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強化合宿

俺は、ラグビー部の強化合宿に来ていた。



毎年場所は決まっていて、大学が契約している合宿所のある、小さく静かな島だった。



ラグビー部は部員30名、顧問1名、マネージャー2名だったが、不幸な事にマネージャーが最近1人亡くなった為、キャンプでは料理や洗濯物など、マネージャー1人でやる事となった。



俺がキッチンでサボって、昼間っから酒を飲んでいると、凄い数の悲鳴と銃声がグランドの方から聞こえた。




……なんだっっ!?




俺は咄嗟に屈み込み、音が止むまで待った。




訪れる、静寂……




俺は恐る恐る、キッチンの窓から外を見てみた。



残念ながら、この合宿所のキッチンは北側に面していて、南側にあるグランドの様子はわからなかった。





……どうする?そもそも、何があったんだ?




俺が躊躇していると、中に拳銃を構えた顧問が、駆け込んで来た。




「おい!無事かっっ!?」


俺はホッとしたが、顧問が拳銃を構えている事に警戒し、一応包丁を後ろ手に隠して顧問に聞いた。



「俺は無事です!ここにいます……が、何があったんですか!?」



「お前、ちょっと見かけないと思ったら真昼間から酒かよ……!!っと、そんな事言ってる場合じゃない。マイケルが、ご乱心だ」

詳しく聞くと、部員の一人であるマイケルが、皆が集まったグランドでいきなり銃を乱射したという。



銃の乱射事件は最近、そこまで珍しい話ではないが、正直自分がそんな事件に巻き込まれるとは、思ってもいなかった。




「マイケルは何故、こんな事を…!?」



俺は顧問に聞いた。顧問は、逆に聞いてきた。



「そんな事、俺が聞きたい。一体、マイケルに何があったんだ!?アナンダがどうのと叫んでいたが……」



アナンダ……?最近亡くなった、マネージャーだった。


アナンダの死因は、自殺。大量の睡眠薬を服用後に、手首を切って死んだ。




「……アナンダ……」




俺が呟くのと、窓の外に人影が……マイケルが、ギラギラした目でライフルを構えているのが見えたのは、同時だった。



「おいっ!!そこに誰かいるのかっっ?」


マイケルは叫ぶ。



俺は、返事をするべきか否か悩んだ。



顧問に顔を向けると、顧問は首を横に振った。



返事をするな、という意味だろう。



俺が躊躇している間に、マイケルは視界から姿を消した。



顧問がポツリと言った。



「マイケルとアナンダは付き合っていると聞いたが……」



その通りだった。



「なぁ、お前は知っているか?アナンダが死んだ理由を……」



アナンダが死んだ理由……それは、ラグビー部員が彼女に寄ってたかって乱暴した事だ。



俺がそういうと、顧問は首を縦に振った。



「ああ、勿論それもある。……しかし、最近それが……彼女が乱暴されている画像がネット上で出回っているとの話を誰かから聞いた」



そこまで話したところで、マイケルの叫ぶ声が聞こえた。



「出て来い、キース!!!!」




……マイケルは、今俺の目の前にいる顧問の名前を叫んでいた。




「俺が囮となって奴を引き付けるから、お前は奴に見つからない場所で隠れているんだ」



キースはそういうと、マイケルの声のした方に足を向けた。



「何言ってんだよ!!今のマイケルは危険だ……隠れていよう」



俺は必死で提案したが、キースは頷くことなく言った。



「彼は教え子で、俺は教師だ……」




顧問の遠ざかる足音を聞きながら、俺はキッチンにある電話にかじりつき、警察に電話をかけた――が、故意に回線が切られたのか、もとからなのか、繋がらない。



「――クソッッ!!」




俺は電話を叩きつけると、覚悟を決めて……キースの歩いて行った方に、音をさせないよう向かった。




マイケルの興奮した声が廊下に響いた。


俺は、マイケルの立ち位置を確認できるギリギリまで、近づいた。



リビングの中心に、両手を上げたキースが立っている。


マイケルは、リビングと廊下の丁度出入り口…ドアを全開にした状態で、ライフルを構えていた。




「あんたにさぁ……聞きたい事があんだよね……」



憎悪のこもった声で、マイケルが言った。



キースは、マイケルを刺激しないよう、落ち着いた声で言った。




「あんたは、確かにあの映像に映ってはいなかった。映っていた奴らは皆、外で殺した。けど……あの映像、ちょっと気になるんだよ」



「何がだ?」



「あの画像の右上に、黒い三つの点があるんだ。俺は、過去にした悪戯を思い出した。そうあんたのカメラのレンズに……三ヶ月位前、やってたんだよ」



顧問であるキースは、よく練習風景を撮っては、雨の日等にその映像を見ながら戦略を講義していた。



「あのカメラは、あんたのだろ?」



「恐らくそうなんだろうが……人に、貸したんだ」



「誰に貸したんだよっっ」




キースは無言だ。恐らく眉間にシワを寄せ、辛そうにしているのだろう。


「……答えたくないなら、死ね。だが、後もう一つ、聞きたい事がある」




キースが目で促したのか、マイケルはそのまま続けた。




「俺の友人に、ネット強い奴がいてさ。……例の画像が流出している、元を辿ったら、何故かあんたのパソコンに辿り着いた。……なんで、だ?」




今度こそ、キースは驚いた様だった。



「!?それは何かの間違いだ!!俺は何も知らない!!」



ダダダ、と音がした。




人がうずくまる、気配。



「しかもあの画像……金のやり取りされてるって、どういう事だよ?なんであんな画像が、『売られて』いるんだ!?」



俺は、マイケルの背後に回り込んでいた。



マイケルの背中の向こうに、足を撃たれたキースが倒れていた。



キースは呻きながら、言った。



「ホントに……知らない……んだ」



「……そうか」



マイケルが、照準をキースの頭に定めた。





***





血飛沫が、舞った。





俺の目の前で







マイケルが、崩れ落ちた。











キースが目を見張って、言った。




「……ジェシカ……」



「ああ、しまった……これじゃ俺が殺したの、バレバレだな」



まぁ、正当防衛でなんとかなるか……と俺は手にしていた包丁をぽいと投げ捨て、マイケルのライフルを……マイケルの、指をかけたままキースに向けた。





「…ジェシカ、なんで。俺の事、愛しているんじゃないのかっ!?」



キースは目を見開いたまま、俺に言った。



「ほっといたらあんたは、俺の事を話すだろ?」



キースのカメラを借りたのも、キースのパソコンを使ったのも、ついでにキースの口座で画像を売り捌いたのも、俺だ。

ついでにアナンダを襲うように仕掛けたのも俺だった。



イイコキャラのアナンダがうざくて。



アナンダは気立てのいい、人を疑う事を知らない女性だった。



マネージャーの仕事も、懸命にやっていた。

彼女がマネージャーになってから、今まで適当に仕事をしていた俺には誰も見向きせず、顧問だけが構ってくれたから、その相手をしてやっただけの事。



もともと、気に入らないアナンダをどうしようかと考えていたから、警察沙汰など何かあった時の為にと、全て顧問のモノを借りる為に付き合ったと言っても、過言ではない。





「じゃ、さよなら」







俺は遠慮なく、キースに向けてライフルを乱射した。






ああ、気分爽快。






さて、警察呼んで、悲劇のヒロインでも演じますか。

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