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化けの皮

僕は、どきどきしながら姉…という立場のクソ女…の部屋のドアに耳を当てていた。



今日は、両親揃ってどっかに行ったらしい。

かわりにクソ女の友達がお泊まりしていく予定なんだ。



不細工で性格も悪いクソ女の友達とは思えない、超綺麗な人で。



僕は、初めて会った時から彼女を好きになった。



艶やかな髪、大きな瞳、ぱっちりした睫毛、綺麗な爪、ついでに…大きな胸。



非の打ち所がない、完璧な彼女に一目惚れするのは当たり前さ!



ここだけの話、彼女は僕が敬愛する、とあるゲームに出てくるアイドルにそっくりなんだ。



そして今、僕の女神である彼女の声を少しでも聞きたくて…こうして、ドアにへばりついている。



実はさっき、クソ女に命令されて、ジュースとお菓子を部屋に運んだんだ。



そんな事をさせるんだったら、クソ女も気を利かせて、そのまま僕を交ぜてくれたらいいのに…何処までも気のつかない女だ。



彼女の声はとても小さくて、ドア越しでは殆ど聞き取れない。



毎日嫌でも聞いている、クソ女の声ばっかり耳に入ってきて、耳障りだ。




「ふふふ、今日はお泊まりなんだから…その化けの皮を剥がさせてもらうわよ~」



…なに言ってるんだ、クソ女。似合いもしない分厚い化粧を施して、化けの皮を何重にもかぶってるのはお前だろ…



「けどまず一番に、いい加減その髪!」



彼女の艶やかな髪の事かな?



「さっさと切りなよって前言ったじゃない!」



それは勿体無い。癖っ毛で縮れたクソ女の髪とは違うのに。



「踏ん切りつかないなら、今私がここで切ってあげるわよ」



…は?何を言ってるんだろ?そんな事して言い訳…



その時だ。


小さな彼女の、きゃ、という悲鳴と、カシャン、というハサミの音が同時に聞こえたのは。






ちょ



ちょっと待てよクソ女…彼女に何しているのさ!?



僕の脳裏に、イジメ、という文字が浮かんだ。



普段からあれこれ命令される僕だって、毎日イジメられている惨めな気持ちになるが、流石に髪を切られた事はないよ。



僕は咄嗟に、ドアをノックした。



クソ女の慌てた声が応える。



「何?今取り込み中なんだけど」



「えーっと…じ、辞書貸してくれない?」



「はぁ~?ちょっと待って」



その後、和英?英和?国語?というやり取りをして、クソ女は辞書を片手にドアを開けた。



クソ女の後ろに辛うじて彼女の姿が見え…


彼女の艶やかな髪が、無惨に、切られていたのが目に入ったんだ。



彼女は後ろを向いていて、表情はわからない。




僕の視線に気付いたクソ女は、直ぐに自分の姿で彼女を僕から隠した。



「ほら、さっさと部屋に戻ってよ。こっちはガールズトークで盛り上がってるの」



そして僕の目の前で、そのドアはパタン、と閉められた。




何て事したんだ、お前…

どうしよう?


僕はどうしたらいい?



その場に立ち尽くす僕の耳に、またクソ女の声だけが届いた。




「ねぇ、前々から思ってたんだけど…ほんと、黒目大きいよね?ちょっと…とっていい?」



…!!!



彼女の大きな瞳を?

とるってどういう事だよ?


…抉るって事?


…まさか、ね。





それは流石にないよな、と思った時初めて、彼女の声がはっきりと聞こえたんだ。



「…やめて…痛いっ痛い!」



その声を聞いた瞬間、頭がクリアになっていくような…朦朧としていくような、相反する感覚を覚えた。


僕は、血の気が引く、とはこういう事かと思ったよ。




追い討ちをかけるように、更にクソ女のあり得ない声が廊下まで響く。



「ほんと、綺麗な爪…それも剥がしたいな♪」



「睫毛も長すぎて不自然だって…全部…とっちゃお?」



「その胸も…本当に大きい方がいいの?…ねぇ、もっと小さい方が自然だって…」



どうしよう

どうしたら

どうしたんだ

どうして




クソ女は彼女に何をしているんだ、


したんだ、



混乱する僕の耳に、彼女の声は一言も聞こえない。



まさか、


両親が居ないからってまさか、




「わ!ちょっと…これお気に入りの服なのに…かかっちゃった。シミになったらどうしよ~」



クソ女が、急にドアを開け、その姿を見せた。



クソ女の服には




普通じゃ考えられない程の、真っ赤なシミ






彼女に何をしたの?




…僕が、僕が守らなきゃ…!!



いつも命令されてばかりの僕だけど



こんな時位



…頭のおかしいクソ女から、好きな女の子を…




「うわあああああああっっっっ」




僕は、非力な自分の武器になり得るものを取りに、一旦台所に駆け込んだ。



こんな時は、包丁が一番の武器なんだ!!



日本各地で、毎日誰かが包丁を武器に戦っている。



いつも、そんなニュースを他人事の様に眺めていたけど、今ならわかるよ。



包丁という武器さえ手に入れれば、クソ女から愛しい彼女を守れるかもしれない。



そう思って立ち上がった勇者だっているはずなんだ。



僕が包丁を手に、後ろを振り向いた時だった。



「ちょっとアンタ…何やってんの?」



底冷えのする声が、目の前から降ってきた。



服を赤く染めたクソ女だ。





僕は悪魔を倒して…彼女の愛を得る!!



悪魔め、その化けの皮を剥いでやる…!!!




包丁を真っ直ぐ両手で持ち、僕は悪魔に突進した。





***





私は、ドアの向こうにいた弟が


「うわあああああああっっっっ」


と奇声をあげて1階に駆け降りて行くのを見て、何事かと思った。



「…今の、何?」



あらあ、親友が怯えてる。



「よくわかんない…それよりも、このシミ落としてくるね~」



「…うん、ごめんね」



「いやぁ~、こっちが悪いんだし、気にしないで!」



普段から超美人な自慢の親友。

けれども彼女は、かぶらなくてもいい化けの皮をかぶってる。

今の姿は、本来の彼女ではないんだ。



マラソンやっていた時は短くて…それが凄く似合っていたのに、長く艶やかな髪は、元カレに言われて伸ばした。



二股かけられていたのに、遊ばれていたのに、忘れられなくて伸ばしたままで。



私はこれでも美容学校に通っている学生だから、想いを引き摺ったままの彼女を元にもどそうとした。



元カレ好みの

長い髪

黒目コンタクト

つけまつげ

つけ爪

ついでに、大きな胸にみせるパッド



全てを、取り去って。



必ず、元の親友を好きになってくれる人がいるって思うから。



まぁ、髪を急に切って驚かせたのは悪かったし、コンタクトとるのは自分でやらせたほうが良かったなって反省してるけど。


弟に持ってきてもらった、トマトジュースを服に大量にぶちまけたのも失敗だったけど。



さっさとあんな男は忘れて、元気になって欲しい。



…そういや、どう考えても我が弟は親友にゾッコンだよね…



姉としては応援したげたいけど、キモオタの代名詞プラスヒッキーでゲームばかりしている弟は親友に紹介できないわなあ…



どれ、ちょっと弟には釘をさしておこう。



親友への愛で、素敵な男になったらいいけどね♪


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