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視線

彼女とのデートで、映画館に来た。




「何見たい?」


「ん~…このホラーかなぁ♪」


「そゆのいけるクチかw」


「なんだその言い方w」


「よっしゃ、じゃあそれにすっか~」


俺は彼女の分のチケットも購入し、コーラとポップコーンを買うべくファストフード店に並んだ。



当然の様に奢られる彼女とは、まだ付き合って日が浅い。



今時の茶髪に、ネイル。露出の多い服装に、キツい化粧。

先程、ホラー映画を選択した事といい…元カノと180度タイプが違い、逆に思い出させる事が多かった。




元カノとは、中学3年から最近まで、実に3年間付き合った。



自分でも、高校が違う割りには長かったと思う。



真っ黒な髪をひっつめ、スッピンで、おとなしかった。

選ぶ映画は恋愛ばかり。奢られる事を好まないで、いつも割り勘。



俺からコクってOKを貰い、付き合い始めたが…彼女は、極端に触れられる事を嫌がったのだ。



俺だって、始めのうちはまだ若い事もあって、我慢した。

けれども、高校に入り、友人がどんどん経験していく中で、ずっとプラトニックな関係を保っていくのが辛くなった。




彼女に、好かれていた、とは思う。


けれども、彼女は俺と手を繋ぐことはあっても、それ以上は許さなかった。



一度、原因を聞いたが…答えは「ちょっと障害があって」だった。



意味がわからなかった。




心臓の障害で、そういうコトにドクターストップがかかる人もいるみたいだが、体育の授業を普通にうける彼女にそれは当てはまらない。



障害の詳しい話を聞こうとしても、彼女は一切口を割らなかった。


話してくれない理由を聞いても、「気持ち悪がられるから」だった。



意味がわからない。



付き合って2年経った頃、俺は浮気をし出した。

世の男達なら、わかってくれると思う。

彼女にバレて、俺は別れようとしたが、今度は彼女がそれを嫌がった。

そうしてズルズルと彼女とはプラトニックなまま付き合い続けてもう1年。


今の彼女と知り合って、体だけでなく心も元カノから浮気して…最近、やっと別れたのだ。


別れは一方的なもので、綺麗な幕引きは出来なかった。



電話で別れを告げ、元カノを着信拒否にし、俺は終わったと思っていた。




平日のレイトショーだったからか、はたまたこのホラー映画が人気ないのか、館内はガラガラだった。



俺は余裕で、自分の好きな一番後ろの列の真ん中を陣取れた。

足を伸ばせて、首が疲れないから気に入っている。



観客は家族連れはいなくて、一人で来ている人が二人と、カップルが二組。

たったそれだけだった。




ブザーがなり、一部の照明が落とされる。


他の映画の宣伝が始まった。





俺がポップコーンを彼女との真ん中に置くと、彼女は笑って口を開け、俺の服の袖を引っ張った。


…口の中にいれろってか?



あまり外でイチャイチャする趣味はなかったが、一番後ろの席で誰も見ていないため、彼女の要望に答えた。





瞬間






視線を感じた。





俺は視線の出所が気になり、前に向き直ったが、誰もこちらに注目していなかった。




…気のせいか




今度は横で彼女が目を瞑り、口を尖らせ、俺の服の袖を引っ張った。



キスしろってか



俺は、少し呆れながらも、映画館という暗闇に後押しされて、彼女にキスをした。







瞬間






また、視線を感じた。







今度は気のせいでは済ませられないほど、その視線は蛇のように粘っこく絡み付いてきた。



誰だよ!?



俺はイライラして、犯人探しを始めた。




カップルの一組は、真ん中辺りの列の、右側にいた。何故列は真ん中なのに、そんな端に座るのかは理解できない。

けれども、男が女の肩に手を回しているところを見ると、どうやら純粋に映画を楽しみに来た、という訳ではないらしい。


もう一組のカップルは、前方の列の真ん中に座っている。二人して微動だにせず、画面を食い入るように見ているようだ。




一人で来ている人は、男と女だった。



男は映画館の中だというのにカウボーイ風の帽子をかぶったまま、俺らと同じく飲み食いしながら映画を見ている様だ。

真ん中より少し後ろの列の、廊下に一番近い席に座っている。

特に、辺りを見ている様子もなかった。




女の方は、俺らより3列前の、真ん中に座っている。

つまり、2列は空くが、俺の真ん前だ。一番怪しい。

ところが、女は髪を両手で触っているだけで、全く振り向いた様子はない。流石に、3列前の女が振り向いたら、俺らだって気づく筈だ。




最後に俺は、顔を上げた。映画館は普通、一番後ろの席の上に、スタッフのいる部屋がある。

小窓がついているから、もしかしてそこから見下ろされていたり…は、当然しなかった。




視線の出所を求めてキョロキョロしていると、彼女がまた袖を引っ張り、「もう始まってるよ」と言った。




いつの間にか宣伝が終わり、本編が始まっていたらしい。





慌てて正面を見ると、そこに




大きな目が、写し出されていた。






……なんだ、これか





と思った。



映画の宣伝とは、似た傾向の映画に入れるものである。

ホラー映画の宣伝は、ほぼホラー物だ。




恐らく、他の映画の宣伝でも似たようなシーンで目や顔のアップがあり、それを俺は視線として感じてしまったのだろう。





そう納得しかけた時、一人で来ている女が…元カノに雰囲気が似ている事に気付いた。




けれども、髪をおろしている時点で違う、と思い直した。


何故なら元カノは、俺がどんなに「折角の綺麗な黒髪なんだから、おろして来てくれ」とお願いをしてもひっつめ髪以外の髪型はしてこなかったからだ。


どんな時でも必ず一括り。それ以外の髪型なんて…そう、二人でプールに行った時に、水泳用のキャップをしてきた事位か。

その時も、小学生じゃないんだから、と言ってキャップを取ろうとしたら、極端に嫌がられ、暴れられた記憶がある。




俺が回想に耽りながら、ぼう、とその女の頭を眺めていると、女はまた頭に両手をやった。




両手で、髪の毛を二つに分ける仕草をする。









そして









女と目があった。











女は一切振り向いていない。












女の、後頭部から覗く、あるはずのない眼球と、目があったのだ。




俺は、恐怖で凍りついた。

眉毛もない睫毛もない一つの眼球が、


ぞろり


とこちらを見ていた。


今まで自慢だった視力の良さを、初めて呪った。






元カノのその怨めしそうな視線は、いつまでも忘れられそうになかった…


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