百物語
9名の若者が、6畳の部屋にところ狭しと円卓を囲んで座っていた。
円卓の上には、100本の蝋燭。
そう、この若者達はこれから夏の定番イベント、百物語をしようとメンバーの一人の家に押し掛けているのである。
「おい、こんな略式で本当に怪奇現象おきるのかよ~」
一人が野次を飛ばした。
「まぁ、それなりに雰囲気は出てるからいいんじゃない?(笑)」
「本当は青い着物だけど、皆、青いTシャツ着てきたし。青い紙を貼った行灯だけど、青い蝋燭揃えたし」
野次を飛ばした者に、フォローを入れる者。
「ちょっと!何携帯なんか弄ってるのよ!?百物語ぶち壊しになるから、やってる最中はやめてよ?」
注意する者がいれば、
「そうだね、全員携帯はマナーモードにして、百物語の間だけは皆触らない事にしよう」
同意する者。
「もう22時になるし、そろそろはじめないと…百物語終わる頃には朝になっちゃうよぅ~?」
急かす者がいれば、
「う~ん、まだ亜美ちゃんが来てないのよ。もうちょっと待ってね」
諭す者。
「亜美、怖がりだから、来ないんじゃね?」
揶揄する者がいれば、
「亜美程真面目なメンバーなんていねーしwww来るっつったんならぜってー来るよ、あいつなら」
庇う者。
そして
ピンポーン
「遅いよ亜美ちゃん!始めちゃうところだったよ~」
「ご、ごめんなさい…途中で事故があって…」
「いいからいいから!早く始めよ~♪」
9名の待ち人が来たりて、百物語は決行された。
***
99話目の話を終えた者が、蝋燭の火を消した。
「おいwwwマジで外明るくなりかけてやがるwww」
時間配分を間違えたのか、闇が藍色に移り行くのが、カーテンを開けたままの窓の外に見えた。
「早く最後の話をしてよ~!!」
怖さのピークだった12時~3時を過ぎて、メンバーには余裕がうまれていた。
「よし、じゃあ最後は私がとっておきの話をするね~♪」
部屋の所有者である女子メンバーが、携帯電話にまつわる怪談をしだした。
話が佳境に入った頃……
ブーッ
ブーッ
ブーッ
携帯のマナーモードが、一斉に鳴り出した。
「うわっ!!」
全員の携帯電話は、誰も触らない様に一ヶ所に集めていたが、10人中、5人程の携帯のライトが点滅をしている。
「ちょwwwマジでビビるwww」
一人が確認しようと手を伸ばすと、誰かがそれを止めた。
「最後まで終わらせてから確認しようよ」
100話目の語り手がそれに同意する。
「そうだよ、折角ここまでやったんだから、今見て盛り下げないでよ~」
恐らく、朝のニュースが配信されたのだろうと思ったが…それを先に見て、怪奇現象かもしれないという期待を台無しにしたくなかった。
せめて、100本目の蝋燭を消すまでは、スリルを味わいたい。
それ以降は何事も起こらないまま、百物語を語り終えた。
「じゃあ…蝋燭、消すよ」
いささか緊張しながら、語り手が蝋燭を吹き消す。
…
……
………
何も、起きなかった。
安心したような、ガッカリした様な顔で、皆はそれぞれ顔を見合わせた。
「…何も起きなかった、ね」
誰かが言ったのを皮切りに、皆好き勝手に話す。
「やっぱりオメーがした話が強烈にまずかったんだよ!!恐怖の味噌汁(今日麩の味噌汁)ってヤツ!!」
「待って…ポルターガイストとかは起きなかったけど、人数が変わるって話がよくあるよね」
いーち、にー、さーん、よーん、
人差し指で一人ずつ指しながら、数えだす。
ごー、ろーく、なーな、はーち、きゅー、
…
……
じゅー……
「人数とかも、当たり前だけど変わってねぇえぇぇ(笑)!!」
「けど楽しかったね♪今回はお開きにしよ~♪」
「あ!!ちょっと待てよ、さっきのメールって結局何だ?」
「そういや、それが残ってたね~」
「俺にはメール来てねーから、お前の見せて」
5人が、携帯を確認する。
そして
「あ、政子からだ」
「政子だ」
「政子からだった~」
皆同時にガッカリした。
が、その後メールの中身を見て愕然とする。
「…え?」
「たちわりー冗談だな、おい」
「全く何言ってるのかね~、亜美ちゃん」
「…亜美ちゃん?」
返事はなかった。
***
件名:訃報のご連絡
本文:
急な事で皆様驚かれるかと思いますが、昨夜9時頃、親友の亜美が交通事故で亡くなりました。
私は今、亜美のおじさんおばさんから連絡を受けて、病院にいます。
葬儀の予定は追って連絡します。
その為、今日は講義を休みますので、よろしくお願いいたします。
この連絡は、亜美の入ったサークルで、私がメアド交換をした方々に送りましたが、他のメンバーの方々の連絡先を知らないので、申し訳ないですが、その方々にもお知らせ頂けますようお願いいたします。
取急ぎ、ご報告まで。
ではまた、落ち着いたら、ご連絡致します。