですか?」

 マザーはいたずらっ子のような笑みを浮かべるも、私の答えは決まっている。

「後から教えてもらえるようですし、聞き出す必要はないかな、と。それに教えないことに意味があるようですし」

「分かっているようですね。なら私から言うことはありません」


 そうして迎えた夜。

「んん??」

 街の北東の端にある教会の北側の墓地は、不気味な程静まりかえっている。

「虫がいない……?」

 この暖かさなら、虫が鳴いていそうなのに。

「お墓はキリスト教みたいな形なのに、その中にあるのは遺品の入った壺って、日本の仏教みたいだね」

 この世界では、普通に死ねば死体が残らない。だから遺品を、金銭的な価値のない遺品をお墓に入れるのだという。

「んん?」

 そんな墓地を歩き回ることしばし。東の方にあるお墓から、何か悲しい気配がした。

「……何だろう?」

 近付くと。

『ああ、僕は死んだのか』

 青白い、半透明の青年が宙に浮かんでいた。

「ああ、貴方が『彷徨う死者』なのですね」

『君は……? 修道士、ではないようだけれど』

「一応、その見習いです?」

『ああ、僕は修道士未満に導かれるのか……』

「なんかごめんなさい」

 悪いことをした訳ではないのに、悪いことをしたような気になってしまう。その一方で、何が彼を卑屈にしているのか、気になった。

「ところで、君は何をしていた人なの?」

『……ああ、僕はジョングルール。その日暮しの吟遊詩人さ』

「……えーっと、無知で申し訳ないんですが、ジョングルール、って名前ですか?」

『違うよ』

 青年は苦笑する。

『誰かに雇われていない吟遊詩人を、ジョングルールというんだ。雇われれば、ミンストレルになる』

「なるほど」

 吟遊詩人にも色々ある、ということか。

「で、何がそんなに悲しいの?」

『ああ!』

 途端に、青年は嘆きの色を濃くする。

『僕は売れない吟遊詩人。最期の一カ月は、誰にも曲を聞いてもらえなかったのさ!』

 確かにそれは悲しい。

「んー……、篠笛でよければありますけど……」

『僕の専門はギターでね』

「あれまあ」

 それは残念だ。

「貴方の曲、聞きたかったなあ……」

『そう言ってくれるかい!?』

 すると。

「どこから取り出したのそのギター……」

 青年は半透明の青白いギターを抱えていた。

『この墓に納められているのさ!』

「……よく分からないけれど、曲聞けるのですか?」

『おうとも!』

 すると、青年は曲を弾き出す。

 始まりこそゆったりだったけれど、思わず踊りたくなるような、軽快で楽しい曲だ。

「わ! わ!」

 聞いていて楽しくなる。

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいを

『これが僕の得意な曲『ジーロでまた会おう』さ!』

「わ凄い!」

 パチパチと私は拍手をし。

「ねえ! 私も一緒に演奏していいですか!?」

 とストレージから初期配布の篠笛を取り出す。

 青年はびっくりした表情を浮かべた後。

『いいとも!』

 と喜んだ。

 『ジーロでまた会おう』『ファストの川辺』『セカンダの鹿狩り』と三曲立て続けに演奏する。久々の篠笛にミスも多かったけれど、青年も私も楽しくて仕方がなかった。

『ふう! ありがとう!』

「こちらこそ!」

 ハイタッチを交わすと、青年ははっとした。

『『あの世』への行き方を思い出した! ありがとう!』

「え!?……私、何もしてませんよ!?」

 突然のことに驚く。

『音楽の楽しさが思い出させてくれたのさ!』

「そっかあ。良かった」

 心からそう思う。

「いつか私があの世に行ったら、また一緒に演奏しよう!」

 心のままに言うとを

『その時までには、もっと上手くなれよ!』

 と茶化される。

「頑張ります!」

『おう! 頑張れ! じゃあな!』

 こうして私は、『彷徨う死者』をひとり、『あの世』に導くことが出来た。

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