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肝試し

俺の呼びかけで、自分が所属するイベントサークル……別名飲みサークルは、肝試し大会を初めて開催する事になった。



サークルに所属している者は約100名だが、実際に頻繁にイベント企画(別名飲み企画)をしたり参加する者は20~30名、誘えば来る者が20名、後は誘っても来ない幽霊部員だ。



先ずは肝試し大会の全容を大まかに常連の10名位で決め、実際に来る人数によって、幽霊役(脅かし役)の人数を決めよう、という運びになった。



場所は、大学から歩いて10分程の寺で、隣接するお墓もコースに組み込んだ。



普通、大学生50人が寺にワヤワヤ押しかけたら苦情がでそうなモノだが、なんとその寺の一人息子がこのサークルに入っており、更に常連なんて立場でいらっしゃっるから有り難い。



そんなワケで、話はスムーズに運んだ。



肝試しは結局、驚かし役5名、進行役3名でその他一般参加が46名、という運びになった。



ルートをしっかりまわった証拠として各所にスタンプを用意し、それを順番に押してくる、というものだ。



驚かし役以外にも、ちょっとした(骸骨などの)小道具も本格的に用意した為、意外とやる事も多く、開催の日まであっという間だった。



驚かし役は、どんな驚かし方をするのか5名だけで話し合った。



結局、こんにゃく役1名、悲鳴をテープで流す役1名、幽霊役が3名で、幽霊役は各自自分でどんな格好をするのか、被らない様に決める事、となった。



俺は企画者兼幽霊役となり、他の幽霊役が各自イメージ貞子、イメージゾンビ、と言うので、イメージ血だらけで脅かす事に決めた。



本当は、地面に下半身が埋まる程度の穴を掘って、上半身とその周りの地面に血を垂らす演出をしたかった。



……が、その寺の息子に「穴掘りたい」と言ったら、「却下www」と即断られてしまったのだ。



その演出をスバラシイ!と思った俺はその案に未練タラタラだったが、確かに血のりが地面に残っていたら後日墓参りに来た人が気味悪く感じるだろうし、何より自分が下半身埋まるとその場から動けなくなるだろうし……って事で、やむなくこの案は諦めざるをえなかった。





肝試し大会当日。



月が綺麗に出て、それとなく風がそよぐ、肝試しを開催するにはうってつけの日だった。



俺達驚かし役と進行役は、19時集合のところ、18時には集まっていた。



進行役は、参加者に渡す地図を人数分揃え、スタンプの設置や俺達の小道具の設置を手伝ってくれた。


俺達は、メイクやカツラや衣装、血のりでフル装備をし、お互いに自分では手の行き届かないところを手伝った。



「うちの墓、意外と広いからな!オバケ役、迷子になんなよ(笑)?」


「ばーか、なんねーよ!!」


「オバケ役がビビってんじゃねーぞー?」


「誰がビビるかよ(笑)!!てか今回、誰か漏らしたらどーすっかね♪♪」


「ヤダー」




集合15分前。企画側がそんな馬鹿な事を言い合っていると、一つのグループが近づいてきた気配がした。



脅かし役は、目配せをし合い、それぞれのポジションにつく事にした。




***




肝試しが始まった。


和太鼓が、その開始を告げたのだ。



進行役は和太鼓を用意し、肝試しの始めと終わりに3回、それ以外…各グループが出発する時には1回鳴らす事を合図に決めていた。




俺の持ち場は、丁度折り返し地点……つまり、一番スタート地点から遠い場所だった。



サークルメンバーがきゃあきゃあ言いながらも、地図通りにこちらに向かって来る。



1回につき、2~3人のグループにわけてスタートしているので、こちらも一番驚きそうな女の子を狙う。



泣くコもいたので多少困ったが、大抵は悲鳴を上げてながらも適度に恐怖心を味わった様だ。



とある仲の良い男の2人グループが来た時には、最初は一応驚かすという仕事はしたが、直ぐにサークルメンバーの反応が気になり、思わず聞いてしまった。



「なんだお前か!いやいやスゲー評判いいぞ、この肝試し(笑)!女の子が抱き着いてくるとか、手を繋げるとか言ってたぜ~」



二人は笑いながら、なんで男二人で組んじまったんだ、と言い合った。

俺も参加者になりゃよかった、と、笑った。



すると、二人は顔を見合わせた。



「あのな、秘密にしてくれって言われたんだが…、実は、驚かし役の5人も肝試し気分を味わえる様、サプライズが用意されてるらしいぞ?」



「なんだよ、それ。詳しく聞かせろよ!!」



「ハハハ、まぁこれ以上は後のお楽しみって事で」



二人は笑いながら、再びルートを歩いて行ってしまった。




***




和太鼓が3回鳴り、肝試しの終わりを告げた。



俺は、隠れていた場所から、真っ直ぐにスタート地点に向かう。



サプライズは、大抵想像が着いた。



「オバケ役がビビってんじゃねーぞー?」

と、寺の息子が言っていた。


恐らく俺ら驚かし役を驚かす役、がいるのだろう。



俺は怖がりではないが、流石に企画者として、ブザマな姿をサークルメンバーに見せる事はできない。



……何も見逃すまいと、急に何かが出ても、悲鳴はあげまいと……慎重に、足を進めた。



遠くの方に、メンバーが見えた。



その時。



自分の右手前方に、黄色い開いたまま転がっている傘を見つけた。



俺が持ち場に向かった時には、なかった物。

黄色い傘なんて、目立つ物見逃す訳がない。



直ぐに、この傘がサプライズだと気付いた。

こちらに開いた形で置いてあるのが、そもそも怪しい(笑)




無視する事も出来るが、そうすると後ろから何かされた時に思わず声が出てしまう、かもしれない。



微かなプライドが、俺をその傘へと歩かせた。




傘を持ち上げたら、中に何か入ってるかもな……いや、柄の部分に何か仕掛けがあるかも……予想しながら近づくと、傘は俺の3メートル位向こうで、ゆっくりと持ち上がった。





「……なんだよ、オイ。パクリかよ~~!!」




俺は、目の前のオバケ役を見て失笑してしまった。




なんせ、俺が始めにやりたい、と言っていたオバケ役がそこにいるからだ。





傘の後ろに隠れて見えなかった女性は、下半身を土の下に隠して、顔を下を向け、俯いている。

髪は長く、ずぶ濡れだ。……前髪が表情を隠して、いかにも、といった風情だった。





「あのヤロー、何が『却下www』だ!!俺のアイデア盗みやがって……!!」




俺は、オバケ役に手を振りながら、毒づいた。



「女の子なのに大変だな、そんな事させられて……」


下半身を穴に埋めるのだって女の子なら嫌だろうし、土だってそれなりに重みがある。

更に、夏とはいえ、夜にずぶ濡れにさせられるなんてたまったもんじゃないだろう。






俺がそのコに近づくのと。
















そのコの




上半身が




近づいて来たのは





同時だった。

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