第七話 解体
西さんの「せーの」という掛け声とともに、巨大な黒い物体は雨の打ちつける地面にごろんところがされた。
裏面があらわになるとともに、「ひぃっ」という小さな悲鳴がどこかから聞こえる。
そこには昆虫の足のような節々にとげのある細く小さな器官が、まるでたわしの目のように裏面いっぱいに生えていた。
今にもそのすべてがいっせいに動き出しそうで、私は思わず後ずさりした。
それは間違いなく生き物の死骸だった。
見た目からは節足動物だと思われるが、こんなに大きな種が地球上に存在するとは。
足の形状からして、恐らく地面を這うようにして移動するのだろう。
私はこれが生きているときの様子を想像し、身震いした。
「よし、じゃあ俺が解体するから」
背の高い男はおもむろに右手に持っていたナタを振りかざし、勢い良く生物の死骸を切りつけた。
死骸の中にある水分が、びしゃっと周辺に飛び散る。
外骨格に覆われた表面に比べてかなり柔らかいのか、ナタは奥深くまで突き刺さっていた。
我々がその光景を唖然として見守る中、男は容赦なく肉を裁断する作業を続ける。
しだいにドロドロとした粘り気のある破片が辺りに散乱し始め、かなり広範囲にわたって地面を覆った。
どす黒く若干赤みを帯びたその破片は、まるで細切れにした牛肉のように生々しかった。
辺りに充満する強烈な腐敗臭が、より一層強くなっていく。
雨に打たれているせいか、時折ぶくぶくと泡が立ち、辺りは一気にこの世のものとは思えないおどろおどろしい光景となった。
私を含むバイトの人間達が何もできないまま突っ立っている横で、西さんが手際良く飛び散った破片をゴミ袋に詰め込んでいく。
私はその様子を見て、『ああ、なるほど』とひとりごちた。
なるほど、死骸を片付けるという清掃なんだ、と。




