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清掃作業  作者: 春江口
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第五話 現場

外はおびただしい量の雨が降っていた。

雨足はまったく衰える気配がない。

つらい作業になりそうだ。

それでも雨具を着るだけで随分マシになった。

激しい雨粒が体に与えるダメージをかなり軽減してくれている。


「あんた、名前は?」


西さんはエンジンをかけながら、助手席に座った茶髪にそう尋ねた。


「鳥飼っす」

「鳥飼……、珍しい苗字だね。で、後ろの人は?」


親しげな笑顔がこちらに向けられる。


「前田です」

「前田君に鳥飼君ね。二人は知り合いなの?」


『とんでもない』

その一言が口から飛び出そうとしてあわてて飲み込む。


「いえ……、違います」


低いうなり声とともにワゴンが動き始める。

私の返答はちゃんと聞こえただろうか。

この雨の音では、後部座席から会話をすることが難しい。

できれば前の二人だけでしゃべってくれるとありがたいのだが。


「この仕事はやったことあるんだっけか?」

「いえ……」

「ああ、そう。前田君は?」


西さんは後ろを振り向いたまま、器用に車を運転する。


「僕も初めてです」

「そうかね。今日はあいにくの天気で少ししんどいことになると思うけんど、がんばってくれなぁ」


その後もとぎれとぎれではあるが、かろうじて進んでいく車中での会話。

とは言え、その中身のほとんどが西さんからの質問に短いセンテンスで答えていく二人、といったものだった。


どうやらこの鳥飼という茶髪の男も、私と同じくあまり会話は得意な方ではないようだ。

その点では、奴も自分と似たような人種なのかもしれない。


私は少しだけ茶髪に親近感を覚えた。


三人を乗せたワゴンは、ほとんどけもの道と言っていいほど頼りない道を抜け、少し道幅が広くなったとある一角にたどり着いた。

そこには薄汚い軽トラックが一台停めてあり、荷台には大きなゴミ袋がいくつか置いてあった。

真っ黒で中身が何も見えないその袋は、しっかりとしたビニールでできており、雨粒をはじいてひときわうるさい音を出している。


私はそのゴミ袋を見て少し安心した。

これからやる仕事が本当に清掃作業なのか、それすら疑っていたからだ。


「さぁ、ここからは歩きだ。ぬかるみに足を取られないよう気をつけてな」


西さんはフードの上から工事現場でよく使われる黄色いヘルメットをかぶり、それに装着されたヘッドライトを点灯した。

ぱあっと周辺が明るくなり、周りの木々に光と影のコントラストが鮮明に現れる。


気味の悪い光景だった。

より一層山が大きく感じられ、その圧迫感に息苦しくなる。


「はい、これ持って」


西さんは私達に懐中電灯を手渡すと、老人のものとは思えないほど確かな足取りで、山の奥深くへと入って行った。

木々の合間を器用に抜け、その背中はあっという間に見えなくなった。


見失ってはまずい。

茶髪と私は急いで後を追う。


土と雑草が入り混じり、雨でぐちゃぐちゃになった山肌をばしゃばしゃ音をたてながら強引に突き進む。

密生した葉が一段高い場所で空一面を覆い、自然の光を完全にシャットアウトしている。

それでも心もとない懐中電灯の明かりを頼りに、必死になって悪路と格闘しながらようやく前を行く西さんに追いつき、後ろをついて行く。


歩いても歩いても変わり映えのしない、うっそうとした険しい場所。

足を踏みしめるたびに滑りそうになり、ちょっとでも気を抜くと置いて行かれそうだ。

ここで迷子になっては、本当に遭難してしまう。

それくらい山深い場所だった。


こんな所にどんなゴミがあると言うのだろう。

人が足を踏み入れることなどめったにないような場所なのに。


ふとした疑問が頭をよぎる。


不法投棄されたもの。

例えば産業廃棄物とか。


すぐそばまで伸びてきている木の枝や葉が、顔や体にぶつかるのを感じながらぼんやりと考える。

すると、そんな私の疑問に答えるかのように、辺りから奇妙な匂いが漂い始めた。


樹木が濡れたときの青臭い独特の匂いに混じりながら、ほのかに感じる不快な悪臭。

前を歩いていた茶髪もその異変に気づいたのか、周りをきょろきょろと見渡し、匂いの原因をつきとめようとしている。


いよいよ現場に到着するんだな、と私は思った。


何かが腐ったような嫌な匂い。




これは……、生ゴミだ。




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