不幸の手紙
「よぉ坂田!久しぶりだな!!」
「ああ、久しぶり新保。急にすまんな、わざわざこんな遠くの店まで呼び出して」
「いや、気にすんなよ。この店もかなり懐かしいな……まだ潰れてなくて嬉しいしな、大学の帰りによく寄ったよなぁ――で、何かあったのか?」
「まあまあ、いきなりその話もなんだし……一先ず何か飲もう」
「あ、俺も瓶でいいや」
「んじゃコップ出せ」
「久々の再会に乾杯!!」
「新保、お前まだ独り身なのか?」
「ああ、今だに独身貴族って奴さ♪まあ気楽にやってるよ」
「そうか……それは何よりだ」
「坂田、お前は昔から真面目だったからなぁ~!見合い結婚した奥さんとは上手くやってのか?」
「ああ、勿論さ。今年5歳になる息子は覚えてるだろう?その下に今年、娘が産まれたんだよ」
「お~、しっかり理想的な家族を歩んでいるね、坂田君(笑)」
「お前は今恋人とかは?」
「あー、今はフリーかな。どうも縛られるのに嫌気がさして、結局すぐ別れちまう」
「う~~ん、お前の場合仕事がなぁ……」
「まぁ、一応刑事だし」
「昔から、俺が何かしら困るとお前に相談してたから、今回も……気が引けるんだけど」
「あっはっは!!懐かしいな!坂田が事故った時とか、変な奴に因縁つけられた時とか、ペンキ塗り立てのベンチにあやまって座った時とか……よくまぁ携帯ない時代に呼び出されたよなぁ(笑)」
「半分位新保のいたずらだった時もあっただろ!バレンタインに男からチョコ貰って本気で悩んでた時、新保に相談したじゃないか。お前無視しとけって笑い転げてただろ?けどあの一ヶ月後、ホワイトデーにその男に義理の飴渡して断ったら、『新保さんに頼まれて……』とかって謝られたんだぞ!!」
「まあまあ昔の話だ。俺の軽いジョーク位受け流してくれよ(笑)」
「確かに今となっちゃ笑い話だけどな……お前も刑事になった事だし、真面目に相談なんだが」
「ん、どうした深刻に。金は貸さないぞ」
「金だったらいいんだが……この手紙を読んでくれ」
「えーっと何々……『不幸の手紙。この手紙を受け取った方は、1週間以内に10人の者を殺さないと、あなたの大切な者が殺されます。……凡人より。』なんだ、こりゃ」
「この手紙が、俺の宛名で投函されてたんだ」
「あー、こりゃ無視の部類だろ。無視無視」
「そうかもしれんが……娘が、3日前に大やけどを負ったんだよ」
「ええ!?……たまたまだろ。けど、大丈夫だったのか?傷は……」
「ああ、幸い跡も残らないらしい。……が、昨日は息子が自転車で派手にこけて流血沙汰でさ……」
「偶然は重なるもんさ。それで昨日、急に今日会いたいって言って来たんだな」
「ああ。警察はこんなんじゃ動いてくれないだろうが……」
「俺だって流石にこれは悪戯だって断言するね」
「ほんとにそうだろうか……」
「そりゃそうさ。昔から『不幸の手紙』なんてよく聞いたじゃないか。まあ、昔は『不幸になりたくなかったら10人に不幸の手紙を送れ』だったけどな」
「そっかぁ……気にしないでいいかな……」
「お前は真面目過ぎなんだよ(笑)さ、ここはそろそろおいとまして、次は若いネーチャンいる所行こうぜ」
「あのさ……」
「あ、こっちの道通った方が早いんだよな」
「もう一カ所、寄りたい所あるんだが」
「ハハ、真面目な坂田の寄りたい所……ぜってーネーチャンいない気がするが、まあいいか。久々だしな♪♪」
「おい……これ……死体だ!!」
「だな」
「早く警察に連絡を……って坂田!!何するんだ!!」
「不幸の手紙を受け取って、明日で一週間たつんだ。今、ここには8人の死体がある。お前は独り身だし……悪いが9人目になってくれ」
「おい、早まるな!!一先ず俺の話をき――――!!!!!!」
「……すまんな……家族を守りたいんだ……けど、せめて最後の10人目は俺だ」
***
ああ、失敗した。
いくら坂田がどんなに真面目だからといっても、まさか本当に人殺しをするとは――思っていなかったんだ。
相談されるだろ、と気軽に悪戯しただけだったんだ。
久々に飲みたいなと思ってさ。
娘や息子の事故が起きて……お前が手紙を本気にするなんて、予測してなかったんだ。
最後に種明かしをするつもりだった。
凡人、ひっくり返してみな。
ぼんじん。
じんぼ。新保。
すまんな、不幸の手紙なんて出して。
お前の悩む顔を久々に見たかっただけなんだよ――……