プロローグ的な前置き
機械化の歴史は、騒音との戦いの歴史だ。
機械がより高性能に、より大型になるほど、機械の出す音は大きくなっていった。静音という考え方もあったが残念ながら一定以上音を抑えることは不可能だった。
そこで技術者達は考えた。
『音が出ても、それが一般人に聞こえない音なら構わないのでは?』
ここでミソなのは、『一般人』であって『人間』ではない点である。こうすることで、開発コストを抑えたのだ。
結果、私のような『一般人でない人間』、もっと言うと『他人よりも可聴域の広い人間』は地獄をみることとなった。
どこに逃れようと、追いかけてくる音、音、音。その騒音は一般人には聞こえないため、『五月蝿い!』と叫んでも狂人扱いされる始末。
この騒音に耐えられなくなった私は、同じように悩む同胞を集めて世界を股にかける企業百社近くを相手取って裁判を起こし、そしてあっさり勝訴した。企業が幾ら『採算が取れない!』と叫んだところで、こうして健康被害を出していては無駄なことだった。
予想以上の賠償金を得た私だったが、だからといって社会に戻れる訳もなかった。賠償金は払っても、静かな機械を開発するほど企業はお人好しではなかったのだ。
結果、こうして私は山奥に独り籠っている。
だが、孤独というものが容易に人を壊すことを知っていた私は、裁判の前から助けてくれている、ついでに言えば株主でもある企業『Dividing 2D』社の最新型フルダイブマシン『Small Submarine』を購入。
さて現実逃避しようか、といったところで、ゲーム会社のひとつである『SAGA』社から、仕事を貰った。
曰く。
『遊んだ時のデータを取らせてくれ!』
なんでも、私の『脳の異常』からくる『超聴覚』のデータを集めれば、フルダイブ型のゲームはもっと良くなる、とか。
という訳で、私は一日最低八時間『Fantastic Earth FullーDive』を遊ぶこととなったのだ。