初回ログイン3
『備考:地蔵菩薩の助手候補』の件はそうあっさりとかたがつき。残るは、いつの間にか生えていた【普通祈祷Ⅲ】と【劣級神聖魔法Ⅰ】の話となった。
「【祈祷】は、聖職者に必須のスキルね。『良いことがありますよう』ってお祈りするだけのスキルよ」
スキルのレベルは、下から『劣級』『初心』『普通』『見習い』『職人』『熟練』『達人』で、これは補正のかかる全てのスキル共通だそうだ。
「【神聖魔法】は聖職者だけが使える魔法。でも、攻撃も生産も、一切出来ないわ」
基本的に【神聖魔法】は、『彷徨う死者』を『あの世』に送ったり『邪に属するもの』と『討論』したりするだけのスキルらしい。
「怪我を治したりするのは……」
「それは【回復魔法】ね。各属性の魔法を『職人』まで鍛錬してから誰かに教えて貰えば、使えるようになるわ」
それは難しそうだ。
「まあ、これらのスキルは習うより慣れろ、ね」
「なるほど」
「という訳で、お仕事、やってみない?」
「へ?」
「ほい、っと」
~~~~~
クエスト:墓地を彷徨う死者
ファストの墓地に『彷徨う死者』が現れた。『あの世』への行き方を忘れた彼らを導こう!
条件:夜間限定。一体導けばクリア。
報酬:ファスト教会への入信 または 千ゴールド
~~~~~
「え、あの、これは?」
「私が発注した『クエスト』よ。教会に入信すれば、タダで発行出来るようになるわ」
なるほど、クエストはNPC、いや住人自ら発行出来るのか。
じゃなくて。
「『教会への入信』って、どういうことですか?」
「言葉通り、教会の修道士になることよ。とはいっても、『教会』の法典はユルッユルでねえ。『悪さをしない』『世の中の役に立つことをする』『自分と他者の信仰を守る』。以上三つしかないの」
確かにユルユルだ。
じゃなくて。
「どうしてそれが報酬になるのですか?」
「それはね、ただの異邦人には『市民権』がないからよ」
「えっ!?」
市民権がないと、家や土地を持つことが出来ないばかりか、社会的なセーフティもないらしい。
「いくら異邦人が『死に戻り』出来るとしても、『部位欠損』の中には回復出来ないものもあるわ。そうなった時に欠損部位の再生を出来るのは、市民権のある人だけなの。そして入信した信者は、例え異邦人であろうと市民権が付与されるわ」
なるほど確かに『教会への入信』は、高い報酬だ。
「……分かりました。少しだけ、考えさせてください」
「ええ、いいわ」
と時間を貰って攻略サイトを調べる。
どうも市民権については知られているものの、市民権を保有すると『空腹度』『渇水度』『睡魔』というゲーム内パラメーターが追加され、これらが増加すればするほどステータスが低下するため、市民権を持つプレイヤーは極々一部のようだ。また、市民権を保有すると『痛覚限度』が無条件で五十パーセントまで上がることも、それを助長しているのだとか。
(痛覚を限界の九十パーセントにしている私には関係ない話だね)
つまりまあ、私が市民権を得ても何のデメリットもない、ということだ。
「すみませんマザー。『教会への入信』を報酬に、そのクエストを受けさせてください」
深々と頭を下げる。
「分かりました」
優しい声に頭を上げると、マザーは嬉しそうに微笑んでいた。
「では、『彷徨う死者』の導き方を教えますわね」
と、クエストの事前準備が始まったのだけれど。
「といっても、導き方は人それぞれなのよね」
という言葉にずっこけそうになった。
「ええー……」
「まあ、これは感覚によるわ。ラビッタも『劣級』とはいえ【神聖魔法】を持っているのだから、『彷徨う死者』を前にしたら分かるわ」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
そういうものらしい。
「まあでも、一応『討論』の方法は覚えておく方が良いわ。ラビッタは討論、って、知っていますか?」
「異なる意見をぶつけて、妥協点を見出だすことですよね?」
「そう! 大正解!」
パチパチ、とマザーは手をたたく。
「その通り、討論は対立する意見を言葉で戦わせて、妥協点を探すことです。これを『勝つこと』と勘違いしている人の、どれだけ多いことか!」
何やらマザーは不満が溜まっているようだった。
「ともかく、それが分かっているなら、大丈夫です。勝つのではなく、妥協点を探すこと。間違ってはいけませんよ?」