初回ログイン2
御布施に千ゴールド渡そうとしたらマザーに止められたので、五百ゴールドと初級HPポーション一本を渡し、教会を後に南北に長い四角の街の東の端の真ん中、東門近くにある冒険者ギルドに向かう。
「『ファスト教会』は街の北にあるから、地味に距離があるよね」
五分程歩いてたどり着いた冒険者ギルドは、中々大きな建物だった。
「通りの北にあるのが『ファスト冒険者ギルド』で、南にあるのが『ファスト冒険者ギルド買取所』。依頼の受注とかの書類関係は北の建物で、買取とかは南の建物ね」
分かりやすい。ただ。
「鎧って五月蝿いなあ」
金属鎧は言わずもがな。革鎧も擦れた音が結構五月蝿い。正直この通りには、あんまり来たくない。
比較的空いている『ファスト冒険者ギルド』の方に入る。ふたつあるのに、今はひとつしか人の立っていない『登録カウンター』に行く。
「すみません登録お願いします」
「はい。こちらの書類に書き込んでください」
エルフの青年(?)の職員説明に従って、書類に書き込む。万年筆の引っ掻くような音が心地よい。
「では、最後にこちらの水晶玉に手を置いてください」
「はい」
「ありがとうございま……、おや?」
青年は首をかしげる。
「ラビッタさん。確か保有スキルは【初心料理】【生活魔法】【演奏:篠笛(唄用七孔)】の三つなのですよね?」
「そのはずですよ?」
「それが、五つあります」
「え?」
慌ててステータスを確認すると。
~~~~~
名前:ラビッタ
種族:兎人族
スキル
【初心料理Ⅰ】
【生活魔法Ⅰ】
【演奏:篠笛(唄用七孔)Ⅰ】
【普通祈祷Ⅲ】
【劣級神聖魔法Ⅰ】
備考:地蔵菩薩の助手候補
~~~~~
なんかすごいのついてる。
「……ラビッタさん?」
「あっはい」
「スキルどうでしたか?」
「な、なんかふたつ新しいのが生えていました」
「なるほど。では五つで違いありませんね?」
「はい」
「……このように、スキルは突然生えてくることもあるので、小まめに見るようにしてくださいね?」
「分かりました」
うわのそらで冒険者登録を終え、二百ゴールドの『冒険者手帳』という冒険者の様々な規約の書かれた手帳を買い、『ファスト教会』にとんぼ返りする。
「ま、マザー! マザーいますか!?」
受付に尋ねると。
「え、ええ。今マザーは執務中ですが……」
「ちょ、ま、助けて! なんか! なんか凄いことに!?」
完全に語彙力が死んでいるが仕方ない。何なの『備考:地蔵菩薩の助手候補』って。攻略サイトにも公式サイトにも載ってなかったよ!?
「は、はあ。簡単なご用件であれば、私シスター・メリーが対応しますが……」
「や、こ、れ言いふらしたら駄目なやつ!」
「……はあ。では、一応伝えますね」
そのまま講堂で待つこと少し。体感時間だけは長く感じたものの、メニューの時計によると三分も経たないうちにマザーは来てくれた。
「先ほどぶりですね、ラビッタさん」
「マザー、これどうしよう……」
混乱のあまり思わず涙声になってしまう。
「どうなさいました?」
「ステータス見たら『備考』って書かれていて……」
「シーッ。それ以上は私の執務室で話をしましょうか」
教会の奥に進み、何やら本が沢山置かれている部屋の、応接机のソファに座らせられる。
「白湯で申し訳ないけれど、どうぞ」
「……ありがとうございます」
ポットから入れられた白湯の入ったカップを両手で受け取り、ひと口飲むと不思議と落ち着いた。
「……ところで、ステータスの話よね?」
マザーは私の左隣に座ると、白湯を片手に尋ねてくる。
「……はい」
「『備考』と書かれていたのよね?」
「はい」
「そう。なら【制約Ⅴ:この場この時ラビッタと話した内容は外部に伝えない】」
それは、初めて聞いた呪文だった。
「この【制約】の呪文は、宣言した内容を違えられなくなる呪文よ。『Ⅴ』なら、お互いの同意があれば、書き換えられるレベルね」
つまり、マザーはここで私が話す内容を漏らさない、ということだ。まあ、たとえそれが嘘でも、私は相談したいだけなので構わないのだけれど。
「……ありがとうございます」
軽く頭を下げる。
「いえいえ。で、その『備考』の内容にビックリしたのよね?」
「はい。『地蔵菩薩の助手候補』と書かれていて……」
「あらまあ」
マザーは目を見開く。
「その『助手候補』というのは、神々の補佐役の候補、ということだわ。たまになる人はいるけど、異邦人でなった人は聞かないわねえ」
つまりプレイヤーでなった人はいない、と。
「まあ、『助手候補』なら、神々から『任務』を受けることはなくても、『依頼』はお願いされるかもねえ」
マザー曰く、『任務』というのは絶対果たさないといけないことで、『依頼』は神々にとって果たして欲しいこと、らしい。『お願い』という果たしても果たさなくても何の影響もないものもあるそうだ。
「まあ、ラビッタはラビッタのままいれば、大丈夫よ」
「……分かりました。ありがとうございます」