第四話-2 山小屋
ほどなくして外から車のエンジン音が聞こえてきた。
そしてバタンと車のドアを開閉する音がしたかと思うと、全身泥まみれになった一人の男が勢いよく中に入ってきた。
「ひやぁ、すっかり本降りになっちまったなぁ」
男は軍手をはめた手でせわしなく腕や足についた泥を払いながら、場違いなほど陽気な口調でそう言った。
雨具を深くかぶっているせいで顔は良く見えないが、声の感じからしてかなり歳がいっているようだ。
「現場の仕切りをやってる西さんだ。おまえら、これからは西さんの指示にしたがって動いてくれ。じゃあ西さん、よろしくな」
「あいよ、ここにいる五人ね」
フードを脱いだ西さんの顔は、思った通り老人のそれだった。
白髪交じりの不精ヒゲと綺麗に禿げ上がった頭。
顔にはたくさんの年輪が刻まれ、肌の色はどす黒く、目がくぼんでいる。
しかしながら、この老人のさきほどからの所作は、顔が与える印象よりもずっと若く、非常にきびきびとしていた。
そしてその表情は、何が楽しいのかわからないが満面の笑みだった。
「こっちはもう作業してっからよ、ちょっくらわしらの手伝いをしてもらうよ。ええっとじゃあ、ここの三人は外の車に乗ってくろ。石田さんが車ん中で待ってっからよ」
西さんは人懐っこい笑顔で矢継ぎ早にそう言うと、手前にいた三人の腕や肩をぺたぺたと触った。
「ほら、行った行った」
三人は西さんに促されて外へ出ていった。
残った二人は私と……、よりにもよって茶髪だった。
「あんたら二人はわしといっしょに来てくれ。八木さーん、車借りるよー!」
奥の机から中年の男が手を振る。
私はここへきて、ようやく自分の雇い主の名前を知ることができたことに気づいた。
これから仕事が始まるというのに、心配は増す一方だった。
唯一の救いは、西さんという人が優しそうなことだけ。
茶髪とは気が合いそうにないが、あの人とならきっとうまくやっていけるだろう。
私は大きな深呼吸を一つして、すでに外に出ようとしていた二人の後を追った。




