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清掃作業  作者: 春江口
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第九話 小屋までの道のり

「冗談じゃねぇよ。訳のわかんねーことさせようとしやがって!」


車に乗り込むなり、茶髪は大声で毒ついた。

かなりお怒りの様子だ。

だがそんな茶髪の様子に構うことなく、私は無言のまま車を走らせた。


若干雨足が弱くなってきたのか、フロントガラスごしの景色が、行きの時よりもはっきりと見える。

確か一本道だったはずだから、この道に沿って進めば目的地にたどり着けるだろう。

往復で十分少々くらいかかるか。

しかし、こんな狭い空間で十分も奴と過ごさなければならないとは、うっとうしいことになったものだ。


「おい、おまえは何とも思わないのか?」


助手席から茶髪が話しかけてくる。

声の調子にイライラしている感情が見え隠れしている。

こういう状態の人間と会話をするのが一番苦手だ。

何を言っても怒るのだから。


私はどう返答して良いのかわからず、とりあえず適当な言葉を並べようとした。

しかし茶髪は私の返答を待ってくれない。

徐々に語気を強めながら言葉を続ける。


「あの気味の悪い生き物だよ。おまえも見ただろう? ありゃ一体なんなんだ」

「さぁ、僕にはわからないよ」


茶髪は足を小刻みに上下に揺らし、フラストレーションをあらわにしている。


「見るからに危険そうじゃねーか。絶対なんかあるぞ、あの化け物みたいなやつ」

「確かにそうだね……」

「俺達をここまで運んできたあの八木って野郎を良く見たか? 見るからに悪人だろあいつ。ヤバい仕事を俺達に手伝わそうとしてんだよ。おまえもそう思うだろ?」


茶髪は私の返事などどうでもいい感じだった。

自分の言う事に同調し共感してもらうことで安心感を得たいだけのように見えた。


早く山小屋に着かないかな。


私は茶髪とのやり取りが少し面倒になり始め、自然とアクセルを踏み込む力を強めていた。


「だいたいあんなバカでかい生き物に襲われでもしたら命の保証はねぇぞ。危険な仕事だってわかってて隠してんだよ」

「でももう死んでたし、ゴミ袋に詰めるだけなら別に――」

「もし死んでたとしても!」


突然の大声に私はびっくりした。

ハンドルを切り損ね、車の挙動がおかしくなる。

なんとか立て直そうとあわてて急ブレーキをかけると、後輪が横滑りをおこし、道の中央で半回転しながら車は止まった。


私は大きく息を吐いて胸をなでおろした。

驚いたことに茶髪は今の出来事をまったく意に介さず、私に向かって会話の続きを始めた。


「ここでの事は誰にも喋るなってどういうことだ? 知られるとマズいことなのか? だからこんな真夜中にこそこそとやるんだろ? 違うか?」


茶髪は明らかに我を失っていた。

肩で息を切らし、ものすごい形相で私をにらめつけている。


「いや、僕に言われても……」


私の返答が気に入らないのか、茶髪は舌打ちし、さらに顔を歪める。


「なんなんだよ、おまえも八木って奴も、この仕事も!」


大声でそう言うと、深々と助手席のシートにもたれかかり、そして何も喋らなくなった。

私は何の言葉も返さず、無言のままキーを廻し、エンジンをかけ直した。


確かにヤバそうな仕事だということは、私にだってわかる。

それにしても、こいつは何をそんなに怯えているのか。


激しい感情を目の当たりにすればするほど、急速に冷めていく自分がいた。

落ち着きを取り戻すにつれ、茶髪の言動・行動が滑稽に感じた。


多分、茶髪の方がより一般的な人間の感性を持ちあわせているのだろう。

私の考え方はおかしいのかもしれない。


しかし――、と私は思い直す。


八木さんにしても西さんにしても、我々を深入りさせようとはしていない。

何も知らないまま無事帰ることができれば、何の問題もないはずだ。


むしろ何かを知ろうとすればするほど危険になる。

今まで生きてきた経験が、そう自分に警告する。


ことなかれ主義かもしれないが、一方で切羽詰った現実がある。

私はどうしても生活費が必要なのだ。


あとちょっと走れば小屋に着くだろう。

うっとうしい時間ももう少しの辛抱だ。


とは言え、あの不気味な生物を片付ける作業を考えると、こっちの方が幾分マシだったかもしれない。




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