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清掃作業  作者: 春江口
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第八話 口論

私はそこらじゅうに飛び散った生物の残骸を、一心不乱にかき集め、袋に詰める作業をしていた。

袋はすぐに一杯になった。

脇に置いてある新しいゴミ袋を取り出し、また破片を拾って中に入れる。

繰り返し繰り返しその作業を行った。


これの正体が何なのかなんて、私には関係ない。

言われた仕事をこなすだけだ。


自分に言い聞かせるようにそう思い、作業に集中することで、しだいに恐怖心は薄れていった。

ただ、普段運動をしていない自分にとって、思ったよりもきつい労働だった。

早くも腰の辺りから筋肉の悲鳴が聞こえ始める。


私は一旦手を休め、ゆっくりと立ち上がって大きく背伸びをした。

少し離れた所で、茶髪と背の高い男が向き合って何か話をしている。


解体作業はいつの間にか終わったようだ。

どこを見渡しても巨大生物の見る影はない。


二人の様子をぼんやりと眺める。

そのうち、だんだんと両者の声が大きくなり、こちらにも何を言っているのか聞こえるようになってきた。


「ここまで来ておいて、今さら何を言ってるんだ」

「だからこんな仕事だなんて思ってなかったんだよ」


どうやら口論が始まったらしい。

二人の異変に気づき、西さんがとぼとぼと近づいて行く。


「どうした?」

「いや、こいつが帰るって言い出して……」

「ただの掃除だと思って来たのに、あんな化け物の処理をするなんて一言も聞いてねぇよ」


作業をするふりをしながらも、会話を盗み聞きしようと神経を集中する。


「わしらも雇われてる方だからバイトの内容は良く知らんけども、今から帰るっつってもそりゃ無理だ」

「そうだ。みんな文句一つ言わずにやってるじゃないか」

「あいつらはおとなしいだけだろ。俺はあいつらとは違う!」


茶髪の言った言葉に思わず鼻から笑いが漏れた。

何言ってんだ。

一番怖がってるだけじゃないか。


「なんなんだよ、あれは! 襲ってきたりしないのかよ」


西さんは茶髪の肩に手を置き、なだめるようにぽんぽんと軽く叩いた。


「あのねぇ、鳥飼君だっけか。八木さんからも言われなかったっけ?」

「……何を?」

「知らない方がいいと思うよ。知らなくても仕事はできるでしょ?」


茶髪は下を向いてぶつぶつと何かをつぶやいている。

かろうじて聞けた言葉が「まともな仕事じゃない」みたいな悪態だった。


西さんは深いため息をついた後、言葉を続けた。


「いいかい。あれは危険な生き物じゃないし、この仕事はちゃんとしたところからの依頼で受けた、まっとうな仕事だよ。確かに八木さんは何も教えてくんないだろうけんど、それは知らない方がいいからなんだよ。さぁ、もう作業を始めようよ。とりあえず朝までにここを片付けないと困るんだよねぇ」


茶髪は下を向いたまま動こうとはしなかった。

西さんと背の高い男は、茶髪に向かってしばらく説得を続けていたようだったが、あきらめた様子でその場を去った。


私は一人取り残された茶髪を横目で確認した後、吐しゃ物のように汚らしく辺りに散乱する残骸を袋に詰める作業に戻った。


それにしても日中あれだけ暑かったのに、今はなんて寒いんだろう。

手がかじかんで思うように動かない。

せめて防水加工された軍手が欲しかった。


ひょっとして、と思い、作業用具をかためて置いてある一角を探してみた。

残念ながらそこには、新しいゴミ袋とナタが数本置いてあるだけだった。


すぐそばで西さんが作業をしている。

西さんは私に気づくと、「前田君」と声をかけてきた。


「あんた悪いけど鳥飼君を下の小屋まで連れてってやってくれんかね。入り口に停めてある軽トラを使っていいから。もちろん彼を下ろしたら、またここまで戻ってきてな」


西さんは私に車のキーを手渡すと、そのまま別の場所へ移動してしまった。


「あ、はい」


私は気のない返事をした。


やれやれ、車の中に茶髪と二人きりか。




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