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同窓会

「いよう!久しぶりだな~皆!!」



俺は、その狭い飲み屋の、唯一の座敷席を陣取る奴らに声を掛けた。



俺の声に、(しょう)恒雄(つねお)、その他のクラスメートが振り向く。



「お!やっと来たな大地(だいち)~!!」



翔は店のオバチャンに生中もう一本追加、と言うと、隣の席を指差しながらこっち来いと合図した。



今日は、小学校の同窓会だった。


ゲームの得意な翔。

運動の得意な大地。

勉強の得意な恒雄。



20年経った今や、

翔はIT関係会社に。

大地は体育の教師に。

恒雄は東証第一部上場の企業に。

それぞれ、勤めていた。



「大地、よく東京からこっちにタイミングよく帰ってこれたな~!!」


ほろ酔いの恒雄が俺に言う。


「俺は夏休み中だから、有休取りやすいんだよ(笑)そう言う恒雄だって、大企業なのによく帰ってこれたな~」



「今年のお盆はなんと、9連休なんだな~♪」



なにぃ、羨ましい奴め、と俺と翔が口々に言った。




本来なら、ここには後一人の仲間…典男(のりお)がいたはずだが、典男が殺人事件をおこしてから直ぐに一家はこの田舎を引っ越し、以来連絡はつかなくなった。



3人なら典男の話もするが、今は同窓会。他にもクラスメートがいるなかでは、軽々しく話題には出せなかった。




典男の話を避けても、このクラスにはまだ他に話題にのぼる人物がいた。



晶菜(あきな)ちゃんという、当時のクラスの中では断トツに可愛かった女の子だ。



「晶菜ちゃんも……まだ、見つからないらしいな」



「ああ。今だにおじさんおばさんは現役で文房具屋を営んでいるが、白い服を着たまんまだ。」



晶菜ちゃんという少女は、小学5年生の時から行方不明だ。当時は大規模な捜索が行われたが、学校と自宅の間にある公園で発見されたのを最後に全く情報が入らず、結局捜査は打ち切りとなった。


自宅は文房具屋を営んでおり、家族で経営をしていたが、一人娘がいなくなってからというもの、残された両親は葬儀や喪服を連想させる黒い服を一切着なくなったという。



「ああ……もし無事だったら、どんな美人になっていたか見たかったよな~……」


「全くだな!!ずば抜けて可愛かったもんなぁ~!!」


俺と恒雄がそう言い合う中。



推理小説を好きだった翔が、ポツリと呟いた。



「そういや、沼沢先生亡くなったって?」




「ああ。地元に残ったメンバーで、この前葬儀に行ったよ。」

翔が答える。



沼沢というのは、俺達の担任の先生だった。


当時、今の俺らと同じ30歳だったと記憶しているから、生きていれば50歳。

男子にも女子にも大人気の、教師だった。



本当は今日の同窓会にもお誘いしていたのだが、この同窓会が企画された直後に亡くなったと聞いている。



「今年、小学校は廃校になっちゃったしな……」



俺達はしみじみと、月日が流れていくのを感じた。



俺達の住んでいた町は隣の大きな市と合併されたが、過疎化が進んで、子供の遊び声で賑わっていた団地も、老人だらけになった。


母校である小学校も合併されて、俺達の小学校が廃校という流れであった。




「ねぇ、小学校といえば……私達、タイムカプセル埋めなかったっけ?」


クラスメートの女子が言った。


「お、そういやそんなの埋めたな!!」

翔が相槌をうつ。



俺も記憶が蘇った。丁度、空前のタイムカプセルブームで。流行りものの好きな沼沢先生は皆に思い出の品や、大好きなもの…大切なものなど、何か一つ持って来なさいと、夏休みに入る前に言ったっけ。



で、先生が馬鹿でかい穴を掘ってくれてて、真ん中に入れ物が用意されてて。皆、その入れ物の中に投げ入れたんだ。



「なっつかしいなぁ~!!なぁ、これから皆でタイムカプセル掘り起こさないか?」



クラスメートの誰かが叫んだ。



俺達3人はいいね、と直ぐさま話に乗ったが、女性陣は難色を示した。

帰りが遅くなるから、という者。夜の学校は怖いから、という者。理由は様々だったが、結局同窓会がお開きになった後、男性陣8名、女性陣3名で掘り起こす事となった。




***




スコップやシャベルは、学校の近くに住む奴らが自宅から担いできた。



廃校になった学校は真っ暗でなんとも不気味だ。


俺達は、記憶を手繰りながら、

タイムカプセルを埋めた場所…学校の裏庭にまわった。



月の明かりが木々に阻まれ、闇は更に深くなる。懐中電灯がなければ、木の根に足元をすくわれそうだった。



一際大きな桜の木。その下にある花壇。……変わらない、光景だった。

変わったところと言えば、花が彩りよく花壇に咲き誇るのではなく、雑草が伸び放題になっている事か。



「確か、花壇の右脇だったよな」


誰かがそう言うと、皆が一斉に同意した。



男性陣を中心に、代わる代わるその場所を掘りはじめた。




30cmは掘っただろうか。まだ、土以外の感触が手に響く事なかった。



「沼沢先生、掘りすぎwww」



口々に軽く文句を言いながら、それでも手を休める事はなかった。


「てかよ~、俺達は10人以上いるからまだ掘る気になるけど、沼沢は一人でこんな深くまで掘ったんか?有り得ね~~」


「何埋めたか覚えてる人いる~?」


「あたし覚えてるょ♪」


「え~、何何?」


「内緒っ」


「すぐばれるだろ」


「それもそぅだね(笑)」


「お!今何か土以外の感触が!」


「ぇ!?」


「……と思ったらゴミだった」


「なんだよ(笑)!!」


「んだよこれ~…段ボール?」


「あ!そういえば、湿気が下にいかない様に…って、箱の上に土盛った後、沼沢先生段ボール敷いてたね?」


「あ~…そう言われてみると、そんな事やってたよーな…」


「ビニールじゃないと意味なくね?www」


「どうだろな(笑)まあ、一先ず場所を間違えてはいなかったな!」


「安心したよ~♪後少しだねっ!!」


皆が和気あいあいと盛り上がった、丁度その時。



カツ…ン……



明らかに、金属音と思われる音が響いた。




「…っきゃ~~~~!!!やったやった!!出てきたよっ!!」


女性陣がきゃあきゃあと騒ぐ中、男性陣は最後の仕上げ、とばかりにタイムカプセルの全体が出てくる様に、夢中で土を掘りまくった。



「ようし、開けるぞ?」



クラスメートの男が言うと、反対意見が出た。



「上からだと、見にくいんだけど…」


「え~、これ外に出すのはシンドイぜ~?」


タイムカプセルは、今見ても巨大だった。1m×60cm位はあろうか、うちにあるリビングテーブルもこれくらいの大きさだ。


確かに大きいが、ぬいぐるみとかを入れてたいクラスメートもいたので、当時はこのタイムカプセルがいっぱいになった記憶はある。


「まぁ、結局コレごみとして出さなきゃいけないだろうから、今出しても後で出しても同じじゃん?」


翔がそう言って、結局二人の男でタイムカプセルを持ち上げ、上の男が受け取る事になった。





「せ~のっっ……」




今、20年間外気に触れず、静かに時を見守っていたステンレス製の箱が、その役目を終えようとしていた……




***




一同は、ぽっかりあいた穴をじっと見つめた。




先程迄の騒ぎ様は何処へやら、しん………と静まり返り、話す者は誰一人いない。





タイムカプセルは、地上に持ち上げられた今も、その蓋が開かれた形跡はなかった。







俺は重い口を開いた。



「……今、違和感に気付いたよ。なんで俺達は『タイムカプセルを埋めず』に『タイムカプセルに投げ込んだ』のか」



翔が言った。



「……確かに、これなら沼沢は一人で穴を掘って、これだけ大きなタイムカプセルを用意するはずだな……」







女性陣は泣き崩れた。





「……あれってやっぱり……」



「晶菜ちゃん……?」






その穴の、最奥には。





子供のものと思われる白骨が、膝を抱えるように眠っていた……


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