ドッペルゲンガー
最近、私は気になる事があった。
はじめは、仕事からの帰り道。
夜道で視線を感じて、振り向くと…そこには、私と同じ服を着た人物がいた。
その顔は包帯で巻かれていて、また辺りが暗い事もあって、見ることが出来なかった。
それでも、自分と全て同じ格好という事が気持ち悪くて、逃げるようにしてその場を去った。
次は、デートからの帰り道。
やはり夜道で後ろの足音が気になった為、振り向くと…そこには、また私と同じ服を着た人物がいた。
今度は包帯が解かれており、顔を見ることが出来た。
…私そっくりの、顔だった。
今度は言葉通り、私は逃げ帰った。
自分そっくりの人物を見る現象をなんというか、私は知っている。
ドッペルゲンガーだ。
私はこのドッペルゲンガーに、恐怖を感じていた。
ドッペルゲンガーを見た者は、死期が近いと言われているからだ。
もし、あれがドッペルゲンガーだったとしたら…私は、近々、死ぬのだろうか?
もうすぐ結婚をする事が決まっている彼氏に相談しても、優しく大丈夫だよ、とは言ってくれるけど、信じては貰えていない。
それとも、彼氏が言ったように、私は自分で気付かないうちに、マリッジブルーに陥っているのであろうか?
わからない。
***
俺は、以前振った女の事で悩んでいた。
前々から思い込みが激しく、出会った頃から運命だと言って、何かと付きまとわれた。
どうやら実家が金持ちらしく、相当資産がある事をちらつかせ、最後には本当に金を持ってきたのだ。
あれにはびっくりした。
何事もお金が解決してくれると思ったのか、それとも金持ち故の、思い通りにならないと気に食わない資質なのか…
俺には大学の頃から付き合っている彼女がいて、彼女を愛していたし、既に結婚の話も進んでいた。
それを丁寧に説明して、諦めて貰ったはずだったのに…
諦めた、と思っていたのは俺だけだった様だ。
愛する彼女の、ドッペルゲンガー事件。
おそらくあれは、振った女の仕業じゃないかと思った。だから、彼女にはマリッジブルーじゃないかと言って誤魔化したのだ。
その話を聞いて、着信拒否していた番号に初めて俺から連絡を取った。
コールをして直ぐに、女は出た。
「お久し振りね♪貴方からの電話なんて、嬉しいわ♪」
「…会って話したいんだけど…」
「あら♪大丈夫よ、貴方の家の前にいるから、直ぐに会えるわ♪」
寒気がした。
インターホンが鳴り、ドアホンで来客を確認する。
「…え?」
そこには、愛する彼女の姿があった。
驚き、彼女と女が今かち合って、愛する彼女に何かしらの危害を加えられたらいけない、と思い、急いでドアを開ける。
「どうした急に…」
彼女の姿をした者は、にやりと笑って言った。
「お久し振りね♪」
…身の毛がよだった。
姿は愛する者の姿なのに、声は明らかに違う。
この、声は…
「…その格好は、どうした?」
そう問うのが精一杯だった。
「ふふふ、驚いた?貴方好みの女に近づこうかと思って♪」
その女の着ている服も、彼女の物と同じだった。
俺は、精々女が、愛する彼女に嫌がらせで、ドッペルゲンガーめいた事を金で雇った者達にさせているのかと思っていた。
まさか、整形までしているとは思わなかった…
目眩を感じながらも、俺はその女に怒鳴った。
「どう?私と…「顔が似てても、お前は彼女じゃない!声が違う!心も違う!これ以上俺達に構わないでくれ!出てけ!!」
「…そう、わかった…」
底冷えする様な声で、女は言った。
***
私が住むアパートは、小さな佇まいで。
ドアホンなんて備え付けられてなかったし、取り立てて覗き穴で来客を確認する癖もなかった。
だから、インターホンが鳴った時、普通に出てしまったのだ。
ドアを開け、その人物を見た時…私は思わず後退りをしてしまった。
目の前の、私にそっくりな人物は、にたりと笑って言った。
「貴女、邪魔なのよ…」
そうして、後ろに回していた右手を大きく振りかぶった。
その手には、包丁が。
それが、私の見た最期の記憶。
***
1週間程俺は、嫌な予感が止まらなかった。
「そう、わかった」
女は、俺達に構わないよ、という意味でわかったと言ってくれたのだろうか?
けれども、整形までする執念…女は、何がわかったのだろう?
怖がらせないために、彼女には話していなかったが…やはり彼女に事情を説明して、俺の家にいて貰った方がいいかもしれない。
そう思い直して、彼女の携帯に連絡を入れた。
RRR… RRR… RRR…
何度目かのコールの後、電話が通じた。
「はい、お待たせ♪」
彼女の声に、ホッとした。
「今、どこにいる?」
「お家にいるよ♪」
「これから、そっち行くから…」
話ながら、違和感が拭えなかった。
「あら♪嬉しい♪待ってるわ♪」
ぞっとした。
直感が告げる。
これは彼女ではない、と。
「…お前、彼女に、何をした…」
受話器の相手に向かってそう言うと、ちょっとした間があった後。
「…あれ?おかしいわね、声帯もかえて貰ったのに♪」
「大丈夫よ、私が貴方の彼女よ♪」
「彼女の声も心も私のものにしたから♪」
「心も…?」
「うん♪さっき、彼女の脳味噌と心臓食べたから♪」
意識が真っ暗になる中、頭蓋骨割るの大変でぇ、という、声を、聞いた、気、がし、た…